第171話 元S級ハンター、きな臭い話を聞く
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一旦、宿泊施設に戻ってきた俺たちは、しばしスイートルームに引き篭もる。
大人たちはリルに甘えるプリムを除けば、みんな神妙な顔をしている一方、発端となったシエルは上機嫌だ。スライム君と思っているエシャラスライムと戯れている。その横では姿をさらした木の精霊キュールが目を光らせていた。
エシャラスライムが何かシエルに危害を加えようとした時に守るためだ。
「シエルちゃんのためとはいえ、エシャランド島固有の魔物をホテルに連れ込んじゃったけど……。これって、見つかったらヤバいわよぉ。どうするの、ゼレットくぅん」
エシャランド島は愛されキャラであるスライム(人間用にカスタマイズされた合成魔獣だが)だが、エシャラスライムは本物の魔物だ。本来、ハンターがいれば駆逐されて然るべしだろう。
しかし、エシャラスライムとなると話は違ってくる。
「確かに本物の魔物を連れ込んだのはまずいけど、今のところ人間に害をなすような感じがしないけどねぇ」
「同感ですわ。とっても可愛いですし。……病原菌などを運んでくるとかでしょうか?」
「びょ、病原菌?」
ラフィナの言葉を聞いて、パメラは慌てる。
シエルからエシャラスライムを離そうとするが、その1歩前でオリヴィアに止められた。
「落ち着いてください、パメラさん。大丈夫。病原菌の類はありません。わたしの『戦技』【鑑定】で確認しましたから」
「そう。良かった」
パメラはホッと胸を撫で下ろした。
「そのエシャラスライムはもう大丈夫だ。どうやらシエルに恩を感じているらしいから、危害も加えることもないと思う。問題はどうしてここにエシャラスライムがいるかってことだな」
「エシャラスライムってエシャランド島固有のスライムなのでしょう? なら、1匹ぐらい紛れててもおかしくないと思いますけど……」
ラフィアが意見を述べる。
首を振ったのは、ギルドマスターだ。
「ラフィナ様……。エシャラスライムはこの島特有のスライム種なんです。魔物ではありますけど、保護しておりまして、島のずっと南に生息しているんですよぉ」
ギルドマスターのいう通りだ。
だが、まあ……、保護という観点だけではないがな。
「そもそも臆病な性格の魔物だ。滅多に人里には現れない。毎日音を出して、人が練り歩いていれば、尚更だろう」
遊戯施設の園内パレードの音が、宿泊施設の部屋にまで聞こえてくる。
どうやら佳境に差し掛かっているらしく、盛大に花火が上がっていた。
空に大輪が光るたびに、大きな歓声がなり、ガラス戸をビリビリと響かせる。
こんな毎日お祭り騒ぎでは、たとえエシャラスライムでなくても、音に敏感な魔物は近づきたく無いはずだ。
「今思ったんですけど、何かおかしくはなくて?」
ラフィナが手をあげる。
「そんな保護が必要な魔物がいるところに、どうしてリゾート施設ができたんでしょ? しかも、魔物にストレスがかかるような大規模遊戯施設なんて。いつ魔物が暴走するかわからないのに」
「そうねぇ。ストレスが溜まるのは、人間も魔物も一緒……。なのに大規模施設って……」
「国の許可がとられてな~い?」
ギルマスの言葉に、ラフィナは首を傾げる。
なんだかきな臭い話になってきた。
国が関わるような厄介ごとはもう御免だぞ。
ただでさえ、英雄だ、勇者の再来だと持ち上げられて、気軽に外も出かけられないのに。
「今、大事なのはエシャラスライムが何故ここにいるか、ということではないでしょうか?」
「オリヴィアのいう通りだ。そのエシャラスライムがお腹を空かせていたことも気になるしな」
保護されているエシャラスライムには、移動しないように定期的に餌が与えられていると聞く。
そのエシャラスライムが、お腹を空かせていたのだ。
何かが種全体に起こっていると考えるのが、妥当だろう。
「でも、手をこまねていると、こっちが犯罪者になるわよぉ」
「そうだな………………っ!!」
俺は顔を上げる。
リルも、その背に乗っかって寝ていたプリムも耳と尻尾を立てた。
俺たちの反応を見て、パメラ以下は声を顰める。
シエルだけがキョトンとしていたが、キュールが静かにするようにゼスチャーを送っていた。
コンコン……。
聞こえてきたのは、ノックの音である。
続いて、本当に宿泊施設の給仕とは思えない濁声が聞こえた。
『ルームサービスです』
明らかに怪しい……。
このまま居留守を決め込もうとしているが、おそらく向こうも部屋に人間がいることを確認できているのだろう。
出なければ、問答無用で踏み込んできそうな気配を感じた。
「そんなものは頼んでいない」
『……すみません。今のは嘘です。1度言ってみたかっただけですよ』
「ふざけてるのか? いたずらなら、スタッフを呼ぶぞ」
『それには及びません。当方がスタッフですので。……失礼ながら、お客様。スライムをお持ち込みではありませんか? お客様が変わったスライムを部屋に持ち込むのを見たというご連絡がありまして。困りますねぇ。いくらスライム君が可愛いとはいえ、部屋に持ち込まれるのは』
最初はふざけているのかと思ったが、最もらしいことを言われる。
「悪いが覚えがない。他を当たってくれ」
『せめて部屋を確認させていただけませんか? お客様が持ち込んだスライムでなくとも、もしかしたら部屋に侵入しているかもしれませんし』
俺はキュールにエシャラスライムを上手く隠すように命じる。
キュールは枝葉を伸ばすと、オブジェの中にエシャラスライムを隠してしまった。
シエルが泣きそうになるが、パメラがなんとか宥める。
「わかった。今、開ける」
『ご協力感謝申し上げます』
俺はそろりとドアに近づき、鍵を開ける。
ノブを握る前に、ドアは弾かれるように開いた。
俺は押し返そうとするが、その前に足を入れられた。
ひょろっとした小柄のドワーフだ。
一応、宿泊施設の従業員の制服を着ていたが、サービスマンとして洗練された感じがまるでしない。
「随分とガサツな従業員だな。ここの宿泊施設のマニュアルにはお客様の部屋にはドアを蹴破って入るとでも書いているのか?」
「黙れ! お前らがエシャラスライムを隠してるのはわかってんだよ」
やはりエシャラスライムが目的か。
ドワーフはどちらかといえば、力が強い種族だが、なんとか持ち堪えることができる。このまま押し込んでお引き取り願おうと思った時、ふっと部屋が暗くなったような気がした。
ガシャン!!
小さなベランダに出る硝子戸が盛大に弾ける。
現れたのは、大きな猩猩族の男だった。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!」
と胸を叩き、声を上げるのだった。
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