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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第六章 全て、無駄です
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退屈な日常に幸福はある

 斎藤翠は退屈していた。

 楓からの命令は自宅待機。

 暗殺者の狙いが最強の超越者である翠である可能性を考えてのことだそうだ。

 ちょっとぐらい外に出たいな。そう思う。


 外ではそろそろ雪が消えて、桜のつぼみが今か今かと春を待っているだろう。

 けど、翠はそれを見ることもできない。

 カーテンを開けることすら許されないのだ。


 恭司一家は既に自分の家に戻っている。

 その時に超越者である証拠を見せたことから、父は少し翠に怯えているようにも見えた。


「退屈だなあ」


 リモコンを使ってリビングのテレビのチャンネルを変えていく。

 面白そうな番組はない。

 これではアラタだな、と思う。

 響の言うところによれば、アラタは退屈になるとテレビのチャンネルを変えて面白い番組がないか探すそうだ。


「退屈だなあ」


 翠は繰り返しそう言った。

 退屈な日常が今日も過ぎていく。

 これが、平和ということなのだろう。

 なら、それも良いのかもしれない。



+++



 丘の上で、楓は伏せてスナイパーライフルを構えている少女に声をかけた。


「ハロー」


 金髪の少女は、ゆっくりと振り返る。

 そして、スナイパーライフルを脇に抱え、楓を狙った。


「斎藤家を狙える位置は限られている。ここに来ると思った私の勘は正しかった」


 少女は引き金を引こうとする。しかし、引けない。

 見ると、スナイパーライフルの引き金は凍って動かせなくなっていた。


「さて、エミリー。お仕置きの時間だわよ」


 そう言って、楓は炎を腕に纏い、構えを取った。

 遠くで破壊音がしたのはその時のことだ。


 二人共、そちらに視線を向ける。

 巨大な鬼が、斎藤家の玄関の扉を蹴り破ろうとしていた。


 楓は銃を握り、狙いを定めるが、断念する。

 遠すぎる。

 そして、流暢な英語でエミリーに声をかけた。


「あんたのターゲットが殺されるわよ! 鬼を撃って!」


 エミリーは少し迷ったようだが、鬼のこめかみ向かって銃弾を発射した。

 鬼は少し仰け反るが、動じた様子はない。

 しかし、その顔は明確にこちらを見ていた。


「来るわよ!」


「大丈夫。布石は打った」


 そう、楓は余裕顔で言った。



+++



 翠は心臓が爆発しそうな思いでいた。

 玄関に行ってみると、扉がひしゃげている。

 誰かが無理やり侵入しようとした? この家に?

 それを見ると、こう思うのだ。


(神様、退屈な日常をありがとうございます)


 今更遅いわ。という声が聞こえた気がした。



+++



 そして、鬼は彼と対峙していた。

 パーカーのフードを目深にかぶり、覗く目の色は赤い。

 噂のソウルキャッチャー。皆城大輝。


「俺は寝付きが悪いから五月蝿い奴が大嫌いなんだ」


 ぼやくように大輝は言う。


「お前、どたばたどたばたどっかんばったん五月蝿えよ」


 彼がそう言った瞬間、彼の周囲に八本の巨大な腕が生えた。

 鬼は前方に跳躍して、突きを繰り出す。

 それを、四本の巨大な腕が防ごうとした。


「なに……?」


 大輝が戸惑うような声を上げる。

 腕を突破し、鬼は大輝の目の前に立ちはだかった。

 殴れば一撃。その自信が鬼にはある。


 鬼は腕をふるって、正拳突きを繰り出した。

 巨大な腕の一本が地面から現れ、大輝を上空へと運んだ。

 殴られた腕は、穴が空いていた。


「なんつー馬鹿力」


 電柱を蹴って地面に着地しながら、大輝は呆れたように言う。


「お前の腕でなんとかなるか? 恭司!」


 電信柱の死角から人が出てきた。名前を恭司というらしい。


「逸らす技術は十分に鍛えた。しかし、お前と足並みを揃える日が来ようとはな」


 そう言って、恭司は鬼の方を向く。


「佇め、撫壁」


 彼がそう言った瞬間に、人の身の丈をすっぽりと隠してしまいそうなカイトシールドが現れた。

 彼はそれを持ち、盾の背面に鞘があるのだろうショートソードを抜いた。


 まずは弱い方から。

 そう考え、鬼はカイトシールドを殴りつけようとする。しかし、腕が盾にぶつかろうとした瞬間、異変が起こった。


「迸れ、雷撃!」


 電撃が走り、鬼は背後へと吹っ飛んだ。

 意識が朦朧とする。立てる気がしない。

 恭司と大輝が駆け寄ってくる。


 恭司は鬼に盾を押し付けて、盾ごと鬼を貫いた。

 そして、大輝が頭上から剣で鬼の頭を真っ二つにする。


 二人は離れて、動向を見守り始めた。

 鬼の顔が、徐々にくっついていく。

 傷口が、消えていく。


 鬼は笑った。高々と笑っていた。


「面白い。お前達のようにまだ俺に比肩する者がいようとは」


「強がり言うなよ。コールドゲームまで後ちょっとだぜ」


 大輝は挑発するように言う。


「皆城大輝。貴様の中の鬼の魂、俺が必ずもらう。だから、それまで誰にも殺されるなよ」


 そう言うと、鬼は電柱を蹴り、家の屋根の上に飛び移り、駆け去ってしまった。



+++



「怪物だな……」


 恭司は、思わずぼやくように言う。


「そうか?」


 大輝は不思議そうに言う。


「顔真っ二つにしても再生したんだぞ」


 恭司は戒めるように言う。


「なら、今度は首を断ってやればいいだけさ。鬼の力があればあるほど俺は強くなる」


「吸収する気か?」


 大輝は、返事をしない。


「思い出せよ。鬼の魂を三つ吸収した春香は鬼になって戻れなくなった。お前は今、二個半だ」


「わあってるよ。じゃあ、適当に巡回してから各々家へ帰ろうぜ」


 そう言って、大輝は軽く手を降って、去っていった。


「……まさか、ソウルイーターと共闘する日がこようとはなあ」


 尤も、今はソウルキャッチャーか。

 恭司は歩き始める。

 夏希のスキルを使うと、彼女のことを思い出す。


(ありがとう、夏希。おかげでなんとか勝負になった)


「上等じゃない?」


 そんな風な返事が、聞こえてきた気がした。



第三話 完

次回『楓は退屈に暮らしたい』

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