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【コミック発売中】魔物を狩るなと言われた最強ハンター、料理ギルドに転職する~好待遇な上においしいものまで食べれて幸せです~  作者: 延野正行
第6章

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112/222

第112話 元S級ハンター、プロを語る

先日の調理器具によるご意見について、ご連絡いただきありがとうございます。

ご意見を参考にして、今後のよりよい作品作りに活かしたいと思います。

今後ともよろしくお願いします。

「ゼレット、てめぇ……」


 ヴィッキーは目尻を吊り上げ、俺を睨んでいた。フーと猫のように声を上げて、腰を落とす。


 ドワーフ族というより、それは1匹の肉食獣を思わせた。


 俺は【砲剣】を構えたまま下ろさず、照準をヴィッキーの方に向け続ける。


 比喩ではなく、本当に大型の野生動物か魔物と対峙しているような緊張感が流れた。


「3年という月日ってのは、人を腐らせるには十分な時間だったらしいな。なあ、ゼレット!」


「……なに?」


「昔のゼレット・ヴィンターは人の獲物を横取りしていくようなハンターじゃなかった。まして共闘を自ら申し出ながら、取り分をかっさらうなんてことはしなかった」


「ふん。俺はもうハンターじゃない」


「ああ、そうだろうな。お前はもうハンターじゃない。単なる金の亡者だ」


「さっきから何を言っているかわからんな」


「ゼレット、教えてくれ。なんであんたはそこまで成り下がったんだ? 昔のあんたはこんなことはしなかった」


「そうだな。昔の俺ならこんなことはしなかった」


「なら、何故だ? まさか家族ができたから、ひよったなんて言うんじゃないだろうな」


「冗談でもそんなことを言うか。パメラもシエルも関係ないだろ」


「だったら、何故!?」


「しいて言うなら――――」



 おいしく食べるためだ……。



 …………。


「はっ?」


 さっきまで随分とシリアスな顔をして問い詰めてきたヴィッキーは、一転してコミカルな変顔のまま固まった。


「な、なななななな何を言ってるんだよ。お前、本当にゼレット・ヴィンターなのか?」


「お前こそ、何を言っているのだ? 俺は間違いなくゼレット・ヴィンターだぞ。というか、お前さっきから何を言ってる。『人が腐る』? 『金の亡者』?? お前は俺のどこを見て、そんなことを言っているんだ」


