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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第六章 全て、無駄です
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たどたどしい英語で

 私は、一番に狙撃手の位置を特定し、そこに辿り着いていた。

 エミリーは眼の前にいる。

 一緒に遊んだ思い出が脳裏に蘇る。


 けど、私は彼女を逮捕しなければならない。


「アイ……」


 話そうと口を開く。

 その瞬間、彼女の手に銃が現れ、私の顔に向かって銃弾が発射された。

 それを、防弾チョッキが縫い込まれたマントで防ぐ。


「アイウィッシュ……ユー、フレンド」


 とりあえず記憶にある単語だけを繋ぎ合わせて出た言葉。


「フレンド?」


 エミリーが怪訝そうな声になる。

 なんて惨めなんだろう。

 弱い者同士、傷を舐め合おうとでも言うかのように、縋るのか。この金髪の少女に。


 エミリーは戸惑ったようにしばらく考え込んでいたが、そのうち銃をおろした。


「サンキュー。ユーアーカインド」


 そう、エミリーは言った。

 カインド。意味はなんだったか必死に考える。

 答えは出ない。


(もうちょっと真面目に授業出とくべきだったなあ……)


 後悔先に立たずとはこのことだ。

 その時、後ろから歩行音が近づいてきた。

 私は慌てて、エミリーを木陰に隠す。そしてメモを一枚手渡した。


「目標は見つけたか?」


 同僚が声をかけてくる。随分久々なことだ。


「いいえ、山を下ったようです」


「そうか。一手遅かったな」


 そう言うと、同僚は私に背を向けた。


「行くぞ、スキルキャンセラー。護衛役を置いてくなよ」


 彼らはけっして、私を名前で呼ばない。

 それが私が受けている罰なのだろう。



+++



 翠とその一家は警察寮に部屋を借りることになった。

 そこならば、周囲に護衛がいるようなものだろうという配慮らしい。

 廃墟となった我が家を見てから、父の口数は少ない。

 全て自分の責任だ。

 翠は、縮こまるような思いでいる。


 今回の敵は二人。

 狙撃の超越者に、鬼の魂を大量に吸収した男。

 二人共行方知れずだ。

 道を歩いていたら彼らに撃たれていた、なんてこともありえる。

 不便なものだと思う。


 狙っている時は簡単だった。狙われることがこんなに難しいとは。

 そもそも、敵はどうやって斎藤家を知ったのだ?

 話は簡単だろう。ソウルイーターが警察官の持つ情報を吸収したのだ。


「十人のソウルイーターを片付けたと思ったらこれ。嫌になるわ」


 サングラス、帽子、ウィッグで変装した翠は公園のベンチで足を組んで座っていた。

 シスター水月がその横に座っている。


「大変でしたね。私もなにか力をお貸ししたいところですが」


「気にしなくていいいよ。巻き込むことになる」


「そうですね。私も教会全損は嫌です」


 水月はアイスを一口舐める。

 翠も手に持っていたアイスを食べる。


「桜の季節が近いですね」


 しみじみとした口調で水月は言った。


「そうだねえ。花見、行けるかなあ……」


「それまでには解決してると信じましょうよ」


「そうだね。あんまり強い手合ではなかったし」


「皆さんの能力が異常なんだと思います」


 水月は少し、拗ねたように言う。


「普通、家を破壊する砲撃手に大したことはなかったなんて言えませんよ」


「それ言ったら、水月も楓さんも一瞬で家燃やせるでしょ?」


「それはそうですが……これでも私、適合率高いんですよ」


「まあ、そうだね」


 翠は、アイスを食べ終わった。

 そして、立ち上がる。


「よってくれてありがとね。少しは元気になった」


「いいえ、こちらも良い気分転換になりました。やっぱり同年代の友達と話すのは楽しいです」


 やっぱり水月は上手いな、と思う。また、話そうという気分にさせられる。


「またね」


「ええ、また」


 そうして、二人は別れた。

 そして、翠は部屋の前で硬直した。


 今見ても、その姿には抵抗感がある。

 防弾チョッキが大量に縫い込まれ、ダガーナイフが収納されたそのマント。

 巴が、翠の家を訊ねていた。



第六話 完

次回『巴と翠』

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