高樹
準備は整った。拳銃と銃弾のつまった袋は外の木陰に隠してある。
食料をつめた鞄は夏希が隠している。
後は、出発するだけだ。
皆が寝静まった後、食料をつめた鞄を背負って、僕は夏希とともにショッピングモールの出口へ立った。
バリケードをどかしていく。
電気が、ついた。
「なにやってんだ、こんな時間に」
振り向くと、高樹が僕達に銃口を向けていた。
「佇め、撫壁」
そう言って、僕は撫壁を呼び出す。
そして、夏希を後ろにかばった。
「私達はここを出て行く。世話になったし、皆にも愛着はあるけど、私達は外に帰りたい」
「帰れるわけないだろ!」
高樹が叫ぶ。
「ここらへん一帯がモンスターの生息地に囲まれてるんだぞ! 自殺しに行くようなもんだ!」
「それでも、私は行く。お母さんに、謝らないといけないから」
「馬鹿げてる!」
「馬鹿でいい」
夏希は断言する。
「賢く危険を避けて長生きするぐらいなら、私は馬鹿で大通りを歩く人間でありたい」
「くっ……」
高樹の表情が歪む。
その指のトリガーが、引かれた。
銃声がなる。
撫壁は銃弾を跳ね返し、跳弾の音が周囲に響き渡った。
「じゃあ、高樹。行くから」
そう言って、夏希は歩いていく。
「お前がいなくなったら、俺はどうすればいい?」
高樹は、膝をつき、縋るように言う。
「自分で決めな。あんた、ここのリーダーでしょ」
「サブリーダーをやっていたのはお前だ」
「逃さないために役職をつける。あんたのそういうとこ、苦手だった」
そう言って夏希は歩いていった。
高樹は俯き、銃を投げ捨てた。
僕は夏希の後を追う。
「おいおい、いいのか? あんな別れ方で」
「あこまで言わないと、高樹は納得しないよ」
夏希は苦笑して歩いていく。
「無理、すんなよ」
「無理なんてしてないよ」
「涙声で言われてもなあ……」
夏希は、今にも泣きそうな声だったのだ。
「本当は」
夏希は、躊躇うように言葉の続きを紡ぐ。
「お互い、納得できる別れ方をしたかった」
僕は、夏希の頭を撫でた。
「人生にはこういうこともある。お前は自分の意志を通したんだ。誇っていい」
「それが間違いかもしれなくても?」
「いい経験にはなる。大事なのは、挑戦することだ」
「……いいこと言うね」
夏希は微笑んだ。
「じゃあ、食料は私が持つから、銃弾は撫壁で引きずってってね」
「わかったよ、リーダー」
二人の間には、連帯感が生まれつつあった。
第五話 完
次回『魔物の巣食う地へ』




