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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第四章 必ず君を生き延びさせてみせる
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消えゆく体

「手錠とかはしないんですか?」


 車の助手席に押し込められた水月は、戸惑うように言う。


「溶かされたら終わりでしょ。私は無駄なことはしないんだ」


 春香は車を発信させる。やや危なっかしい運転だ。


「鬼の力を集めて、どうするんです?」


「さらに、強くなる」


「異形の姿になろうとも……?」


「元々、終身刑か死刑は確定しているんだ。外見ぐらい諦めるさ」


「けど、鬼の威圧感のある外見は、あなたを孤立させます」


「……そうかもね」


 春香は喉を鳴らして笑った。


「私はもう詰んでるんだ。なら、あんたを巻き添えにするのも悪くないかもね」


「私は、死ねません」


「ん? 炎以外になにかスキルでもあるのかい?」


「大事な人に、大事なことを言っていないから、死ぬわけにはいかないんです」


 春香は毒気を抜かれてしまった。


「大事な人、か……」


 春香は前を見る。


「どうしてこうなったかね、私も」


 鬼そのものとなった顔を指でなぞる。目の上は大きく膨れ上がり、眉間には自然とシワができ、口からは牙が出ていた。


「もう、一般人は無理だな」


 そう、春香は呟いた。


「これは、呪いの力だ」



++++



 僕は、翠に相談の電話をかけているところだった。

 翠は一も二もなく協力を約束してくれた。

 そこで、彼女は不思議なことを言った。

 アラタにも相談してみようと言うのだ。


 アラタ宅に電話をすると、しばらくして彼が電話に出た。

 事情を話していくうちに、徐々に相手の顔色が悪くなっていくのがわかる。


「お前が秘密を明かしてくれたように、俺も一つ秘密を明かしていいか?」


「ん? はい、いいですよ」


「うちに大輝の奴がいる」


 僕は衝撃を受けた。鬼の魂を複数所持しているジョーカーカードのような男だ。

 僕の歴史改変がそんなところにまで影響を及ぼしているとは思わなかった。


「なんとか協力させる。戦士は、四人でいいか?」


「……俺も、できるかぎりのことをやりますよ」


「そうだな。じゃあ、後で」


 電話が切れて、一息つく。水月は大丈夫だろうか。落ち着かない。一分が十分にも感じられる。

 その時、玄関の扉が開いた。

 葵が、怪訝な表情で礼拝堂に入ってきた。


「おい、青葉、サボるなよ」


「ん? なんだ?」


「雪かきしてない電気ついてない。しっかりしろよな」


「ああ……今日はいいんだ」


「水月に言ってもらわないとな。水月は?」


「なあ、葵」


「なんだよ、青葉」


「水月は夜頃帰ってくる」


「そうなのか?」


「誓ってくれ。水月を大事にすると。水月に会いに来ると」


 葵は戸惑うような表情になる。


「お前……どっか行くのか?」


「というかな、いれそうにないんだ」


 そう言って、手首すら消えた左手を見せた。

 葵は、真っ青になって叫んだ。


「なんだそれ、なんだそれ。救急車か? 翠か?」


「力が切れかけてるんだ。だから、自分でなんとかする。けど」


 そこで言葉を切って、葵の肩を叩く。


「俺はいなくなる。良かったな」


「……水月が寂しがる。良かったとは言えないよ」


 その一言に、胸を刺されたような思いになった。


「寂しがられても、行かなくちゃいけない時があるんだ」


「そっか。お前、結構勝手だな」


「そうだな。俺は勝手なんだ」


 もっともらしく言うと、葵は少し笑った。



+++



「うへえ……」


 大輝は思わず呟いた。

 古城跡地から発せられる常人離れしたオーラに、呆れてしまったのだ。

 気配を隠す気がまるでない。むしろ、まるでかかってこいと言わんばかりの。


 自分も気配を隠さなければこうなるのかな、と気分が悪くなる。


「すまんが、お前の協力がないと勝てる相手じゃなさそうだ」


 アラタが珍しく愁傷に言った。


「シスターには俺も良くしてもらった。恩返しをしたい」


「ああ、俺もだ」


 大輝はぼやくようにそう言うと、コートのフードを目深にかぶった。

 そのうち、翠がやって来た。


「よっす、大輝、久しぶり」


「友達かよ」


「そう言うなよー、アラタくんと響ちゃん相手には仲良くしてたんだろ?」


 そう言って、翠が肘で大輝の肘を突く。


「燃やしてやろうか?」


 少し苛立ったのは事実だった。


「うん、敵をね」


 翠は、静かに言って、臨戦態勢に入った。

 落ち着いた雰囲気が周囲に漂う。

 これだから、調子が狂う。

 ある時は倒れるまで戦う狂戦士。ある時は普通の社会人。

 そのギャップに、大輝は一生ついていける気がしない。


 そして、青葉がやって来た。


(……ハートレス)


 青葉は車から降りると、深々と頭を下げた。


「協力、感謝します」


「シスターには私達もお世話になっているから」


「だよね」


「ま、俺も一宿一飯の恩義があるからな」


 大輝はそう言って、青葉を指差した。


「ところで、お前の魂はどこにあるんだ?」


「強いて言えば……未来に」


「タイムトラベラー?」


「これ以上は、聞かないでください。これ以上歴史が改変されればどうなるかわからない」


「……わかったよ」


 大輝はそう言うと、歩き始めた。


「お前ら地元民だろ? 案内しろよ」


 そう言って、傍若無人に大輝は歩いていく。

 三人は、慌ててその後に続いた。



第十三話 完

次回『ソウルキャッチャーズ』

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