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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第8章 スライムの島編

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第161話 元S級ハンター、娘に食べさせてもらう

初の WEBTOON原作を務めた『ごはんですよ、フェンリルさん』が、

ハイクコミック、LINEマンガで始まりました。

おかげさまで、ハイクコミックではジャンル別1位、LINEマンガでは新着ランキング3位いただきました。

読んでくださった方ありがとうございます。

『魔物を狩るな』と同様、引き続きご愛顧いただければ幸いですm(_ _)m

「うめぇ……」


 やばっ……。

 涙が出そうだった。


 うまい。とにかくうまいしか言えない。


 軟らかい身だと思っていたが、そんなことはない。ある一定のところまで軟らかいのだが、そこからコリッとした程よい弾力が返ってくる。この絶妙な食感にともかく感動する。

 牛や豚、羊、そして三つ首ワイバーンなど様々な魔獣の肉や、魚の身を食べてきた。

 でも、どれとも違う。感動的な食感に、思わず涙腺が緩んでしまう。

 何気なしに仕留めたダブルランサーだが、よもやこんなにおいしいものはとは思わなかった。


「このコリッとした食感は鮮魚特有のものね~。やば~い。ほっぺた落ちちゃいそう」


「はい。一口食べるだけで口の中が驚いています」


「熟成した魚の軟らかい身の感じも嫌いじゃないけど、釣り上げたばかりの身の締まり具合は最高ですね」


 ギルマス、オリヴィア、ラフィナもダブルランサーの刺身に舌鼓を打っている。

 どうやら感動しているのは俺だけではないようだ。


 コリッとした食感を噛みきると、ドッと旨みが押し寄せてくる。

 風味が爆弾のように弾け、鼻腔を通ってスッと抜けていく感じがたまらない。

 身にのった脂は魚類に近い魔物とは思えないほどほのかに甘く、トロッと口の中に消えていく不思議な食感の演出に一役買っていた。


 魚醤も後で試したが、1番気に入ったのは塩で食べる方法だろうか。

 少しちょんと身の角につけた後、素材の味わいに感動した後で、ピリッとした塩がいい具合に舌を刺激してくる。


「おいしい!!」

「もっと生臭いと思ってたけど」

「全然そんなことはないな」

「釣ったばかりの鮮魚……、いやそれ以上だ」



 幸運にもご相伴に与れた乗客たちも、初めての食感と旨みに目を剥いていた。

 これでまた魔物食が広まりそうだな。

 こんな豪華客船に乗ってるのは、貴族ぐらいだろうし。こいつらがインフルエンサーとなって、領地でまた広めてくれることだろう。


「もしかして、ラフィナ。お前の仕込みか?」


「まさか……。そこまで商魂たくましくありませんわよ、わたくし。といっても、半分くらい期待はしてましたけど」


 ラフィナは軽く舌を出す。

 船上だからな。料理ギルド所属の俺たちが何もしないわけがない。

 その行動に期待していたというところか。

 相変わらず俺のクライアントは抜け目がないな。


 あとで知ったことだが、以前ラフィナが俺に依頼していた魔物のリストに、ダブルランサーが入っていたそうだ。

 以前から狙っていたのだろう。


「ラフィナ嬢!」


 数名の男たちがラフィナに寄ってくる。

 貴族というわけではないが、着ているものはなかなか上等だ。話を聞くと、上流の貴族たち専門の料理店の店主たちらしい。


「こんなおいしい魚……。いや、魔物がこんなにおいしいとは思っても見なかった。是非うちの料理店に……」

「いや、我が料理店をお願いします」

「私のところも是非!!」


 わらわらとラフィナに集まってくる。

 こういうことは日常茶飯事らしい。ラフィナは困惑するどころか、獲物がかかったとばかりに微笑を浮かべる。


「構いませんが、今あなた方が食べたのは一級品。今のように釣り上げることができるのは、我がアストワリ家が専属契約している食材提供者――ゼレット・ヴィンターだけですわ」


