表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第四章 必ず君を生き延びさせてみせる
65/391

疑惑

「お前さー。炎と氷を使えるだろ?」


 警察署で、相馬が楓に訊ねる。


「だからなによ」


 楓は面倒臭そうに紙パックのジュースを飲みながら答える。


「メドローア撃てねーの? メドローア」


「あのね」


「うん」


「そんな技使えたら今頃乱発してるわ」


「だよなー」


「それにしても、ややこしいことになってきたわね」


 楓は、紙パックを握りつぶすと、ゴミ箱に入れた。


「ハートレス」


 相馬が呟くように言う。


「彼が古城跡地に行きたがらなかったわけだわ。翠と会えば、ハートがない人間ということがバレる」


「生きている人間にはハートが必ずついてるって話だったよな。なら、あいつはなんなんだろう」


「……生きる屍?」


「どうする?」


「気になることはまだある。彼は刃のブーメランを使ったって言ってた」


「それがなにか問題か?」


「彼のスキルは氷なのよ。武器具現化系ではない」


 相馬が腕組をして唸る。


「まあ葵みたいにスキル二つ持ってるやつもいるしな」


「けど、異質な要素が揃いすぎているわ」


 楓は頭上を見上げる。


「青葉、彼は……何者?」


 答えは出ない。

 また、近々彼の本心を聞き出す必要があるかもしれない。

 楓としては人の心を覗くのは嫌う手だ。だから、翠にもそれをしなかった。

 だが、今回は相手が異質すぎるのだ。


「ただでさえ三人もソウルイーターがうろついてるのに。頭が痛いわ」


 そう言って、楓は溜息を吐いた。



+++



「いつまでもお世話になっている訳にはいきません」


 母の声が聞こえたので、響はキッチンに移動した。

 母が、アラタの母に話している最中だった。


「ゆっくりしていきなさいよ。仕事も休みなんでしょう?」


「けど、こんな風に毎日家に篭っていては、気が滅入ります」


「そうね。たまにはアラタをボディガードにつけて外出するのもいいかもしれないわね」


「アラタくんを……?」


「フォルムチェンジは見たでしょう? あの子はあの子で、厄介なことに足を突っ込んでるみたいね」


「帰らせてください。私は、響と二人の生活に戻りたい」


「帰らないよ!」


 思わず、響は大声で言っていた。


「響、あんたはまだ子供なの。親の言うことを聞きなさい」


 母は、諭すように言う。


「嫌だ。帰りたくない!」


 母は苦い顔になる。


「ヤミ金からお金を借りてたのは悪かったと思っているわ。けど完済の目処は立っていたの。もう二度とあんなことしないから……」


「そういうことじゃないの!」


 私とあなたは血が繋がっていない。一行にも足らない文字が口から出てこない。

 響は、その場を走って駆け出した。

 そして、縁側に座っているアラタの横に座る。

 アラタはなにも言わず、肩を抱き寄せてくれた。



+++



