開戦
エミリーは覚悟を決めていた。
今日、自分は人を殺す。その覚悟を決めていた。
あらたに仲間になったのは剣士。
斎藤翠にとどめを刺すまでは警官を足止めしてくれるだろう。
「行くぞ」
鬼の一言によって、三人で移動する。
そして、鬼は青年の姿になった。
こうでもしなければ、すぐに警察に連絡がいって逮捕されてしまう。
そして、三人は、警察寮の前に辿り着いた。
「おいおい、部外者は立入禁止だよ」
純朴そうな青年が、話しかけてくる。
「すいません、友達に呼ばれて来たんです」
言葉の意味はエミリーにはわからないが、青年が上手く誤魔化してくれているらしかった。
「じゃあ、その友人を呼んでくるから、名前教えて?」
「名前は……」
「うん」
「斎藤翠です」
「えっ」
警官が呟いた次の瞬間、青年は鬼の姿になっていた。
そして、一撃殴っただけで警官を行動不能にする。
「行くぞ! ゴーゴーゴーゴー!」
エミリーは鬼の後を追い駆けて行く。
少しばかりの躊躇いを感じながら。
「優しくないと、泣いてなんてくれないよ」
巴の声が脳裏に蘇る。
私は、本当にこれでいいのか?
躊躇っているうちに、鬼は部屋を見つけ出したようだった。
「名札が張ってないけど郵送物が入ってたポスト。この部屋だ。胡散臭えぜ」
そう言った瞬間、扉が勢いよく開いた。
鬼は顔をうち、倒れる。
天衣無縫。最強の超越者。斎藤翠がそこには立っていた。
「三人がかり、か……」
翠は呟くように言う。
「ま、時間稼ぎぐらいはできるでしょうね」
そう言って、彼女はバリアを展開した。
鬼が扉を破って、金棒を振り下ろす。
それを、翠は余裕を持ってバリアで受け止める。
そして、バリアを解除すると彼女は指先を鬼に向けた。
光線が発射され、鬼の腸を焼く。
「ぐおおおおお」
呻いて、鬼は地面に倒れ伏した。
瞬殺。ありえないスピードだ。
「援護が来る。俺が引き止めるから、斎藤翠はお前が!」
そう言って、剣士は手に剣を作り出して構えた。
「……了解」
この瞬間、エミリーは敗北を覚悟していた。
死の覚悟はする必要がない。自分が死ねば弟が死んでしまう。だから、死ねない。
考えるのはこの状況を打破する策のみ。
エミリーは両手に拳銃、両肩にロケットランチャーを呼び出し、一斉射撃した。
ロケットランチャーは流石に予想していなかったのだろう。
大爆発がおきて床が壊れ、翠は下の階へと落下した。
第十話 完
次回『剣士、二人』




