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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第五章 泣かないで、あなたは私が守るから
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塔に挑む

 永遠に続きそうな螺旋階段を僕達は昇っていた。


「いきなりドラゴンがばぁっなんて嫌だぜ、俺」


 いけないと思っていてもぼやいてしまう。


「あの二人は魔物が他にもいるって言ってたから大丈夫じゃないでしょうか」


「そういうの、大丈夫って言わない。危険って言うの」


 目を輝かせている紫龍に、夏希が苦笑交じりに言う。

 そして、僕らは広いフロアで足を止めた。


 二足歩行の巨大な豚が鉄球と鎧で武装している。

 彼は僕達を認識すると、鉄球を回転させ始めた。


「佇め……」


「待ってください」


 紫龍が、僕を止めた。


「ここは、僕一人でやらせてください。二人は、上へ」


「そんな急ぐ局面でもないだろう?」


 僕は戸惑う。三人で一匹ずつ倒していったほうがよほど楽にことは進む。


「試してみたいものがありましてね……行ってください」


 紫龍は微笑んで言う。

 夏希は、苦笑した。


「早く追いついてきなさいよ」


 そして、駆け出す。

 大丈夫か? そう思いつつも僕も駆け出す。

 夏希に向けられた鉄球を撫壁で弾く。

 そして、僕らは上の階へと移動した。



+++



「くっくっく、お前一人でよかったのか?」


「……ことが露見したら、僕は町に帰れなくなるからな」


 そう言って、紫龍は剣を構えて相手の攻撃に慎重に備える。


「いいだろう。一匹ずつ倒して食ってやろう」


「そうかい」


 紫龍は、剣を鞘に収めた。

 そして、次の瞬間にはその手に黒い剣が持たれていた。

 その剣は、禍々しい気配を発している。

 豚の化物は、表情を引き締める。


「お前も超越者か」


「能力が発現したのはつい最近だがな。だから、あまり使ってないんだ、この剣」


 紫龍は、豚の化物の目をまっすぐに見た


「お前で、斬れ味を確かめさせてもらう」


「面白い!」


 豚の化物が鉄球を回転させて、投じる。

 それを、紫龍は斬った。

 闇の波動が飛び、鉄球どころか塔の壁までもを破壊した。


「なっ……」


 豚の化物が絶句する。

 その隙に、その懐に紫龍は入っていた。


「餌になるのはお前だったな」


 そう言って、紫龍は剣を振り上げた。

 豚の化物は、真っ二つになって地面に倒れ伏した。


 それを確認すると、紫龍は闇の剣を消し、ロングソードを鞘から抜く。


「そんなタイムロスにはなっていないな。追いつける」


 そう言って、紫龍は重い鎧を着たまま駆けて行く。



+++



「あら、おあつらえ向きに二人なのね」


「ええ、おあつらえ向きに二人ですね、姉様」


 僕達を出迎えたのは、双子の姉妹だった。

 顔がそっくりなので多分双子なのだろう、という程度の憶測だが。


「なら、相手をしてあげましょう。演舞、死姉妹」


 そう言った瞬間、姉と呼ばれていた方の女性が物凄い速度で突進してきた。


「佇め、撫壁!」


 撫壁が現れる。

 相手が鞘から抜いた剣を受け流す。

 しかし、相手は蹴りで隙を帳消しにした。


 相手の剣を左腕の撫壁で受け止めたまま、数歩後方に足を動かす。なんて馬鹿力だ。

 そのまま、姉の激しい攻撃が始まったので、僕は撫壁でそれを防ぐことに集中する。


「轟け、豪炎!」


 妹が叫び、炎の塊が夏希を襲う。

 夏希は電光石火を使って回避して、手を相手に向けた。


 電撃が放たれる。

 しかし、相手はバリアを張って平然としていた。

 激しい戦いが続き、そのうち夏希が根負けしたように撫壁の背後に入ってきた。


「姉の剣術、妹の魔術、どっちも高レベルだわ。勝算ある?」


「……勝算は、ある」


 僕は断言した。


「本当?」


「撫壁を、捨てるんだ」


 夏希は目を丸くした。



+++



 夏希に小声で作戦を説明した後、僕達はそれを実行に移した。

 まずは撫壁で体当りして、姉を無力化する。

 ここからが、一か八かだ。

 僕は撫壁を振りかぶると、自分を守ってくれていたその盾を、投じた。


 妹にとっても予想外のことだったのだろう。バリアの発生が、一瞬遅れた。

 撫壁はバリアに挟まれる形となった。


「理想的ね!」


「だろ?」


 夏希が電撃を放つ。

 撫壁を通して、それはバリアの中に侵入し、中にいる者を焦がした。


「理恵!」


 姉が叫ぶ。その後頭部を、僕はショートソードの柄で叩いていた。

 姉はそのまま失神した。

 妹も動かない。


「勝ったな」


 僕は手をあげる。

 夏希はその手に、勢いよく自分の手を叩きつけた。


「いってー……」


「結構高くまで来てたんですね」


 紫龍が合流した。


「ええ、それなりに高くまで来た」


 夏希が、決意を込めた目で次の階段を見つめる。


「次はきっと、龍よ」


「……本気で行くのか?」


「撫壁の防御は絶対だからね。きっと勝てるわ」


 夏希は僕を見て、微笑んだ。

 僕は心音が高鳴るのを感じた。


「信じてる」


「あ、ああ。任せろ」


 相手に手を出したら犯罪だぞ、犯罪。そんな声が心の何処かでした。



第九話 完

次回『最上階の魔龍』

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