 生きとし生けるものには存在するはずのハート。それが、青葉にはないという。

 だから、相手はスキルを盗めないし、魂を盗むこともできない。


 どういうことだろう。彼は、生きてはいないのだろうか。

 礼拝堂で、祈るというよりはぼんやりとしていた水月は、そんなことを考える。


 その時、礼拝堂の扉が開いた。

 少し怯えつつ、振り返る。


「水月、ただいま」


「お帰りなさい」


 自然と、表情が緩む。

 好印象と疑惑。その二つが、水月の中で入り混じっていた。


「外の雪かきは終わったよ。雪っつっても三センチも積もってなかったけど」


「けど、綺麗な方が気持ちがいいでしょう?」


「そりゃそうだ」


 そう言って、青葉は肩を竦める。

 相変わらず、サングラスをかけている。


「ねえ」


「なんだ?」


「サングラス、外してみせてくれませんか?」


 青葉はしばし考えて、サングラスの位置を人差し指で整えた。


「やだ」


「それぐらい、いいでしょう?」


「やだ。この話はおしまい」


「じゃあ」


 水月は、少し真顔になる。


「あなたは、何者なのですか?」


 沈黙が、場に漂った。

 青葉は、礼拝堂の席に座る。


「予知を元に君を守りに来た超越者。それじゃあ不足かな」


「不足です。なんであなたにはハートがないんですか? なんであなたは多様なスキルを持っているんですか?」


「複数スキルを持つ人間もいる。葵の坊っちゃんもその類だろう」


「じゃあ、ハートは?」


 青葉は、黙り込む。


「……まだ短い付き合いで心を開けと言うのも無理かもしれませんが」


 水月はついつい拗ねたような口調になる。


「違うよ」


 青葉は、淡々とした口調で言う。


「守りたいという相手じゃなければ、俺も護衛なんかしない」


 水月が口を噤む番だった。

 しばらくして、恐る恐る訊ねる。


「私達は……会ったことがあるんですか?」


「ああ、ある。俺にとっては、何年も前だ。悔いのある別れだった。もう一度会えたならと思っていた。それが、叶った」


 そう言って、青葉は立ち上がる。


「あとは、守るだけだ」


 青葉は歩き始める。そして、扉を開けて、個室に向かって歩いていった。

 水月はその後ろ姿を見ながら、何故か心音が高鳴っている自分を感じた。



+++


 ソウルイーター三人組は、公園でチョコを口にしていた。


「ハートレス。正直奴は不可解だ。魂掴めねーんだもん」


 春香が言う。


「けど、倒す必要があると思う。シスター殺しも防がれたし、複数のスキルを持っている。吸収できれば、私達にとってもおいしい」


 花月が難しい表情で言う。


「じゃあ、範囲殲滅型ソウルイーターの私の出番かな」


 月葉が不敵に微笑む。


「そうね。スキルは一つでも多いに限る。全ては、私達のお父様のために」


 春香の言葉に、一同頷いた。



+++



 あの人は何者?

 そんな思いが、水月の頭の中を回転し始める。


(私のこと、好きなのかな……)


