第140話 公爵令嬢、蛇の道へと進む
☆★☆★ コミックス2巻 書影公開 ☆★☆★
『魔物を狩るな~』コミックス2巻の書影公開です。
今回はちっちゃくて、おっきなギルドの受付嬢オリヴィア。
メインディッシュは、三つ首ワイバーンのステーキとなっています!
どちらもおいしいので(意味深)、是非是非ご賞味下さい。
8月19日発売。ご予約よろしくお願いします。
ゼレットが山でリンに対して、少々過激な尋問を行っている間、ラフィナも動いていた。
リンの釈放は、いくらルカイニに権力があろうと尋常ならざる出来事だ。
とても彼1人の力と思えなかった彼女は、女王にお目通りを願った。
しかし、最近女王の体調が悪いらしい。
実現することはなかったが、代わりにラフィナの質問状に対して1通の手紙を寄越した。
その手紙には、一言こう書かれていた。
蛇の道は蛇……。
「どういうことでしょうか?」
ラフィナから受け取った手紙を見て、オリヴィアは首を傾げる。
当のラフィナにもわからないらしく、肩を竦めた。
その手紙を持ち上げ、「ふむ」と首を捻ったのは、ギルドマスターだ。
「多分、蛇はルカイニ公爵のことを指しているのだろうけど……」
「ルカイニ公爵と肩を並べるような蛇――つまり、悪者の存在ということでしょうか?」
「ルカイニ公爵と肩を並べるほどの悪者ねぇ。そんな人がいたら、苦労しませんわ」
「あら。あたしは気づいちゃったわよ、1人」
ギルドマスターは口角をつり上げた。
◆◇◆◇◆
王立高等刑務所。
ここは犯罪を犯した伯爵以上の貴族が刑に服す場所である。
比較的軽い罪を犯した貴族がほとんどで、お家潰しや爵位剥奪などを受けた貴族は、平民身分の者と同じ刑務所に入れられ、臭い飯を食うことになる。
その点で高等刑務所は、貴族の華やかな生活ではないにしろ、整った環境とそれなりの食事、自由が与えられている。
ただ労役はあり、写本作りや魔法灯の作成など、比較的高度な知識を要するものが与えられていた。
そしてデリサ・ボニス・ヘンデローネも、その1人であった。
かつてハンターギルドを掌握し、魔物保護政策を強行に推し進めていた彼女は女王の怒りに触れ、北の地へと流罪になった。
その後、土地を抜け出し、ケリュネア教に身を置いたが、この件には情状酌量の余地があるとし、今この王立高等刑務所に収監されていた。
流罪となった折、爵位を剥奪されたが、カルネリア王国のヴァナレン王子の助言もあって、一旦棚上げされた状態になっている。
「大きくなったわね、ラフィナお嬢様。あの生意気な娘が、さらにクソ生意気になった感じだわ」
ヘンデローネに会いにわざわざ王立高等刑務所にまで足を運んだラフィナを見るなり、悪態を吐く。
「相変わらずで何よりですわ、ヘンデローネ様。でも、淑女が『クソ』なんて言葉を使ってはいけませんわよ」
ラフィナも負けていない。
しかし、彼女の言う通りヘンデローネは変わっていなかった。
体格もそうだが、ウェーブがかった紫色の髪と、同じ目の色の輝き。顎下の脂肪もそのままで、色つや良く血色も悪くない。
おそらく刑務官を買収して、それなりにいい暮らしをしているのだろう。
(ケリュネア教のことや、その前の魔物保護政策のことで痛い目を合っているのに、相変わらず息を吸うように犯罪を犯してますわね、この方)
それがなんでエルフたちを助けたのかわからない。
今の生活になることを狙ってやったというなら、大したものだ、とラフィナは感心した。
(しかし、逆に言えば、まさに『蛇の道は蛇』に打って付けの人材でしょうね)
口元を隠しつつ、ラフィナは微笑んだ。
それを見て、訝しげにヘンデローネは睨む。
「何よ。気持ち悪いわね。あたしに何か用があるんでしょ、小娘」
「ええ……。単刀直入に申し上げます、ヘンデローネ様。ルカイニ公爵のことはよくご存知ですよね」
カシャン!!