 俺は肩を竦めた。


 ヴィッキーは弁解を続ける。


「いや、だって! お前、あたいからドラゴンキメラを奪おうと」


「はっ? お前は何を言ってるんだ?? さっき自分で言っていたが、共闘を申し出たのは俺だ。ちゃんと分けるに決まってるだろ」


「じゃ、じゃあ、なんであたいを撃ったんだよ」


 ヴィッキーは叫ぶ。


 膝が笑っていた。未だに足がうまく動かないのだろう。


 おそらく【麻痺弾(パラライズブレッド)】の効果による影響だ。


「【麻痺弾(パラライズブレッド)】ぐらいで死ぬような奴じゃないだろ、お前は」


「じゃあ、何でだよ。あたいはお前のことを仲間だと思っていたんだぞ!」


「そいつは光栄だな。まあ、怒っているなら謝る。許せ」


 俺はドラゴンキメラに近づく。


 急所に1発。うまくハマっている。ヴィッキーの弾もうまく機能したらしい。


「謝るが、さっきのは必要な処置だった。ドラゴンキメラを騙すためにな」


「騙すため??」


「ああ。俺たちが死んで、戦闘が終わったと思わせるために必要だったのさ」


 ここまで説明しても、ヴィッキーは首を傾げるだけだった。


 俺がいない3年間、随分と活躍していたようだが、どうやら働き方としては二流のようだな。


「どうして?」


「さっきも言ったろ? おいしく食べるためさ?」


 仮にだ。


 戦闘の流れのままドラゴンキメラを撃ち落としたとする。


 ワイバーンよりも速く飛ぶ竜種だが、俺には造作も無い。


 目を瞑ってても当てる自信が俺にはある。


 けれど、それでは意味がない。


 戦闘状態にあるということは、それはつまりドラゴンキメラの肉が、興奮状態にあるということだ。すなわちそれは肉質があまり良くないということでもある。


「ヴィッキー、俺たちはなんだ?」


「え? なんだよ。哲学かよ」


「職業を尋ねてるだけだ」


「あん? そ、そりゃあハン――――じゃなかった、食材提供者だろう?」


「そうだ。俺たちはもうハンターじゃない。ただ闇雲に魔物たちを撃てばいいわけじゃない。魔物たちはただ廃棄されるわけじゃなく、その後消費者の口に入り査定される」


「う、うん……」


「ならば、最高の手段と方法を使い、状態よくドラゴンキメラの倒す必要がある。それが俺たち食材提供者の仕事――プロフェッショナルの仕事だ」


「食材…………提きょ…………しゃ……」


「食材が緊張してるなら、それを解きほぐした瞬間を狙うのが、もっともベストな方法だろう」


「お前、まさかそのために死んだふりをあたいに……」


 再びヴィッキーは固まった。


 俺は首肯する。


「そうだ。というか、それぐらいしかない。相手の戦闘態勢を解いた瞬間に、食材を狙う。まあ、ここまで安易に引っかかってくれるとは思ってもみなかったがな」


 俺は【砲剣】で突いて、ドラゴンキメラの生死を確認する。


 どうやら問題なさそうだ。


「お前、ハンターとしては頂点に上り詰めた。だが、食材提供者とハンターは別物だ。取ってくる食材に責任を持つ必要がある。だから、お前の考えはまだまだ甘い」


 ヴィッキーはがっくりと項垂れる。


「あたいが食材提供者として未熟……。そっか。あたいは食材のことを考えてこなかったんだね」



 完敗だ……。



「さすがゼレットだよ。やっぱあんたはあたいが認めたハンターだ」


「お前にそう言ってもらえると、悪くはないな」


「けど、勘違いすんな。その言葉、いつかゼレットにも言わせてやるんだからな」


 ヴィッキーはビシッと指と一緒に、俺に釘を刺した。


「ふん。なら、ここで言わせてもらおうか」


「え?」


「お前が作った弾は最高だった。さすがはヴィッキー・ギャンビネットだ。あの短時間で、あそこまで加工できるドワーフは他にいまい」


 あまり口に出して言いたくはないが、ヴィッキーがいなければ、魔物の討伐はおろか、こうして食材として仕留めることもできなかっただろう。


 ヴィッキーは確かに食材提供者としては、未熟だが、鍛冶屋としてはいい腕をしている。


 その力が発揮できていなければ、今回のドラゴンキメラは撃てなかったはずだ。


「というわけで、今回は引き分けだ」


「へへ……。ゼレットと引き分けっていうなら悪くねぇかもな」


 ヴィッキーは鼻の下を照れくさそうに擦った。


 色々とあったが、ドラゴンキメラを討伐した。


 しかし、謎は残る。


 黒鎧竜の性質を持つ、キメラたち……。


 魔物が他種族と交配することは稀だ。それが軍団となって押しかけてきた。低ランクならまだしも、Aランク、あるいはSランクである。


 これは奇跡としか言いようのない確率だ。


「しかし、これが仕組まれた奇跡だというのなら……」


 俺は仕留めたドラゴンキメラをジッと見つめるのであった。 


☆☆ コミカライズ更新 ☆☆

コミックノヴァ内にて、コミカライズ5話目が掲載されました。

料理ギルド内に突如現れた暴漢たちに対して、ゼレットはどう立ち向かっていくのか?

そしてついに、ギルドの例のキャラが登場です。

キャラデザから最高にイメージ通りだったあのキャラの登場にご期待下さい。

※ ニコニコ漫画は日曜日更新予定です。


そして昨日拙作『「ククク……。奴は四天王の中でも最弱」と解雇された俺、なぜか勇者と聖女の師匠になる』の最新話が更新されております。こちらも是非読んで下さい。

12月9、10日にはコミックスと原作小説がダブルで出版予定です。

ご予約始まってますので、そちらもよろしくお願いします。


挿絵(By みてみん)


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