 それを匂わせるような言動はいくつもあった。

 なら、自分はその思いにどう答えれば良いのだろう。

 結論は出ない。


 その時、悪寒を覚えて水月はベッドから降りた。

 部屋の扉が開く。青葉が駆けつけてきたのだ。


「来るぞ。この感覚は、範囲殲滅型ソウルイーターだ」


 水月は絶句する。

 広範囲の人間の魂を一度に吸収するソウルイーター。それが範囲殲滅型ソウルイーター。

 逃げ切れるのか? そんな思いがある。

 悪寒はますます膨らんでいく。針で突けば破裂しそうだ。


「溜めに時間がかかるだろうが、今からじゃ逃げ切るのは無理。なら、仕方がないな……」


 青葉は自分に言い聞かせるようにそう言って、手を掲げた。


「佇め、撫壁!」


 青葉の手に、巨大なカイトシールドが現れる。

 水月は頭が真っ白になった。

 それは恭司のスキル、撫壁ではないか。


「それは、一体……」


「いいから、スキルの陰に隠れろ!」


 青葉はそう言って、水月の肩を抱き寄せる。

 こんな状況だと言うのに、心音が高鳴る水月がいた。

 思えば、父が死んでから、頼りにできる人間が傍にいなかった。その影響もあるのだろう。

 光が、弾けた。


「息を殺して。敵が死体を確認しに来たのを返り討ちにする」


 水月は、黙って頷く。

 そのうち、足音が近づいてきた。


「さて、このゲームの勝者に一歩前進って感じかな」


 上機嫌にそう言いながら、ソウルイーターは近づいてくる。

 青葉は扉から飛び出て、右手を前に差し出した。その先から、光の手が伸びていく。


 水月は今度こそ言葉を失った。

 ソウルキャッチャー、ソウルイーター特有の吸魂能力。スナッチャーだ。


 水月も慌てて外に出ると、光の手はソウルイーターの胸の手前辺りで握りしめられていた。


「あんたの中で嘆いている人間を、解放してやる」


「小癪な……!」


 そう言って、ソウルイーターは銃を取り出して構える。

 水月は、二人の間に立って、炎の壁を作った。


「くそ、くそ、離せ!」


 ソウルイーターは剣を召喚して光の手を両断した。

 そして、逃げていく足音が周囲に響き始めた。


「もうあいつはリタイアだな。八割方のスキルは回収した」


 そう言って、青葉は手を掲げる。光が飛び散っていく。他の地で捕らえられた魂が、帰っていく光。


「なんで、あなたが撫壁を……?」


 水月は。恐る恐る聞く。


「同系統のスキルに目覚めることもある」


「なら、なんでスナッチャーを?」


「……それは、秘密にしておいてくれ」


「なら、私にだけ本当のことを教えてください」


「あんたを守る。その約束は本当だ。だから、あんたはそれだけ信じてくれればいい」


 水月は、口を紡ぐ。

 質問は喉元まで大量に込み上がってきていたが、その全てに答えが返ってくるとは思えなかった。

 だからだろうか。

 水月が聞いたのは、自分でも思いもしないことだった。


「最終決戦で、私が必要だからでしょうか」


 青葉は黙り込んだ。

 その顔が、泣きそうに見えたのは、気のせいだろうか。

 水月の顔を、彼は真っ直ぐに見つめる。


「私が必要戦力だから、守ってくれるんでしょうか」


 数分、二人は、黙って見つめ合っていた。


「……違うよ」


 青葉は、重々しく口を開いた。


「君に、生きていてほしかったんだ。君と一緒に、戦いたかったんだ」


 それは、まるで子供返りしたような口調だった。

 青葉は数歩進んで、水月の前に立つ。

 そして、力強く抱きしめた。


「死なないでくれ……俺に、もう悲しい思いをさせないでくれ」


 水月はしばらく呆然としていたが、そのうち、慰めるように青葉の背を撫でた。

 必ず君を生き延びさせてみせる。その一言を思い出すと今では心が温かくなる。

 ミステリアスさから生まれた興味。

 いつの間にか、その感情には、微妙に違うものが混じっていた。

 そして、彼の言動から察する。

 自分は彼を、傷つけたことがあるのだと。


「ええ、私は死にません」


 水月は、慰めるように言う。


「あなたが守ってくれるんですから」


 青葉の手に力がこもる。


「ちょっと、痛い痛い」


「ああ、悪い。けど、しばらくこうさせてくれ……」


「いいですよ。悲しい時は、泣きましょう。嬉しい時は、笑いましょう」


 そう言って、水月は青葉の背を撫でた。


「私は、傍にいます」


 罪悪感? 恋愛感情? それは、水月にもわからなかった。

 あるいは、その両方だったのかもしれない。



+++



 月葉は盗んだスクーターで合流地点に向かっているところだった。

 スキルの大半を奪われた。しかし、まだ自分は戦力になるはずだ。

 さらに、相手がソウルキャッチャーだという情報まで得られた。

 そこまでは責められないだろう、とたかをくくる。


 そして、集合場所の公園で二人にことの顛末を説明した。


「そっか」


 春香は、呟くように言う。


「範囲殲滅も効かない。スキル吸収能力を持つ。いい情報だわ。よく手に入れてくれた」


 月葉は安堵して頬を緩める。

 そのハートを、春香の手から放たれる光の手が掴んでいた。


「なら、もう、死んでいいよ」


「そんな……そんな、私達、仲間でしょう?」


 月葉は叫ぶように言う。


「ごめんね」


 春香は微笑む。


「弱い人を仲間にしておく余裕はないの。顔がわれてるから、うかつに範囲殲滅なんて使えないしね」


「お前えええええええ!」


 剣を召喚して、斬りかかる。

 その腕を、花月が断っていた。

 そして、月葉の意識は闇の中へと落ちていった。



第六話 完

次回更新は来週となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