『おお!!』


 おい。ラフィナ。

 いきなり俺に振るな。


「彼は気むずかしい人間です」


「言い値を払おう。いくらだ」


「お金では動きませんよ。彼を動かしたいなら、Sランクの魔物の情報を提供していただかないと」


「Sランクの魔物……」

「目撃情報だけでもいいのですか?」


「ええ。是非。その情報の真偽が確認できれば、やぶさかではないですわ。ねっ、ゼレット様」


 本人の了解もなしに、話を進めないでほしいな。

 とはいえ、本当にSランクの魔物の情報というなら、ダブルランサーなんていくらでも仕留めてやるがな。


 料理人のネットワーク、領主に入ってくる情報というのは、ギルドでも手に入れられない情報が多い。

 そもそも料理ギルドが全力を挙げて、探してもなかなか確認できないのが、Sランクの魔物だ。

 リヴァイアサンの時はたまたま姿を見せたが、普通は人前に現れたりしない。


 それが王クラスとなれば、別だ。


「ああ。構わない」


 俺が頷くと、料理人たちは「おお!」と強く興味を示した。


 簡単に情報が手に入るとは思えないが、こういう地道な活動が実を結ぶこともあるだろう。


「ん?」


 横でプリムとリルが刺身を平らげる中で、パメラが調理を続けている。

 横ではシエルが指をしゃぶりながら、調理を見ていた。


「シエル、おいしかったか?」


 声をかけたが、シエルは首を振る。

 どうやらまだ食べていないらしい。


「魔物とはいえ、生魚をそのままシエルに食べさせるわけにはいかないからね。ちょっとした工夫をしようと思っているのよ」


「工夫?」


 パメラは調味料を揃える。

 卵、酢、塩、からし、橄欖油(オリーブ・オイル)をテーブルに並べた。


 卵黄に、酢、からしを入れて混ぜ、さらに橄欖油に数回に分けて、入れる。

 すると、黄色い生クリームのようなものができあがった。


「手作りマヨネーズか」


 パメラの十八番である。

 マヨネーズは最近市中で見かけるようになった調味料だ。パメラはそれを自作し、食卓に出している。


 市中のものよりまろやかで、ピリッとしている。シエルも銀米にかけようとするぐらい大好きだ。


 そのマヨネーズと、先ほど刺身にしたダブルランサー、野菜を混ぜ入れる。

 ダブルランサーは先ほどよりもさらに細かく、ブロック状に切られていた。

 おそらくシエルでも食べられるようにするためだろう。


「はい。できた……!」



 ダブルランサーのマヨネーズ和えよ。



 俺はどっちかというと、素材を活かした食べ方が好きだ。

 だから、刺身も塩で食べていた。

 こういう食べ方も否定するわけではないが、ちょっと勿体ない気がする。


 シエルはスプーンをぎこちなく使いながら、マヨネーズ和えを掬い上げる。

 マヨネーズに絡んだ桜色の身。黄色く濁った様は、なかなかおいしそうだ。


「ごくっ……」


 つい喉を鳴らしてしまう。


 さてシエルは小さな口に入れる。

 よく口の中で噛むと、その瞳が一際大きく輝いた。


「おいしぃいいい!」


 声を上げる。

 大好きなマヨネーズに、おいしい刺身なのだ。シエルとしては大満足だろう。

 ダブルランサーの身の歯ごたえに驚きつつ、満足そうにご飯をゆっくり食べている。

 見ているとこっちまでお腹が空いた。


「パメラ、俺も一口いいか?」


「はい。パーパ!」


 妻の許可を取る前に、シエルがスプーンを差し出す。そこにはマヨネーズがかかったダブルランサーの刺身がのっていた。


「いいのか、シエル?」


「パーパ、とった。パーパにあげる」


 やばい。今の聞いただけで泣きそう。


「何を泣いてるのよ、ゼレット」


 パメラは苦笑いだ。

 仕方ないだろう。愛娘が俺を労って、自分のご飯を俺にあげようとしているのだから。泣くに決まってるだろ。


「はい。パーパ、あーん」


 しかも、食べさせてくれるらしい。

 どうしよう。このまま幸せすぎて、船が転覆したりしないよな。


「あーん」


 パクッ!


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