突然、ヘンデローネは目の前のカップを落とした。
偶然ではない、わざと落としたのだ。
当然、紅茶が入っていたカップはバラバラに砕け散っていた。
しかし、カップを落としたところでここは刑務所である。
家臣が飛んでくることもなければ、等間隔に配置された刑務官が叱責するわけでもない。
基本的に自己責任である高等刑務所では、たとえ貴族であろうと割れたカップを拾わなければならなかった。
「ラフィナ嬢、カップを拾うの手伝ってくださる」
「え? ええ……」
ラフィナはヘンデローネと一緒に割れたカップの破片を拾う。
すると、ヘンデローネはラフィナと額を付き合わせ、囁いた。
「こんなところで危ない話をするんじゃないよ、小娘」
「どういうことですの?」
「ここは、いやヴァナハイア王国の関係機関のすべてがね。ルカイニの領地みたいなものなのさ。うっかり陰口でも叩こうものなら、すぐにあの爺さんの耳に入る。覚えておきな」
ラフィナは反射的に二の腕をさすった。
王宮に顔を利く程度だと認識していたが、とんでもない誤解だったらしい。
ならば、こちらの動きが筒抜けだったのもわかる。
リンがゼレットたちをすぐ見つけたのも、ギルドの動きを把握していたからだろう。
だが、ヘンデローネを当たって正解だったらしい。
「ヘンデローネ様」
「なんだい改まって」
「これまでのわだかまりがあるとは思いますが、どうかお力をお貸しいただないでしょうか?」
「悪いけど、あたしもあの爺さんに生かされている方なんだよ」
「どういうことですか?」
「ケリュネア教の一件で、こっちに戻ってきて、もう3年も経ってるんだよ。それなのにあたしはなんの沙汰もなく、何故この箱庭で穏やかに過ごしていられるか。理由があんたにわかるかい」
「ヘンデローネ様がルカイニ公爵の情報を握ってるから?」
「そうさ。あたしが変なことを口走らないように監視してるのさ。といっても、殺されないところを見ると、あたしが持っている情報が漏れても、ルカイニの爺様には何のデメリットもないってことだけどね」
「それでも……。それでもお願いします、ヘンデローネ様。どうかお力を貸していただけませんか?」
ラフィナは立ち上がって、頭を下げる。
深々と下げた年少の公爵令嬢を見て、ヘンデローネも無下にはできなかったらしい。
ヘンデローネはカップの破片を拾い上げると、1つ息を吐く。
すると、パチンと指を鳴らした。
1人刑務官が近づいてくると、ヘンデローネは指示を出した。
「悪いけど、人払いを頼むよ。監視用の使い魔もね。あと、この娘の出入記録も消しておきな」
それだけ言うと、刑務官は何も言わずどこかに言ってしまった。
ラフィナが質問する前に、ヘンデローネは答える。
「蛇の道は蛇ってね。……といっても、いずれあんたとあたしが接触したことは、あの爺さんにはバレるよ。いや、もう耳に入ってるかもしれない」
「覚悟の上です」
「あたしは覚悟できてないんだよ。情報を提供する代わりに、あたしの身の保証もしな」
「具体的には?」
「そんなの自分で考えな」
「では、隣国の亡命などはいかがでしょうか?」
「即答かい。当てはあるんだろうね」
「清い水だけでは、魚は寄ってきませんわ」
「アストワリ公爵家にも、裏稼業があるということかい。なんで、今の現当主を頼らずに、あたしを訪ねたんだい?」
「ルカイニ公爵の力の強さは理解しております。いざという時、わたくしの独断で行ったことにし、家名を傷付けないためですわ」
「娘にゾッコンのあの父親がそれを許すとは思えないけどね。というか、父親が狙われるのは、ダメで。あたしはいいっていうことかい? あんた、いい公爵令嬢になったよ」
「お褒めに与り光栄ですわ、ヘンデローネ様」
「褒めてなどないよ」
ラフィナの強い意志を確認したヘンデローネは、場所を移すのだった。
表紙も中身も面白いので、コミックスよろしくです。
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第1章が完結しましたので、まだ読んでない方は是非応援よろしくお願いします。







