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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第六章 全て、無駄です
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巴と翠

 場所は警察寮の斎藤家だ。私はテーブルの傍に座って、翠を待っていた。

 紅茶を出され、私は頭を下げた。


「ありがとうございます」


「ケーキなんかあればよかったんだけどな。生憎なかった」


 そう言って悪戯っぽく笑って、翠は私の向かいに座った。

 そして、紅茶の入ったカップをソーサーの上に置く。


「あらためて喋ったことはなかったね、そう言えば」


 翠は優しい口調でそう言う。

 以前命のやり取りをしたのが嘘のようだ。


「そうですね。罪悪感もあって、あまり翠さん達には近づけなかった……勇気は元気ですか?」


「元気に高校生やってるよ。今度、会いに行けばいい」


「あわせる顔がありませんよ」


 そう言って苦笑して、紅茶を一口飲む。

 そして、意を決して、口を開いた。


「エミリーを、救いたいんです」


 翠は苦笑する。


「そういう話だと思った」


「わかりますか?」


「わかるよ。警察が解決できる問題ならあなたは私に相談なんてしなかった」


 尤もな話なので、私は俯く。


「大変勝手なことを言っているのは自覚しています。けど、協力してほしい」


「あなた、英語喋れる?」


「喋れません」


 私は小さくなる。


「じゃあ、一つ魂をあげよう」


 そう言うと、翠は胸の手前でなにかを剥がすような仕草をし、私の胸につけた。


「彼は英語の専門家でね。帰る体がなくなったからって私の中にいた変わり者だ」


「え? 私、これで英語を使えるようになったんですか?」


「そうだよ」


 翠は、今度は私の胸の手前から何かを掴むような仕草をした。そして、自分の胸元に戻す。


「ソウルキャッチャーってのはそういうもんだ」


 そう言って、翠は紅茶を一口飲む。


「次に襲撃があったら説得しておいで。会話で解決できるのが一番いい」


「はい、ありがとうございます!」


 そう言って、私は翠に頭を下げた。


「以前は敵だった私に、こんなことまでしてくれるなんて……」


「忘れたさ。アイスあるんだけど食べる?」


「いえ、そんな」


「食べてこうよ。今持ってくるよ」


 頼りになる優しいお姉さん。

 それが、私が翠に抱いた印象だった。

 そして、一歩前進したという実感が、私を勇気づけた。




+++



 鬼とエミリーは顔を突き合わせてメモを見ていた。


「こんなことしていないで国へ帰れ」


 スマートフォンの翻訳機能が日本語を英語に変換する。

 その画面を見たエミリーは、苦笑した。


「彼女は苦労を知らないからそう言えるんだわ」


 鬼は片手を上げてエミリーを制する。


「あー、待て待て。今英語を日本語に変換するように切り替えるから」


 スマートフォンをいかつい手で操作する。

 そして、エミリーに手渡した。


「もういいわ」


 鬼は英語で発したそれを聞き取れたらしく、そうかと言ったきり寝入った。

 エミリーも寝転がる。

 そして、弟の顔を脳裏に思い浮かべる。

 五歳年下の、たった一人の家族。


「お姉ちゃん頑張ってるよ……」


 そう言って、夜空の月に手を伸ばす。


「けど、間違ってるのかな……」


 返事は、なかった。


「フレンド」


 彼女の声が脳に響き渡る。

 確かに一緒にいて楽しい相手だった。友達になりたかった。

 けれども、敵味方に別れてしまってはそんなことできるわけないじゃないか。そう思う。

 そして、エミリーの意識は闇の中に落ちていった。



第七話 完

次回『二人を紡ぐ糸』

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