表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第五章 泣かないで、あなたは私が守るから
78/391

夏希達の現状

 少し離れた場所に、車があった。

 撫壁に怪物を乗せて押していた僕は、それで一息ついた。


「じゃあ、これ。お礼の印」


 そう言って、彼女は茶の入ったペットボトルを取り出した。

 日本で売っているものと変わらぬデザインだ。

 一度に半分ほど飲み干すと、生き返ったような気持ちがした。


 そして、車は草原を走り始める。

 中は満員だった。

 どうやら、少女はただの囮で、怪物を倒す罠やメンツは既に用意してあったらしい。


「凄いよ、この人。一人で魔物を倒したんだから」


「超越者が落ちてくるのは二度目だな」


 若い男が、感心したように言う。


「超越者?」


 周囲の人間が戸惑うように言う。


「そうなんだろ、あんた」


 若い男は、確認を取るように僕に訊く。

 僕は、一つ頷いた。


「俺は、盾とショートソードの超越者だ」


「おお、いよいよメンツが揃ってきたか……?」


 少女が楽しげに言う。


「夏希、夢を見るのは程々にしておけ」


「だって、高樹。私はこの狭間の世界から出たいんだ」


「狭間の世界……?」


 僕は思わず、口を挟む。

 若い男、高樹が気の毒そうな表情で説明を始める。


「異世界と現実世界の狭間の世界。それが、ここだ。どちらの世界にも行けない。どちらの世界にも戻れない。だから俺達は、ここで永住することにした」


「私はまだ希望を捨ててない!」


 少女、夏希が怒鳴る。


「それに、いつまでもあこにはいられないよ……食料がもう足りなくなるのは近い。食料を運んでくれていた男は消えてしまった」


 沈黙が車を包んだ。

 狭間の世界。

 そういえば、石神は異世界への移動を夢見ていたと聞いたことがある。

 これは、その研究の失敗例なのだろう。


 そのうち、大きなショッピングモールが見えてきた。地元のショッピングモールと同じ外見で、僕は戸惑った。

 車は、その駐車場で停まる。

 数人で協力して、怪物の死体を移動させた。

 内部の人は内部の人で、バリケードを一旦撤去するのに苦労しているようだ。


 狭間の世界。

 出る手段はどこにある?

 考えても、答えは出ない。


 月に映っているのは、異世界ばかりだ。


 そして、僕はこの世界二人目の超越者として歓迎を受けた。

 頼りになる味方が増えた、と手放しに喜ばれた。

 十代後半ぐらいの若者が多く、二十代半ばの僕は若干居心地の悪さを感じた。


 そして、僕の前に、紙皿に乗った魔物の肉と缶詰が運ばれてきた。


「沢山食べてね」


 夏希が微笑んで言う。

 あまり食欲がそそられない。

 そして、夏希は僕に耳打ちした。


「ねえ、元の世界に帰りたいと思わない?」


 僕は驚いて夏希の顔を見る。


「答えは、明日でいいよ。じゃあね」


 そう言って、夏希は高樹達のグループに戻っていった。

 元の世界に戻る手段がある?

 ならば、僕はなんだってするだろう。


 狭間の世界。

 現実世界と異世界が入り混じった世界。

 ショッピングモールの映画館で、僕は睡魔に襲われて、緩やかに眠っていった。

 映画館まで、現実世界と一緒だった。



第三話 完

次回『折れない心』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