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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第四章 必ず君を生き延びさせてみせる
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鬼神

「佇め、撫壁!」


 僕と翠は異口同音に唱えた。

 翠は目を丸くして僕の撫壁を見ている。


「説明は、します。今は、集中して」


 翠は、黙って頷いた。

 そして、相手の動向を見ようと盾を傾けた時のことだった。


「後ろ!」


 翠が叫ぶ。

 慌てて振り向く。一手遅い。内蔵を破壊される。

 そう思った一撃を、アラタの刃が止めていた。

 相手の指が数本落ち、悲鳴とも雄叫びとも言えない声が上がる。


「そのまま、とどめを刺させてもらう!」


 アラタはジャンプして、相手の首筋を断つ。

 それは、人間相手なら確実に致命傷となった見事な一撃。

 だが、敵は鬼だった。


「ぐるおおおおおおおおお」


 叫ぶと、鬼はアラタを捕まえて、放り投げた。物凄い勢いでアラタは飛んでいく。

 それを、大輝がキャッチして、地面に落としたのが見えた。

 僕は内心安堵する。


 鬼の腕は既に再生していた。

 元から傷がなかったかのように。


「お前ら、裏切ったな。最初から人質を奪うつもりだったな。信じた私が間違っていた。これが腐敗とでも言おうか」


「私は綺麗事より、仲間の命をとる」


 そう言って、翠は鉄の手で相手を殴りつける。

 鬼の力に鉄の籠手。これは効くかと思ったが、相手は翠の足を捕まえて地面に叩きつけた。


「やめろおおおお!」


 僕はスナッチャーを発動させて、相手の腕の部位の魂を吸う。

 とたんに、相手の腕が萎んでいく。

 翠の体が僕に投げつけられて、僕は背後に倒れ込んだ。

 そこに、追撃の金棒が振り下ろされる。

 それを、翠は咄嗟に作った刀で受け止めた。


「青葉くん、避けて」


 言われて、僕は一瞬考える。

 避けるだけでは、勝てない。


 僕は手に剣を作り出して、金棒を押し返すのに協力した。


「青葉くん……」


「勝つんだ! 勝って、皆で帰るんだ!」


 翠は頷く。


「そうだね、弱気になってた」


「皆、とはなんだ……?」


 鬼神は、不思議そうに訊く。


「お前らは友達でもなければ親戚でもなければ家族でもない。お前らを決める括りとは一体なんだ? 普通はクラスメイトとすら背中を預けあえないのに何故お前らは互いに信用できる」


 翠も、僕も、きょとんとした表情になる。

 そして次の瞬間、顔をしかめ、力を込める。


「翠さんの純粋っぷりを信じてるから!」


「青葉くんなら逃げないと思ったから!」


「相手を信じてるから!」


 二つの声が重なる。

 そして、僕と翠は相手の体を十字に斬った。


 その傷も、徐々に回復していく。


「これ、ソウルキャッチャーじゃないと無理ゲーじゃないですか?」


 僕は呆れたように言う。


「それ、言わないで。私のイメージが悪くなるから」


「そういうわけにもいかないでしょ」


「だべるのは帰ってからにしな」


 呆れたような声が響く。

 大輝のものだ。

 彼の光の腕が、背後から鬼のハートを貫いていた。


 莫大なエネルギーが大輝に流れていくのがわかる。


「無理しないで、大輝! あなたまでバケモノになるつもり?」


「ふん。これぐらいの力、俺なら制御してみせる」


「ふざけやがってえええええええ」


 鬼が叫ぶ。その叫び声とともに、炎に燃えた巨大な石が古城跡地の草原に降り注いだ。

 地響きに怯えながらも、僕は前を見続けた。


「合成スキル……こんなことまでできるのか」


 翠が呆れたように言う。


「終わらせよう、ここで」


 翠は地面を踏み、構えを取る。

 そして、跳躍して、鬼の頸動脈を狙った。

 しかし、少し浅い。脈までは届いていない。


 鬼が笑うのが見える。

 その表情が硬直する。

 僕は翠の後を追って、跳躍していたのだ。

 金棒が振るわれる。それより早く、僕は鬼の頸動脈を断っていた。


「終わる……終わる……私の逃避行が……こんな醜い姿で死ぬのは、いや……」


 そう言って、春香は涙する。

 地面に倒れた時、その体は少女のものに戻っていた。

 翠が彼女に手を触れると、その腕から光が溢れ始めた。光は蛍のように飛んでいく。自分の体の元へ、あるいは天国へと飛んでいく。


「彼女には、普通の女の子として生きる道もあったと思う」


「……そうだな」


 大輝が重々しく頷く。


「私は許さない。ソウルイーター事件の黒幕を」


「内科医だよ」


 大輝の一言に、翠は目を丸くする。


「おもい総合病院で務めていた、内科医だ。名前は石神勇人」


「あんたの捜査って結構進んでんの?」


「怪しい書類や手紙が沢山ある部屋は何個も見つけて通報してる。警察も動いてるはずだが」


「石神勇人……かぁ」


 翠は呟き、手を天にかざす。


「一般人であることを捨てる気はないけれど……倒したい」


「そう思うなら少しでも吸収しておけ。アラタの報告じゃアラタの剣も通らなかったらしいぞ」


「げげっ」


 翠はそう言うと、吸魂を再開した。

 こうして、ソウルイーター三人組の暴走は終わったのだった。



第十五話 完

次回大団円『出会いと、別れと、再会と』

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