抹殺指令
居心地が悪いな、と思う。
広い部屋の中に、数十人の警察官が座っている。
暗い部屋の中、大型スクリーンに光が投射されている。
「これは昨日確認された情報だ」
本部長が説明を始める。
何事だろう。皆、戸惑うようにそれを見ている。
そして、私はスクリーンに動画が流れた瞬間思わず呟いていた。
「げっ……」
その映像では、人混みの中で、ナイフを子供の首に突きつけた男に女性がスマートフォン片手に近づいていっている。
ナイフが子供の首から離れる。
その瞬間、背後からダガーナイフが投じられ、見事にナイフを持った手を貫いていた。
特務隊の皆の視線がこちらに向く。
「画面見て、画面」
私は小声で、戒めるように言う。
その瞬間、映像の中ではエミリーが男の顎に肘打ちをしていた。
そして、彼女は振り返り、スマートフォンのカメラに顔が映る。
そこで、動画は止まった。
「彼女は、エミリー・高塚。日系アメリカ人で、仕事は暗殺を主にしている」
私は絶句した。
暗殺者と、一日一緒だったのか。
(まあ、人のことを言えた義理じゃないか)
そう、心の中で呟く。
「彼女が日本に来ている。目標は不明だが、皆警戒してほしい」
私は手を上げた。
本部長は、私を指差す。
「どうした? なにか支障でもあったか?」
「この人とたまたま一緒にいたんですけどね。仕事はこの市で行うって言ってましたよ」
ざわめきが起こる。
「それ以上の情報は?」
「口を滑らせませんでした。なにぶん、相手は日本語を覚えていなかったので」
「警戒態勢が必要だな……」
手が上がった。見ると、楓が立ち上がって手を上げている。
「相手のスキルはなんですか? それによって対応も違ってくる」
「具現化系ではないかと言われている。彼女は初めて捕まった時、周りの捜査官を撃ち殺し、パトカーを強奪して逃げている」
囚人に銃など持たせる訳がない。それは尤もな考察だ。
「なるほどなあ……」
私は、思わず呟く。
今回もまた、厄介事になったわけだ。
+++
闇の中に、二メートルはあるかという鬼が佇んでいる。その体が縮小を始め、最後には人となった。
拍手が部屋に響き渡る。
病的に細身な男だ。
「君は鬼の力を完全に制御した初めての超越者だ。君ならば厄介者の排除は簡単だろう」
「厄介者……?」
「斎藤翠さんと、皆城大輝くん。二人共ソウルキャッチャーだ」
そう言って、細身な男は歩き始める。
「一人は行方不明だが、翠さんの写真と住所は知らせるよ。すぐに動けるかい?」
「もちろん。この力さえあれば、俺はもうちまちま働かなくてすむんだ」
細身な男は目を細める。
裏切りによって予想外の展開になったが、まだ道は続いている。
障害となる二人のソウルキャッチャーを排除さえすれば。
第二話 完
次回『退屈な日常に幸福はある』




