第119話 プロローグⅡ
☆☆ 「アラフォー冒険者、伝説となる」コミックス2巻 1月12日発売 ☆☆
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魔獣食材の偽装は2年前から確認されていた。
ちょうど食材の存在が、市井で知られるようになってからだ。
初めは既存の精肉店が赤字の補填のためにやったり、詐欺師が老夫婦など騙すような手口だったが、最近では食品にうるさい大手のレストランなどにも出回っていると聞く。
プロの目を騙すほど、巧妙になってきているのだ。
料理ギルドは見分け方をマニュアル化するなど、各店舗に対して警告し、さらに密告などの情報を得て、立ち入り調査なども行っている。
一方、ラフィナはニコラスの手を借りながら、王宮の役人たちを動かし、料理ギルドとタッグを組んで二重チェックをしてきた。
だが、成果は芳しくないどころか、増えて行く一方だ。
それどころか偽装食材に対する悪感情ならいいのだが、ヘイトは魔物食にまで及んでいることが問題である。
このままでは折角市民権を得始めた魔物食から人が離れていってしまう。
まさにラフィナにとって、正念場であった。
「懸念か……」
ニコラスは顎に手を当てる。
失意に沈むラフィナは、王宮の廊下を歩きつつ顔を上げた。
「あれはどういうことですか、父上」
「簡単にいえば、警告だよ。とはいえ、もっとも重い警告だけどね」
女王は国内で何か問題があった時、様々な段階に分けて言葉を送る。
『懸念』は『憂慮』の次に重く、今度もし問題が起こるようであれば、魔物食が禁止されることもあり得る。
迅速に、一刻も早く、問題を解決しなければならなかった。
「おや。アストワリ閣下ではないですか?」
ハッと前を見ると、エルフが立っていた。
しかし、ゼレットやパメラのように美男美女のエルフというわけではない。
随分と年老いたエルフだった。
白みががった金髪に、パッチリと開いた黄土色の瞳。肌は真っ白というよりは、青白く、鼻は長いがその先が鍵のように曲がっていた。
口は大きく、端が釣り上がっていて、常に笑っているように見える。
肩から真っ白なマントが垂れているが、清廉というイメージは貨幣の薄さも感じなかった。
「ルカイニ公爵閣下……」
ニコラスは破顔する。
だが、横で見ているラフィナにはわかった。
父の笑顔が、営業用のものであることは。
対するラフィナは、目の前の御仁を値踏みする。
他の誰とも違う。異様な空気を纏った老人。
まるで悪意そのものが固まったようであった。
「ご無沙汰しております」
「こちらこそ。お互い屋敷に隠居の身……。なかなか会うこともかないますまい。しかし、ここで会えたのも何かの縁でしょうな。どうですかな、これから」
ニカラスに会えたことがよっぽど嬉しかったのだろう。
ルカイニは手を杯の形にすると、ぐっと煽るような仕草を見せる。
しかし、ニコラスは笑みを絶やさず、やんわりと断った。
「お誘い嬉しいのですが、今日は娘を連れているのでこれで」
「そうですか。残念ですな。しかし……察するに女王の召喚に応じられたご様子。羨ましいですな、謁見の栄誉を賜るとは」
「そんなことはありませんよ」
「ほう……。お顔が冴えない様子。もしかして、不興を買われたかな」
「はい。厳しく指導をいただいたところです」
ルカイニの口調は次第に挑発じみていく。
内情を探ろうとする姿勢を隠そうともしない。むしろすでに何があったか知っていて、それを腹の奥底で楽しんでいるようにラフィナに見えた。
父の後ろで静かに義憤を燃やすも、ニコラスは冷静だ。
爽やかにルカイニの言葉を受け流していく。
「そうですか。それは災難でしたな」
ルカイニは声に出さず、肩だけを振るわせ笑う。
「ところで、閣下は?」
ニコラスは話題を、ルカイニに向ける。
エルフの老人は再び声もなく笑い、言った。
「わしも似たようなものですよ。それではここで。ご心配なく、女王のご機嫌はわしが治して差し上げよう」
ルカイニは杖を突き、歩き出す。
何事もなく去って行くかと思ったが、この奇妙な老人はしっかりと爪痕を残していった。
「少々大人をからかいすぎたな、小娘」
ラフィナと交差した瞬間、ルカイニは言った。
低く、薄く、暗い声。
それでもラフィナの耳にはっきりと届く。
こうしてルカイニはラフィナたちが通ってきた廊下を歩き、角に消えた。
ラフィナは大きく深呼吸する。
そこでやっとルカイニと会ってからというもの、自分の呼吸の浅さに気付いた。
心臓が早鐘のようになり、慌てて血液を全身に送り始める。
「大丈夫かい、ラフィナ」
ニカラスは娘の背をさする。
次第にラフィナが落ち着いてきたのを見計らって、口を開いた。
「ああいう人間を直視しない方がいい。自分の性格すら歪んでしまうからね」
それはルカイニに向ける賛辞なのか。愚弄なのかわからない。
少なくとも人間に向ける言葉ではないことは確かだった。
「ルカイニ様のお噂はかねがね聞いていましたが、あれ程とは……」
「王宮の生き字引みたいな人だからね。それにしても、厄介な人間に目をつけられたようだ、お前も、私も」
「察するにわたくしの魔物食について、あまり良い印象をお持ちでないようですけど」
「そのようだ」
ルカイニ・ザード・ウロドロスはアストワリ家よりも歴史ある公爵家の当主である。
今は、実務を息子に任せ、半隠居の身ではあるが、その影響力は今も王宮を蝕んでいると言われている。
女王陛下ですらルカイニには手を焼いていると、もっぱらの噂であった。
「彼は元々畜産族だ。王宮で長い間、ヴァナハイア王国の畜産の管理を任せられていた。彼の後ろには名うての大地主たちがいて、強い癒着関係にある」
「畜産……。なるほど。そういうことですか」
「そう。魔物食のライバルは、他国のギルドではない。牛や豚、鶏といったこれまで国の食を支えてきた畜産農家だ」
「魔物食のおかげで、外需はともかく内需が減っていると聞いていましたが……。それでも1割にも満たないのに」
「その1割が問題なんだよ、ラフィナ。魔物食は、ここ数年で急速に伸びた。これまでの連綿と受け継がれてきた業界の1割に、魔物食はあっさりと食い込んだんだ。この勢いは怖いと思うのは、人それぞれだよ」
ラフィナはニカラスの手を引く。
誰も使っていない応接室に招き入れると、明かりも点けず、父に詰め寄った。
「お父様、はっきりと仰って下さい。今回の魔物食の偽装問題に、畜産農家――先ほどのルカイニ様が関係あると考えていらっしゃるのですか?」
「公爵として話すなら『わからない』と答えるだろうね」
「ならば、ラフィナ・ザード・アストワリの父としてはいかがですか?」
「それも『ダメだ』と答えるね。あれは危険すぎる」
「そうですか……。わかりました。ご忠告、しかと受け止めました」
ラフィナは顔を上げる。
ニコラスと同じ青い瞳は、焔のように燃えていた。
(まるで魔物食を見つけた時の君のようだね)
「お父様、何か言いましたか?」
「いや……。だが、ラフィナ。君は1人ではない。私もいるし、料理ギルドも協力的だ。自分で抱え込まず、人を頼りなさい」
「心得ております。小さな蟻でも、屋敷を壊すことができる。そう教えてくれた方を、わたくしは知っています」
ニコラスの口端が吊り上がる。
「よろしい」
最後にニコラスは、ラフィナを抱きしめるのだった。
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