第162話 元S級ハンター、魔魚のステーキを食う
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「うっっっまっっっっ!!!!」
うっっまっっ!!
なんだ、これは。
普通のマヨネーズ和えではないぞ。
いや、普通のマヨネーズ和えなんだろうが、ダブルランサーを和えるとこんなに違うのだろうか。
あのコリッとした弾力に、囓切った後に広がる風味はそのまま。
身によくのった脂の甘みが、マヨネーズの中にある卵黄の甘みと相まって、より味が引き立っているように感じる。
特筆すべきは微かに感じたダブルランサーの臭みがマヨネーズの酸味によって消えていることだろう。
つんとした酸味によって、臭みが消えて、さっぱりと食べさせてくれる。野菜との相性は当然いいから、一緒に食べると余計にキレのいい味を感じさせてくれた。
その後に、ピリッとくるからしのアクセント絶妙。
マヨラーである愛娘が太鼓判を押すのも無理はなかった。
「ぱーぱ、おいち?」
「おいち。おいち。ありがとうな、シエル」
そう言って、お礼代わりに俺はシエルの唇についたマヨネーズを拭き取る。
シエルはキャッキャと喜びながら、残りのダブルランサーのマヨネーズ和えを食していた。
3日目……。
ちょうど船旅も終わる頃、例の氷締めしたダブルランサーが解凍された。
さすがに数が数なので、これは身内だけで楽しむことにする。
特別に厨房を使わせてもらい、パメラが捌くと、早速ダブルランサー尽くしの料理を食べた。
一品目は、定番中の定番――刺身だ。
3日前に食べたが、鮮魚と熟成が進んだ魔物、どっちがおいしいか気になった。
この3日前、船の上なのでよく魚は食べたのだが、それでもダブルランサーは別格である。
3日前がそうであったように俺は塩をちょんと付けて食べてみる。
「うん。こっちもうまい!」
食感が変わっている。
こっちの方がやや軟らかい。
あの独特の弾力がなくなっているのは、ちょっと悲しいが、霜降りの牛肉のように口の中でふわっと溶けていく。
あの強い風味も健在だ。
熟成させたからだろうか。
3日前に食べた時以上に強く感じる。
口の中がまるでダブルランサーに乗っ取られてしまったかのようだった。
熟成といっても、新鮮な魚を、時間を置いて食べる行為である。
言い換えれば、腐らせていると言ってもいい。
何か臭みや変な苦みがあるのではないかと思ったがそうではない。
脂のとろける具合も、旨みも何もかもがパワーアップしていて、それでいて上品な味がたまらない。
鮮魚で食べた時は、漁師飯という感じだが、熟成させた方がコース料理を食べているかのような気品がある。
さて、試したのは刺身だけではない。
3日前のダブルランサーはほとんど刺身で消えてしまったが、熟成させた方は色んな食べ方をしようと決めていた。
照り焼き、大蒜ソテー、ピカタなど色々試してみたが、俺が気に入ったのは断然ダブルランサーのステーキである。
大振りに切ったダブルランサーの身を、酒、魚醤、みりん、大蒜に浸けて、しばらく寝かせる。
そこに片栗粉をまぶし、油を引いた平鍋で両面を焼く。そこに浸け込んでいた汁を投入し、軽く蒸し上げて、完成だ。
ナイフを入れると、ほろりと切れる身はよく付け汁を吸っていて、飴色に染まっている。
刺身だけでも十分おいしいが、こうやって贅沢に食べるのも悪くない。
「いただきます」
早速口の中に入れると、食べ応えがある厚切りの身が刺身以上に消えていく。
魚醤とみりんの甘みが蜜柑を搾ったみたいにダブルランサーの身の本来の味と一緒に弾ける。おいしさのあまり、机を叩いてしまった俺の無作法をどうか許してくれ。
大蒜のツンとした感じが、ややジャンクな感じを演出していて、腹が膨れていくのがわかる。
刺身もおいしかったが、ステーキも当たりだ。
今度、海に行くことがあれば、必ずダブルランサーは仕留めることにしよう。
もちろん、熟成と鮮魚どっちも食べられるように用意しないとな。
いつの間にか、グルメ旅になっていたが、俺の社員旅行はここからが本番である。
なんせまだ目的の島についてないんだからな。船旅だけでもう幸せいっぱいなのだが、ここからもっとシエルには幸せになってほしい。
そしていよいよ俺たちは、例の島へと到着した。
スライムの島――エシャランド島である。







