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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第8章 スライムの島編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

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第165話 元S級ハンター、背中を洗ってもらう

☆★☆★ 今週、コミック3巻発売です! ☆★☆★


コミックス3巻、今週発売です!

ラフィナとの出会いから、リヴァイアサン編の始まりまで網羅。

巻末には奥村先生書き下ろし漫画収録。Web版の話で未収録だったあの話を描いていただきました。

公式HPでは店舗特典が受け取れる書店様が発表されておりますので、お近くの方は是非ご活用下さい。


挿絵(By みてみん)

「ぱーぱ!」


 真っ白な肌を晒したシエルが、サラサラの金髪を揺らして、湯殿を走る。

 本人はパパを発見してニコニコ顔だが、俺としてはヒヤヒヤだ。

 濡れた湯殿の石畳みは、いくらトレッキング鍛えたシエルの足腰でも難易度が高い。


「あっ!」


 俺の心配は的中し、シエルは転ける。いや、転けそうになる。地面に膝や顔が打つ前に、シエルは空中で止まった。そのまま時間を戻すように、シエルは床の上に立つ。その後ろから現れたのは、キュールだった。


 俺はホッと胸を撫で下ろす。

 一方で湯殿の出入り口から影が伸びた。


「もう! 滑りやすいから走ったらダメって言ったでしょ!?」


 むっと頬を膨らませ、お冠なのは我が妻パメラだ。こちらはギルドマスターと同じく、白い布で肢体を隠している。普段ポニーテールにしている髪をお団子にしてまとめていた。


(――って、ちょっと待て。なんでパメラとシエルがここにいるんだ?)


 という疑問と同時に、横で湯船に浸かったギルドマスターに気づく。

 慌てて、俺はその目を塞いだ。


 いくら女か男かわからないとはいえ、生物学的に男だ。

 それが自分の娘と妻なら尚更見せることができない。


「見るな!!」


「ちょっとぉ~! ゼレットくぅん! 何をするのぉ? もしかして新手のプレイ? うふふふ……。楽しみだわぁ」


「気持ち悪いことを言うな。俺にはそんな趣味はない。……パメラ、お前なんでここにいる」


 俺はシエルを抱き上げたパメラに注意する。しかし、妻の方はパチパチと目を瞬かせる。


「何を言ってるのよ。私だって貸切風呂に入りたいわよ」


「ここは男湯だぞ」


「?? 何を言ってるの、ゼレット。貸切風呂に男湯も女湯もないのよ」


「なっ!」


「家族で借りてるんだもの、当たり前でしょ」


 さも当然という感じで反論してくる。


 公衆浴場で男湯女湯はわかるのだが、家ではそんなことはないからな。

 まあ、その理論で言うと、ギルマスはここから排除されてしかるべしなのだが……。


 いや、待てよ。


 ここが男湯だからこそギルドマスターが男だと思っていたが、混浴となると……どうなるんだ?


「オリヴィア、早く来なさいよ。すっごく広くて、素敵な露天風呂よ」


「オリヴィアまでいるのか?」


 俺が驚くと、脱衣室の方からオリヴィアの声だけが聞こえてきた。


『え? え? でもぉ……! そ、そこにゼレットさんがいるんでしょ。恥ずかしいですよぉ』


「大丈夫。大丈夫。何かあった時、私が本気で殴るから」


 おい、パメラ。

 それはちょっと男に対してご無体ではないのか?


「身体を隠していれば平気だって」


『そうそう。今さら何を気にする必要があるんですか』


『ええっ! ちょっと! ラフィナさまぁ』


「ら、ラフィナまでいるのか!!」


 呆気に取られていると、ラフィナがオリヴィアを連れてやってくる。

 2人ともパメラ同様に首下から太股まで布を巻いていた。

 いずれも髪を下ろし、繭玉のような白い肌を晒している。


 俺は反射的に後ろを向いた。


「ちょっ! お前ら、恥を知らないのか。俺がいるんだぞ」


「何? ゼレット、照れてるの?」


「あ、当たり前だろ」


「だって、あんた……。私と結婚する前とか裸のプリムさんと添い寝していても、全然興味を示さなかったでしょ?」


「犬猫の裸を見ても興奮するのか、お前ら?」



「師匠ぉぉぉぉおおおおお!!!!」



 突然、声が上から降ってくる。

 嫌な予感がすると思いながら、恐る恐る上空を見ると、上の部屋からプリムが落下してくるところだった。


 真っ裸で。


「馬鹿弟子!!」



 ドボンッ!!



