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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第五章 泣かないで、あなたは私が守るから
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泣かないで、あなたは私が守るから2

「約束は約束じゃ。持っていけ」


 そう言って、町長は地図を投げてよこした。


「この地図は、誰が……?」


「旅人じゃよ。数日に一度ふらりとやってくる。鎧や剣で武装できているのもその者の協力があってのことだ」


「狭間の世界の旅人……」


 夏希が興味深そうに言う。

 そして、言葉を続けた。


「数日待てば会えるってことですか?」


「さてな。ここ一ヶ月は来ておらんよ」


「どうする?」


 夏希が僕に訊く。


「行くなら最短コースだろ」


 そう、僕は軽い調子で言う。


「町長、地図、ありがとうございます。それともう一つお願いが」


「言ってみろ」


「一晩の宿を借りたいんです。できればシャワー付きで」


「……よかろう。空いてる家はいくつかある。適当に見繕え」


「はい!」


 礼をして、家を出る。


「待っているのは絶望じゃぞ」


 町長は、小声でそう言った。



+++



「いやー気が利いてるわー」


 ドライヤーで頭を乾かしながら夏希が言う。

 僕達は古い民家の居間で集まっているところだった。


「けど、恭司って撫壁だけじゃないんだね。剣士としての技量もあるんだ」


「アラタって奴のところに行ってみっちり鍛えたからな」


「撫壁だけじゃ不十分だった?」


「不十分だね」


 僕は鬱屈した感情を吐き出していた。


「……なんで?」


 夏希がドライヤーの電源を切り、不思議そうに訊く。


「俺は、スキルのおかげでパーティーに誘われたようなもんでな。実際、それで活躍していた時期もあった。けどな、それはこういうことでもあるんだ」


 僕は大きく息を吸って、吐く。

 未だ許容できていないその現実を口にするために。


「撫壁さえあれば、俺はいらないってことだ」


 夏希が言葉を失う。

 そして、必死に、言葉を紡ぎ出した。


「そんなことないよ。恭司は剣使っても強いし、撫壁を有効活用できる」


「修行したからだ。けど、未だに撫壁を貸してくれと言われても、俺に一緒について来てくれとは言われないよ。考えれば考えるほど不安になるんだ」


 初めて、人に告白した言葉だった。

 涙が頬を伝った。


「俺は、あいつにとって必要なくて、あいつはどんどん遠くに行って、置いてかれるんじゃないかって」


「その人を置いてこの世界に来ちゃったのは恭司じゃん」


 夏希が呆れたように言う。

 僕は苦笑して、涙を拭った。


「そうだな。立場があべこべだ」


 そして、僕は立ち上がる。


「もっと大人としてしっかりしないとなー」


 僕は硬直した。

 夏希に抱きしめられていたからだ。

 まだ乾燥していない髪から、シャンプーの香ばしい匂いがした。


「泣かないで、あなたは私が守るから」


 夏希はゆっくりと、子供に言い聞かすように言った。


「一緒に戦おう。私はあなたを戦力外だなんて言わない」


 僕は涙腺が緩むのを感じた。

 翠は僕を愛しているだろうか。撫壁のついでのように僕を思っていないだろうか。

 そんなことを思う。


 僕は、夏希の体を押して離した。


「ありがとう。けどな、このメンツじゃ俺も一線級だ」


「そうだね。それもそうだ」


 そう言って、夏希は笑った。


「おやすみ」


 夏希が微笑んで言う。


「おやすみ」


 僕も微笑んで言う。

 心音が高鳴っていた。

 守ってあげる、なんて、言われたこともなかったから。



+++



 旅立ちの日がやって来た。

 地図を見る。少し複雑だが、魔物の多い道を避けるルートがあるようだ。


「町長。僕も彼らについていきたいです」


 町長は目を丸くした。


「紫龍。お前はこの町の警備長じゃぞ」


「お許し下さい、町長。どうしても、僕も世界の果てとやらを見てみたいのです」


 町長はしばらく考え込んだが、頷いた。


「いいだろう。だが、必ず帰ってくるように」


「はい!」


 紫龍の元気の良い声が朝の町にこだまする。


「ということなんだが、いいか?」


 紫龍が僕らに訊ねてくる。


「どうする?」


 僕は夏希に訊く。夏希には、リーダーの資質というか、皆を引っ張っていくような明るさがあった。


「旅は道連れ世は情け。戦力アップ大歓迎よ!」


「つーことならよろしくな、紫龍さん。俺は恭司」


「私は夏希」


「三人で行こう。最果てまで」


 僕らは笑顔で拳と拳をぶつけあった。



第七話 完

次回『世界の果てを求めて』

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