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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第六章 全て、無駄です
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楓は退屈に暮らしたい

「それで逃したの?」


 鬼との戦いの直後。

 恭司の話を聞いた楓は呆れたように言った。


「私は暗殺者を叩くからあんたらはイレギュラーに対処してって言ってたじゃない」


「対処はしましたよ。追っ払った」


「使えねーなあ」


 恭司は、その一言に少し苛立った。


「なら、楓さんの方はどうなんですか」


「暗殺者、捕まえたけど?」


「えっ」


「そこのパトカーの中にいるけど、見る?」


 恭司は、頷く。

 そこには、まだ年若い少女がいた。金髪で肌が白いその外見は人形のようだ。


「とりあえず取り調べをして情報を引き出すわ。恭司は翠の家に泊まって。万が一の時のボディガードとして」


「はい!」


「そういうはっきりとした返事、好きよ」


 そう言うと、楓は手を振ってパトカーに乗って去っていった。

 楓の話を思い返す。

 楓は、こう言っていた。


「今、この地に集まっている超越者とソウルイーターの数は尋常じゃないわ。なにかに引き寄せられるかのように、皆ここへ来てる」


「なにかとは一体……?」


「運命、とか?」


 楓は躊躇いがちにそう言って、苦笑して言葉を続けた。


「とんだファンタジーだったわね」


 その時の会話を何度も反芻し、恭司は考える。


(……まだまだ、戦う覚悟はしておいたほうが良さそうだな)


 覚悟は決めた。

 恭司は既に、一般人であることよりも戦士であることを選んでいた。



+++



 取調室で、楓とエミリーは向かい合っていた。


「調子はどう?」


 楓の流暢な英語に、エミリーはそっぽを向いて英語で答える。


「いいはずないでしょ?」


「それもそうね。ターゲットも殺せず捕まったんだから」


 エミリーが歯噛みする。


「あなたの依頼主は誰?」


「それは明かせないわ。私にもプロの意地がある。それより、なんで私が来日したことが知られていたの?」


「目立った自覚ないのねえ」


 楓は一つ溜息を吐くと、スマートフォンを取り出し、動画を再生した。

 それを見て、エミリーは大きく溜息を吐いた。


「撮られてたか……」


「ええ」


「子供が人質に取られてるのに動画撮影だなんて日本人はどうなってるの?」


「どこも同じよ」


「どういう意味よ」


「馬鹿は一定数いる」


 エミリーはもう一度溜め息を吐くと、項垂れた。


「本国送還後に特殊監獄で一生拘束ね。笑えないわ」


「あんたの能力は暗殺向きだ。需要あるんじゃない」


「そうかしらね」


 なんで自分は彼女を励ましているのだろう。楓はそう思いつつも相手をする。


「そうよ。前向きに考えなさいな。キナ臭い連中が寄ってくるわよ」


「……後ろ向きにしかなれないわ」


「私も最近随分とネガティブでね。事件が多すぎる」


 その時、地響きが鳴った。

 建物が揺れている。地震かとも思ったが、また違う。


 そしてついに、建物の一部が破壊される音がした。

 楓は銃を構え、廊下に出る。


 そこには、鬼が立っていた。

 楓は手に炎を浮かべ、対峙する。


「脆弱な炎で俺を相手にする気か、女」


 楓はきょとんとした後、微笑んだ。


「ええ」


 炎の嵐が巻き起こる。

 次の瞬間、鬼は炭化した体で倒れていた。


「私にこれだけ舐めた口聞いた奴は随分久々だったわ」


 そう言って、鬼の頭を蹴る。

 鬼の頭はボールのように転がって、壁にぶつかって跳ね返ってきた。


 その時、炭化していたはずの鬼の腕が動いた。

 鬼は自分の首を掴み、元の位置に戻すと、立ち上がった。


 炭化した外皮が崩れ落ち、中から再生された真新しい体が現れた。


「女……今のは効いたぞ。寿命の五分の一は持っていかれた。」


 楓は、いつでも逃亡に切り替えられるように一歩を退く。

 そして、再び炎を巻き起こした。


「遅い!」


 鬼の腕が伸びる。それは、楓の腕をしっかりと掴んだ。

 そして、引いていく。獄炎に。

 その時、楓の手に銃が握られていることが気が付き、鬼は唖然とした。


 銃声が鳴った。

 鬼は衝撃で仰け反り、思わず手を離す。


 楓はそのまま、警察署のフロアに向かって移動した。仲間が集まってきている頃だろう。


「まったく、次から次へと……」


 今頃翠の奴はどうしているだろう。退屈だなどとほざいているのだろうか。

 なら、立場を変わってやりたかった。



第四話 完

次回『悪役達の集合』

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