第100話 元S級ハンター、キメラを語る
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キメラというのは、よく魔物の名前として挙げられるが、本当は混合魔獣と呼ばれる2種以上の魔物が合わさった個体すべてを指す名称だ。
実は、魔物が他種族と交配することは、さほど珍しいことではない。
特に雄1に対して、雌多数というような(あるいは逆)種族の中には、自然環境の中で淘汰される個体がある。
そうした個体が自分の子孫を残すために、自分よりも弱い種族と無理やり交配して生まれるのが、キメラなのだ。
混合魔獣の出産成功率は比較的低いが、両親たちよりも遥かに強い個体として生まれてくることが多い。
実際、キメラが両親の種族の元に戻り、群れの長になることも起こっているようだ。その場合、生まれてきた子どもはキメラで得た性質を受け継がずに生まれてくることが多く、結果的にキメラは非常にレアな魔物になってくるのだ。
絵画で描かれることの多いキメラの代表的なものといえば、獅子の頭に山羊の胴、尾が毒蛇という組み合わせだろう。
ただこの組み合わせはあくまで創作であって、極めて似たような例なら存在するが、混合魔獣の中には存在しない。
魔物が他生物と交配する例はほとんどなく、したとしても成功しないと主張する研究者は多い。
魔物は魔力を摂取する生物であり、肉食動物は肉を摂取する動物である。そもそも身体の構造自体が根本から違うためだ。
さて、ドラゴンキメラという個体について、そろそろ説明に入ろう。
キメラには幾通りもの組み合わせがあって、魔物のランクもそれに応じて変わる。
毎年新しいキメラが1種、ないし2種見つかる中で、唯一Sランクと定められているのが、ドラゴンキメラである。
名前の通り、身体の一部に竜の特徴を持ったキメラのことだ。
そもそも竜種は非常にプライドが高く、滅多に他種族と交配することはない。
だが、本当に奇跡という手順でキメラの交配が続けられ、ドラゴンがそのキメラの強さに惹かれた時にのみ生まれるのがドラゴンキメラなのだ。
ここで誤った認識を持ってほしくないのだが、俺が倒した三つ首ワイバーンという種と、ドラゴンは全く別の種類だということだ。
大きさも、保有する魔力も、威圧感もまるで違う。それは海竜種という部類に当たるリヴァイアサンを思い出せば、容易に想像できるだろう。
竜種はだいだいの場合、Sランクにあることが多い。
その特徴を有したドラゴンキメラもまたSランクの危険度に当たる。
しかも通常の竜種よりも手強く、混合した魔物によっては、魔物界最強種に踊り出る可能性も高い。
「混合の配分は?」
「頭と翼は炎の鷲……」
料理ギルドのギルマスは、声を潜める。
その瞬間、俺は飛び出すように椅子を蹴った。
思わず目の前の机を叩いてしまう。
「おい! それって!」
「さすがは元S級ハンターね。それだけでわかってしまうなんて」
「そりゃそうだろ。その特徴は間違いなく、ガルーダ――"炎鷲"ガルーダで間違いない!」
あのバズズと双璧を成す魔鳥種の1つ。ランクこそAだが、個体の大きさによってはSランクにもなる怪鳥だ。
なるほど。竜種がどんな魔物と交配したのかと気にはなっていたが、ガルーダなら納得だろう。
とはいえ、この両者は非常に気位が高い。
故に交配は奇跡中の奇跡だ。
――と、そうは言っても、問題は竜種の方だな。一体、どんな竜種なんだ。
「身体は黒の鎧で覆われ、尻尾まで続いているわぁ」
俺は思わず固まった。
自然と身体が震えたのを感じる。
自分でもそれが恐怖なのか、それとも武者震いなのかわからなかった。
おいおいおいおい……。
――――冗談だろ?
「まさか黒鎧竜か……」
俺がそう言うと、目の前のギルマスは薄く笑った。
黒鎧竜……。
それは俺が昔倒した邪炎竜に匹敵する、邪竜系最強種の1つ。
その鱗はまさに鎧のようで、あらゆる金属に勝るとも言われている。
長い人類史の中で、片手で数えるほどしか討伐数はなく、その大きさも相まって、空飛ぶ不沈艦なんて呼ばれいたりする。
「混合魔獣はこの2種だけ。でも、ゼレットくぅんなら、この2種が交わっていることだけでヤバいことだけはわかるでしょ?」
ギルドマスターは不敵に笑う。
意外とこのギルドマスターは大物かもしれない。
魔鳥種最強の一角足るガルーダ。
空飛ぶ不沈艦という異名を誇り、鉄壁の防御力を誇る黒鎧竜。
これにもう1つ加える種族がいれば、海竜王たちに並ぶ、魔物たちの王となり得たかもしれない。
「どう? やる?」
「と言っても、聞くまでもないですけどね」
ラフィナは肩を竦める。
「なあ、ラフィナ……」
「はい?」
「俺は今、どんな顔をしてる?」
俺はラフィナに顔を向ける。
一瞬、公爵令嬢は言葉を失った。心なしか顔色が悪いように思えたが、すぐに気を取り直し、口元に微笑を浮かべた。
「10年以上ほしかった玩具を手に入れた子どもみたいな顔をしていますわ」
「そうか」
俺は短く答える。
そいつは良かった。
3年間、現場から俺は遠ざかっていた。
守るべき者もできた。
その中で俺は、1人でやってきた時の好奇心のようなものが薄れていたのではないかと思った。
いや、Sランクの魔物そのものへの興味を失ったように思えたのだ。
だが、全然そんなことはなかった。
今、俺は笑っている。それが答えだ。
「受けるぞ。その依頼……」
最高のハントにしよう……。
しばらく仕事が多忙なため不定期の連載になります。
ご了承下さい。







