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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第五章 泣かないで、あなたは私が守るから
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壁役の男

今日か明日で五章完結まで投稿できたらと思います。

よろしくお願いします。

 僕の名前は恭司。盾のスキル撫壁を使う超越者だ。

 と言っても、秀でているのはスキルだけで、それ以外はなんの変哲もないサラリーマンである。

 恋人にスキルを貸している時もあるので、最近は一般人になっていることのほうが多い。


 撫壁は優秀なスキルだ。前面からの攻撃を完全に遮断する。相手がスキルキャンセラーでもない限り、壊れたことはない。

 だから、いつも僕は撫壁を信じて皆を守る。

 華々しいアタッカーではない脇役。それが僕。


 だから、その人生はずっと変わらないと思っていたし、そんな人生を愛してもいたのだ。

 そう、あの事件が起こるまでは。



+++



「市内で石神の痕跡が見つかった?」


 電話をしている翠の一言に、僕は驚いた。

 石神勇人。ソウルイーター事件の黒幕だ。


「そりゃ行きますよ。大輝くんも来たがるんじゃないかなあ……ああ、彼の存在は警察には秘密でしたね」


 翠はベッドから立ち上がる。


「じゃあ、私が大輝くんの分まで調べます。何時頃に伺えばいいですか? はい、わかりました」


 そう言って、翠は電話を切った。

 天衣無縫。最強の超越者。様々な異名を持つ警察の切り札。それが、僕の恋人である翠だ。

 恋人か、女友達か、曖昧な点はあるのだが。


「行くのか?」


「ええ。ソウルキャッチャーじゃないとわからないものがあるかもしれないから」


「警察にもソウルキャッチャーはいるんだろ? なんでお前じゃなきゃ駄目なんだ?」


「それは……」


 翠は人差し指を顎に当てて数秒考え込んだ。


「実戦経験の差?」


「なんだそれ」


 呆れるしかない。

 最近、恐怖感がある。どんどん彼女が遠い場所へ行って、最終的に死んでしまうのではないかという恐怖感が。


「一般人でありたいって言ってるけど、最近のお前はその範疇を逸脱しているよ」


「けど、私はなにもできない一般人であるよりは、なにか役に立つ一般人でありたい」


 なにもできない一般人。その一言が、胸に刺さった。


「わかった。俺も行くよ」


「恭司も?」


 翠が戸惑うように言う。


「ボディガードは必要だろう。レディ」


 翠はくすぐったげに笑った。


「わかった。期待してるよ」


 それは、彼女に縋る行為だったのかもしれない。

 遠くへ行く彼女をせめて繋ぎ止めようとするような、子供じみた足掻き。

 危険な場所に行くという意識は、なかった。



+++



「パソコンのパスの解除ができました」


 男の一言に、歓声が上がる。

 地下研究所には、十数名の刑事が集まっていた。


「慎重に扱ってね。このパソコン、なんか変な機械に繋がってるから」


 楓が釘を刺すように言う。


「わかってますよ。年頃のお嬢さんを相手にするつもりでやります」


「パソコンを家に連れてってベッドに押し倒すのか?」


 揶揄に笑い声が上がる。


「丁重にお扱いしますよ」


 飄々とした表情で、男はパソコンの操作を再開する。


「で、翠。ソウルキャッチャーとして気づく点はない?」


 楓の言葉に、翠は周囲を見回して、首を横に振る。


「私はわかりません。ただ、歩美が……」


 歩美。翠と共にある浮遊霊だ。


「そこの機械から、魔力が漂っていると」


 そう言って、翠はパソコンにつながっている機械を指した。


「どんな魔力?」


「なにか、世界の理そのものを歪めてしまいそうな魔力だと言っています」


「……避難したくなってきたな、私」


 楓は投げやりに言った。

 僕は翠の後を追って、その、世界の理を歪めるという機械に近づいた。

 眺めてみる。

 その中心にあるのは、インスタントコーヒーでも入ってそうなただの瓶だ。


「ん? これはこういじって、これをこうして……なんだろう、このプログラム」


 男はそう言って、キーボードを叩く手を止めた。


「自爆システムじゃないでしょうね」


 楓が眉間にしわを寄せて言う。


「爆発物がないのは確認済みです」


 他の刑事が言う。


「これを作った人間は魔法科学に通じてるからちょっと厄介なんですよね。魔法と科学の融合というか。ちょっといじってみるか。撫壁の君。そこの機械の前で一応撫壁を展開しててくれるか?」


 頷いて、撫壁を呼び出す。


「佇め、撫壁」


 巨大なカイトシールドと一対のショートソード。それが僕の撫壁だ。

 前方からの攻撃には圧倒的な強さを誇り、後方からの攻撃にはやや弱い。


「アプリケーション、起動」


 男がそう言って、キーを叩いた瞬間に、悪寒が体を走った。

 駄目だ。ここにいては駄目だ。皆、酷い目に遭う。

 けど、それを防げるのが撫壁ならば、動くわけにはいかない。


「恭司、逃げて!」


 翠の声がする。

 しかし、僕は壁役だ。逃げるわけにはいかない。

 その時、背筋を大きな舌で舐められたような悪寒が僕を襲った。

 宙に体が浮く。

 そして、僕の体はばらばらに分解された。



+++



 呼吸をしている。生きている。青い空を眺め、僕はそれを確認して安堵する。

 そして、体を起こす。


「佇め、撫壁」


 撫壁は現れた。スキルは使えるようだ。

 周囲を見渡す。

 絶句した。

 広々とした草原が、僕の周囲に広がっていた。


「どこだ、ここ……」


 返事をしてくれる存在は、いなかった。

 スマートフォンは圏外。

 ここは日本なのか? それすら怪しい。


 わかっていることは、厄介事に巻き込まれたということだった



第一話 完

次回『怪物との戦闘経験はありますか?』

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