怪物との戦闘経験はありますか?
それから、僕は彷徨い歩いた。
歩いていれば、いつかは人里に辿り着くと思ったのだ。
幸いだったのは、すぐに川に辿り着いたこと。
これで水分補給に支障はない。
食事がなくても、二週間は生き延びられると思いたい。
夜になって、空を見上げる。
月の中に、不思議な景色が見えた。
それは、中世の時代。鎧を着た騎士達が、馬に乗って活躍している。
(なんだよ、ここ。どういうことなんだよ、これ)
そう思って、泣きそうになりながら寝転がる。
幸いなことに、気候は温暖で、僕は風邪をひかずに済んだ。
+++
異変は五日目にやってきた。
鬱蒼と生い茂った森林に、入ろうか考え込んでいた時のことだ。
少女が、森から飛び出してきた。
そのまま、彼女は駆け続ける。
その背後から、象が二足歩行になったような生物が追いかけてきた。
「なっ……」
あんな生物、見たことない。
本格的に疑問が強くなる。
ここは、どこだ?
しかし、迷っている暇はない。
僕は少女と象の怪物の間に入ると、詠唱した。
「佇め、撫壁!」
撫壁をしっかりと地面に突き立てる。そして、全体重を盾にかける。
象の怪物の前進は止まった。
「愚か者め。お前の腸を食ってくれるわ!」
そう言って、象の怪物は撫壁を何度も殴る。
しかし、撫壁は地面に埋まっていくだけで、ひび割れることはない。
相手は息切れしたのか、一時的に動作を止めた。僕は撫壁の裏につけられているショートソードを二本、鞘から抜き放った。
そして、撫壁を持ち上げてシールドチャージすると、そのまま撫壁ごと相手を貫いた。
背面からの攻撃に弱い撫壁。その特性はこんな時のためにある。
「ぐおおおお!」
呻き声がする。腹部辺りに突き刺さったのだろう。
そして、僕は追撃を仕掛ける。
「悪いな。これも生存競争だ」
そう言って、僕は相手の喉元目掛けてショートソードを突き立てた。
重い体が、地面に倒れ伏す。
僕は撫壁を消すと、唖然としている背後の少女に話しかけた。
「怪我はないかい?」
「凄い……モンスターを一人で倒した」
「俺の撫壁は無敵だからね」
「ねえ、お兄さん。行き場所ある?」
少女が目を輝かせて言う。
「いや、それが道に迷ってるところだ。人里に行きたい」
「じゃあ、うちにおいでよ。人の住んでないスペース、まだまだ一杯あるから」
限界集落にでも来てしまったのだろうか。
それにしては、さっきのモンスターはなんだ? 日本どころか地球のどこを探しても生息していそうではない。
「でさ。ついでに、その盾であのモンスターを運んでくれないかな」
「運ぶ?」
僕は戸惑うように言う。
「今日の食料だ」
そう言って、少女は天真爛漫に微笑んだ。
僕は、あの怪物を食べるという発想に若干引いていた。
なんにせよ、物語が動き始めるのを実感としていた。
第二話 完
次回『夏樹達の現状』




