躊躇い
「なんだ? 今までお前が殺した奴の家族情報?」
情報屋に電話をかけると、戸惑うような対応をされた。
お互い、英語で会話をしている。
「お願いよ。データはスマホに送って」
「スマホなんて持ってうろついてんのか。大丈夫なのか? 電波で探知されそうだが」
「これは特殊性があってね。探知できない仕様になっているそうだわ」
「ふーん。胡散臭いねえ。そんな胡散臭いスマートフォンで俺に電話をかけたのかい」
「引越し費用が必要なら出すけど?」
「弱者から金は取らねえよ」
そこで、電話は切れた。
「弱者、か……」
十数分後。スマートフォンにメールの着信があった。
開く。
どの人にも、家族がいた。
妻がいて、子供ができたばかりの人もいた。
これを全部、自分がやったのだろうか。
呆然として、目から涙が出そうになる。
弟の笑顔を思い出す。
彼はきっと、こんなことを知ったら、笑顔ではいられない。
そこで、私はスマートフォンの画面をきった。
「どうした? なんか面白いメールでもあったか?」
鬼が興味深げに画面を覗き込んでくる。
けど、画面は既に真っ黒だ。
「なんだ、ケチだな」
しかたなく、スマートフォンの翻訳機能を起動させる。
そして、鬼に手渡した。
それを使って、二人で会話する。
『ターゲットは?』
『警察寮にいるらしい。正直あまり手を出したい場所じゃないな』
『残念ながら、そこまで届く砲台もないわね』
『かと言って、正面突破しようにも護衛がいる』
沈黙が漂った。
『人数不足だとは思わない?』
『そうだな。援軍を要請しよう』
事態は進んでいく。斎藤翠暗殺へと。
それは、正しいことなのだろうか。
エミリーは、一人悩んでいた。
+++
病院で、巴は自分の体を見ていた。
切り傷、火傷、銃弾の跡。あまり綺麗な体ではない。
それでも、戦い続けてきた。それは、巴の自信となっている。
病院での生活は平和に過ぎた。
看護師が話に乗ってくれる分、特務隊の部屋にいるより幾分かマシだ。
そして、エミリーのことを思う。
彼女のやっていることは、正しくはない。
けれども、自分が彼女と同じ立場になったらどうするだろう。そう思うのだ。
翠に死んでほしくはない。
けど、エミリーの弟にも死んでほしくはない。
「私はどうすればいいんだろう……」
思わず呟く。
春は、間近に迫ってきていた。
第九話 完
次回『開戦』




