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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第四章 必ず君を生き延びさせてみせる
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激戦

 敵はまず、銃で大輝を狙った。

 それは尽くアラタのスーツに弾かれる。

 そして敵は、室外への逃亡を狙った。


 扉が、勝手に閉まった。


「そう逃げるなよ……美味しく料理してやるからさぁ」


 そう言って、大輝の腕が相手を狙った。

 アラタは相手に溜めの時間を与えないように斬り込んでいた。


 運動神経はそれなりにある相手らしい。しかし、肉弾戦等の経験は少ないように思われた。

 純粋な身体能力だけなら相手が上だろう。だが、経験の差が傷となり相手に蓄積されていく。

 アラタは春香の腹を蹴り、花月のみぞおちに剣の柄を叩き込んだ。


「でかいの、行くぞ!」


 大輝の声に、アラタは慌てて距離を取る。

 春香は逃げようとしたのか、花月の手を取って大輝に背を向けた。


 しかし、その先にあるのは壁だ。


「血と臓物をぶちまけるがいい……鎌鼬の踊り!」


 風の刃が幾重にも重なり合って円状の暴風を作り上げた。

 それに巻き込まれた壁が、天井が、どんどん消滅していく。


 そして、大輝は諦めたように攻撃の手を止めた。


「逃げられた。つまらん」


 見ると、壁に穴が開いている。それは、鎌鼬の踊りでできたものではない。人がぎりぎり通れるような穴だ。


「んじゃ、俺適当にぶらついてるから、適当に話でっち上げといてくれ」


「ああ。俺の協力あっての勝利だったからな」


「ん? なに寝ぼけてやがる。俺が要だっただろうが」


「まあそういうことにしとくか」


 大輝はさらに言い返しかけたが、反論するのも馬鹿らしいと思ったのか、逃げていってしまった。


「酷い惨状だ」


 アラタはぼやく。

 天井と壁には穴。扉は粉々。まったく超越者の中でもやんちゃな連中が集まるとこの有様か。


「師匠ー!」


 勇気が抱きついてくる。

 その背を、軽く二度叩く。


「よく頑張ったな」


「敵が溜めてる間に私が倒しておけばよかったんです。ごめんなさい!」


「いや、最善を尽くしたよ。今回は、肉弾戦闘型には荷が重かった」


「私、遠距離射撃型でもあるんですけど……」


「それはそれ。さて、言い訳を考えなきゃな。あと、響達を呼び戻しに行ってくるか。お前はここを守ってくれ」


「命に代えても」


「馬鹿。命は自分の家族のために使え」


「はい」


 勇気は微笑んだ。

 こいつはこいつで結構美人だよなあとアラタはついつい思う。


「そろそろ離れてくれるか」


「あ、はい! 失礼しました」


「んじゃ、避難所行ってくるわ」


 そう言って、アラタは歩き始めた。



+++



「んー、おかしいのよねえ。アラタくんの証言」


 楓は、書類を眺めて足を組みながら、翠に話しかける。


「アラタくんの証言が?」


 翠は、興味深げな表情になる。


「そう。全ての攻撃をスーツで防いだって言うけど、壁や天井を削るような攻撃よ。勇気ちゃんが巻き込まれてないのが不思議じゃない?」


「うーん、それは確かに矛盾しているなあ……」


「生意気にも、なにか隠しているわね」


「削るとなると、風ですか……」


「風の能力者に思い当たる節は?」


「いませんね、今のところ。他の県なら何人かいるんですが、刑事です」


「ふむ……なーんかこう、におうのよねえ」


「まあ、アラタくんは私達の期待は裏切りませんよ」


「なんであんたはそう手放しに信頼できるかなー」


 楓は背もたれに体重を預けて、考え込む。


「しかし、アラタ家は気の毒だね」


 そう言って、楓は悪戯っぽく微笑む。

 翠は苦笑するしかない。


「ですね。もうすぐ正月なのに、家が穴だらけ」


「まあ修理費は警察が出すけどねー」


「そんなことできるんですか?」


「超越者の犯罪は特殊だからしゃーない」


 そう言って、楓はアラタの報告書をデスクの上に置いた。


「さて、捜査だ」


 楓は腰を上げて、歩き始める。

 もう、書類のことは頭になかった。



+++




 公園で、花月と春香は茂みに身を潜めていた。

 春香の治療スキルで、その肩の重症は徐々に消えつつある。


「あんなバケモノだとは聞いてない」


 花月がぼやくように言う。


「どっちが?」


 春香は面白がるように問う。


「剣士も、裏切り者も、両方」


 春香は思わず小さく笑った。


「そうね。悲惨な敗戦だったわ」


「ねえ、春香。この町はもう危険じゃない?」


「ん?」


「あんまりにも強敵が多すぎる。結託も強い。事実、あの直後にはパトカーがあの家を取り囲んでいた」


「まあ、そうねえ……けど、お父様の命令は絶対だから」


「勝てると思う?」


「私達が力を合わせれば」


 そう言って、春香は片手で花月の手を取る。

 花月の表情が緩み、そして緊張に強張った。


「春香……?」


 花月は、銃で腹部を撃たれていた。

 そして、光の腕が伸びてきて、倒れた花月のハートを握る。

 どんどん命の光が吸収されていく。そんな実感があった。


「これもお父様の命令でね。できるだけ、鬼の力を一人に集めろ。なにか変化が起きないか調べたい」


「それじゃあ、あなたは最初から……!」


「ええ、最初からあなた達を裏切っていたってわけ。ゲーム制を提案したのも、月葉を負けるとわかってて行かせたのも、全部わざと」


「春香ァ!」


 花月は叫ぶ。

 しかし、それが断末魔になった。

 花月の意識は、闇の中に落ちていった。



+++



 縁側で、アラタはくつろいでいた。

 今、リビングには修理の業者が来ている。

 楓の指揮らしく、数日内には応急処置が取られるそうだ。本格的な修理工事はそれからとなる。


「いやー、お父さん怒ると怖えーのなんの」


 アラタは笑う。


「冗談になってないわあ……」


 妹が、溜息混じりに言う。


「悪夢に出そう」


「ごめんね、私のせいで」


 響が、申し訳無さげに言う。


「いいよ。海外で逃亡生活続けるよりはマシっしょ」


 アラタの一言に、響は苦笑した。


「残るソウルイーターはあと一人」


「お兄ちゃんがいるから二人だけどね」


「あいつはもう味方みたいなもんだから、違うだろう。どういうんだっけか……そう、ソウルキャッチャー」


 アラタは息を大きく吸って、吐き出す。


「大詰めだな……この危機にも」


「うん……誰も死なないで、終わってほしいよ」


 響は、祈るように言った。

 自分達は、どこまで堪えられるだろうか。そんなことを思う。

 敵のボスは明らかにアラタ達を狙っている。

 その刺客に、いつまで対処すればいい?


 響との将来に、一抹の不安を覚えたアラタだった。



第十一話 完

次回『邪悪の生まれる日』土曜更新(予定)

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