 水柱が上がる。

 べったりと俺に胸を押しつけてきたのは、プリムだった。


「師匠、見つけた!!」


「馬鹿! プリム! お前、なんてつう入り方するんだ。せめてかけ湯をしろ!!」


「そういう問題なのかしら」


 俺の拘束から離れたギルマスがやれやれと首を振る。


 シエルが被ったお湯にキャッキャと笑うと、後ろの女子メンバーたちも釣られて笑うのだった。





「水着を着てるなら、早く言ってくれ」


 俺はシエルの頭を洗いながら、ジト目で今湯船に浸かっている女性陣を睨む。

 先ほどの俺と同じく、キィンキィンに冷えた麦酒で1杯やっていた面々は、嬉しい悲鳴を上げていた。


「ぷはっ! 乙女の素肌を早々大衆に晒したりしないわよ」


 パメラも温泉で飲む麦酒が気に入ったらしい。

 早速、2杯目を手酌している。


「それは旦那様以外には見せないってことですか。お熱いですわね、パメラさん」


 ワインをチョイスしたラフィナはグラスを揺らしつつ、先ほどの鯛のカルパッチョを摘まんでいた。


「相変わらずラブラブですねぇ、お二人とも」


 ギルマスと一緒にオリヴィアもニマニマと笑っていた。


 パメラの顔は真っ赤だ。

 湯あたりや、酒のせいではないだろう。

 そういういじりにパメラは昔から弱いのだ。


「…………うっ、ううっ」


 ついにはパメラは湯に顔を隠す。


「あら。図星だったかしら」


「当然ですよねぇ、パメラさん」


「も、もういいでしょ。こっちのことは!?」


 防戦一方である。

 やれやれ、助け船を出してやるか。


「ところでリルはどうしたんだ?」


 俺の質問に答えたのは、ラフィナだった。


「ああ。先ほど宿側と交渉して、厨房にある氷室に入れてもらいました。どうやら気に入ったようで、ぐっすり眠っているそうです」


 エシャランド島はヴァナハイアの東南に位置していて、結構暑い。

 リルはどっちかといえば、暑い地域が苦手だ。それでパフィーマンスを落とすほど柔な肉体ではないのだが、避けられるなら避けておきたいのだろう。


 モフモフの毛のストレスにもなるなら、しばらくそこで大人しくしてもらうのもいいかもしれない。


 冷たいリルの毛に埋もれるのも悪くないかもしれないからな。


「シエル、水で流すから目をしっかりつむれ」


「うん」


 髪を丁寧に洗ってやった後、お湯で洗剤を流す。高級宿泊施設だけあって、髪用の洗剤も完備していた。流してみると、なるほど、確かにシエルの髪がより一層輝いてみえる。


「よし。終わり」


「じゃあ、今度はシエルがパーパの背中を洗う」


「お。洗いっこしてくれるのか?」


「うん」


 シエルは慣れない手つきながら、石鹸を泡立てると、俺の背中をゴシゴシと洗い始めた。


 娘に洗ってもらう……。


 普段、家にいる時も度々やってもらう時があるのだが、こういう旅行先でやってくれる子どもの献身も格別だ。


「ぱーぱ……」


「ん?」


「いつもありがと!」


「………………シエル」


 良かった。


 シエルが俺の子どもで……。


 俺は幸せものだ。


「やだ。ゼレット、泣いてるの?」


「当たり前だろ」


 シエルが俺の背中を流して、感謝の言葉をかけてくれているのだ。

 泣かない父親がこの世にいてたまるか!



 ◆◇◆◇◆



 湯船にゆっくりと浸かり、冷えた麦酒を堪能し、子どもが背中を流してくれた。


 いい気持ちだ。

 心も身体も充実していくのがわかる。


 ハンターギルドで1人、ハンターとして働いていた頃に比べたら、今の生活は想像できなかっただろう。


 エシャランド島から見る夕陽を眺めながら涼んだ後、部屋に戻る。


 待っていたのは、エシャランド島の名物だった。


拙作原作『アラフォー冒険者、伝説となる』コミックス5巻が発売されて、

1週間が立ちました。編集さんからは非常に売上好調というお言葉をいただいております。

まだの方は是非お買い上げください。


挿絵(By みてみん)

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