第115話 元S級ハンター、酒がほしくなる
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元死属性四天王が「勇者」に選ばれる!? かなりカオスな内容となっておりますので、
是非よろしくお願いします。
オリヴィアはやや興奮気味に今回の食材を紹介した。
ドラゴンキメラの白子か。
お子様体型のオリヴィアはわかっているのだろうか。
白子ってどういうものなのか。
俺は半目で3年経っても小人族の呪縛にかかったままのオリヴィアを見つめる。
「な、なんですか、ゼレットさん!!」
「いや、別になんでもない」
「今なんかわたしのことを馬鹿にしたでしょ。実は白子が何なのか知らないとか」
意外と鋭いんだな、オリヴィアは。
「これでも料理ギルドの受付嬢ですよ。知らないわけがないでしょ」
「オリヴィア、しらこって何?」
すかさず突っ込んだのはシエルだった。
あのギルドマスターを怯ませ、退散せしめるに至った純粋な眼が今度はオリヴィアに襲いかかる。
当然、オリヴィアは固まった。
そしてみるみる顔を赤くしていく。
動力が切れた撥条人形のようにぎこちない動きで、オリヴィアはそれでも質問に答えようとした。
「え~~~~~~~~~~~~と……。白子というのはつまり、その……」
その間、シエルはじっとオリヴィアを見つめている。
「だから、そのお父さんの大事なところというか」
「大事なところって?」
「ええ……。それは――――――ああああああああああああ!!」
再びオリヴィアは走り出す。
ギルドマスター同様、小川に飛び込む。
さすがは人魚の血が入っているというだけあって、服を着ていてもなかなかの泳ぎだ。
2人とも今日肌寒いのに、随分と元気だな。
「パパ? パパの大事なところって何?」
シエルは矛先を向ける。
「それはまたシエルがお利口さんにしてたら教えてあげよう」
「ホント?」
「ああ。今はそうだな。あんな風にぷよぷよして柔らかい食べ物だと思っていればいい」
俺は指差す。
プリムがテーブルの上のドラゴンキメラの白子を突いている。
見ただけでわかる弾力と張り。
テカり方も新鮮でおいしそうだ。
とても5日前に討伐したものとは思えない。
この3年間で、魔物の保存技術も随分アップしたのだろう。
「問題は、これをどうするかねぇ」
首を捻ったのは、パメラだ。
すでに手には包丁が握られている。
久しぶりの魔物料理だ。腕が鳴るといったところだろう。
「しかし、雄だったのが残念でした。雌なら卵を持っている可能性もあったので」
ラフィナは軽く肩を落とす。
「確かにねぇ。でも、白子も卵に負けないぐらいおいしい食材よ。珍味だけど」
「わたくしも初めてです。では、存分にその珍味を味わいましょうか」
幸いオリヴィアとギルドマスターが先乗りして、準備は出来上がっていた。
白子は珍味だが色んな食べ方できる。
それに今回は白子だけじゃない。ドラゴンキメラには色々な部位が入っている。胸肉や、白子と同じく内臓なども入っていて、これはなかなか楽しめそうだ。
対して、パメラが何を作るか楽しみだな。
「ゼレットは火の管理をお願いね」
「わたくしも手伝いますわ」
ずいっとラフィナが前に出てきて、腕を捲る。
俺とパメラは氷像のように固まった。
昔とある集まりがあって、その時ラフィナの手料理を食べさせてもらったのだが……。
読んで字のごとく、筆舌に尽くしがたいものであった。
それからというもの、遠慮してもらっている。
「それで何を作るんだ、パメラ」
「こんなにでかい白子だからねぇ」
そう。とにかくドラゴンキメラの白子はでかい。
こういうと卑猥に聞こえるかもしれないが、抱えても手が回らないほどだ。
しかも、多分これだけではないはず。
ここにある分量は、ハントした食材提供者のものだからだ。
「まずはやっぱり、生で食べたいわよね」
思わず俺は頷く。
魔物とはいえ、貴重な白子だ。
それを生で味わえないというのは、まさしく生殺しにひとしい。
パメラはスプーンでぷるぷるの白子をそぎ取る。
器に盛り、調味料と数種類の薬味を入れ、最後に柑橘系の果汁を垂らした。
「完成。ドラゴンキメラの白子の檸檬醤油漬け」
出た。定番中の定番である。
俺も、そしてプリムやリルも色めき立つ。
真っ白な光沢のあるドラゴンキメラの白子に、飴色の醤油と、すり下ろした大根と新鮮そうな葱。さらに細切りにした玉葱がかかっていた。
彩り鮮やかな薬味が、さらにドラゴンキメラの白子を際立たせている。
器を鼻先に寄せると、つんと柑橘系の匂いが鼻腔を衝いた。
さて味は……。
たっぷりと薬味を付けて、こぼれないように一気に口に入れる。
ドロッと動く姿はまさしく白子だ。
「うっっっっっっっっまっっっっっっ!!」
まろやか……。
舌ざわりが半端ない。
口に入れた瞬間、濃厚なクリームのような味わいが舌に絡み、儚く消えていく。
深いコクと旨みが良い。かすかにピリッと舌を刺激するのは、ドラゴンキメラと合成されたガルーダの肉の特性だろうか。これならば、醤油だけでもいいかもしれない。
濃厚な旨みのクリーム。それが薬味を挟んだ時の食感も申し分なかった。
「どう?」
「おいしい!」
『ワァウ!』
プリムもリルも大絶賛だ。
これほどの濃厚な旨みは初めてだろう。
かくいう俺も初体験だ。
「ゼレットは?」
パメラは尋ねる。
「酒が欲しくなるな」
「なるほどね。なら、しばらくそれを突いてて。次の料理を作るから」
パメラはフライパンを肩に乗せる。
「ママ! シエルもたべたい!!」
シエルがパメラの足にすがりついて、懇願する。
パメラはしゃがんでシエルと目線を同じくすると、1度頭を撫でた。
「ごめんね。シエルにはまだ生は早いかもだから」
「ええ~。シエルも食べたいよ~!」
地団駄を踏んで、さらに駄々をこねる。
自分の子どもながら、駄々をこねてもシエルはかわいい。
「師匠、鼻血で出てるよ」
『ワァウ!』
パメラの説得は続く。
「ポンポン痛くなっちゃうよ。その代わり、この料理以上においしいのを作って上げるから」
「おいしい料理……?」
「うん……。シエルの大好きな――――」
パスタ料理よ!
その瞬間、シエルの目が輝くのだった。
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