第152話 元S級ハンターのS級ハンター
「その伝声石を貸せ」
俺は黒服に言う。
いきなり言われて黒服は戸惑っていた。
主からの指示を待ったが、向こうも向こうでキレている。
ルカイニは今まで自分の思う通りにやってきた。
だが、ここまで思う通りにできない人間に会って、どうしたらいいかわからないのだろう。
『よーし! 今からお前の妻を嬲ってやろう! それとも犯してやろうか。わしが抱くには少々安っぽい顔立ちだから、他の者に相手をさせてやる。お前がここに来るまで、誰ともわからないぐらいまぐわせて、誰ともわからない男の子ども産ませてやる』
挑発まで安っぽい。
段々と化けの皮が剥がれてきたな。
悪党なんてそんなものだ。
自分の思う通りにいかなければ、どんな悪行も安っぽいガラクタ以下になる。
俺はまごまごしている黒服から伝声石を奪う。
黒服は俺から奪い返そうとするが、その前に気絶してしまった。やったのは、ヴィッキーだ。
「大丈夫か、ゼレット。お前、本当に冷静か?」
「ああ。冷静だ。いつも通りだよ」
ヴィッキーはジッと俺を睨む。
俺の黒い眼を見て、何かを悟ったらしい。
「こんな時でも、お前はハンターだな。いっそ戻ってこいよ。食材提供者なんてやめて」
「嬉しい誘いだが、お断りだ。家族がいるのでな」
「へっ!」
ヴィッキーは笑う。
俺が行こうとすると、立ちはだかったのはガンゲルだった。
「ゼレット、わかってるだろうな。いくら悪人とはいえ」
「わかっている。まあ、ただし――――人間としては壊れるかもしれないがな」
「よろしい。私はハンターギルドのギルドマスターだ。マンハントを雇った覚えはないからな。私はともかく、お前の師匠に誓え」
「ああ。もちろんだ」
俺は歩き出す。
その間も、ルカイニの声が伝声石から聞こえてきた。
まるで呪いを吐き出すように汚い言葉で俺を罵っている。
そのすべてを無視して、俺は外に出た。
背後にはプリムとリルが立っている。
「いつも通りだ。リル……」
リルは鼻を掲げると、四方を嗅いだ後、顔を西の方に向けた。
すると、その方向を見て、プリムは目をこらす。
当然、地平があり、その先は見えない。
だが、プリムにはその先が見えているらしい。ギュッと凝視した後、プリムは指差した。
「師匠、あっちだよ」
「よし。わかった」
「でも、かなり遠いよ。大丈夫?」
「誰に言ってる?」
俺はS級ハンターだぞ。
【砲剣】の槓桿を引く。
俺は長い銃身を空に向かって立てた。
すると、腰につり下げておいた伝声石から、ルカイニの声が聞こえてくる。
『貴様! さっきから何をやっている。まさか我らをそこから狙撃するつもりか! 馬鹿が! そこから撃って当たるものか。どれだけの距離が――――』
ドォンッ!!
【砲剣】が文字通り火を吹く。
俺の『魔法』が込められた一射は凄まじい速度で空へと向かい、そして彼方へと落ちていく。
『はっ……。なんだ、それは? あれか? 妻を弔う空砲か? 潔いことだ。だが、我をここまで虚仮にしたのだ。お前、妻を犯して、八つ裂きにして、そこら辺のドブ川に捨てた後、お前の死体もその川に……』
「8、7、6、5……」
『貴様聞いているのか? そもそも一体、さっきから何を考えている』
どぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおぉおおおおおおおお!!!!







