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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第四章 必ず君を生き延びさせてみせる
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古城跡地攻防戦1

「水月ー」


 部屋をノックする音と青葉の呼び声で水月は目が覚めた。

 外はまだ暗い。


「なんですか……こんな遅くに」


 寝ぼけ眼をこすりながら立ち上がり、部屋の扉を開ける。

 トレーニングウェアに着替えた青葉が部屋の前にいた。


「訓練しよう」


「訓練?」


 水月は戸惑い混じりに言う。


「ああ。水月にはまだまだ訓練で伸びる余地がある。俺が鬼教官になってそれを引き出してやる」


「断ります」


 あくびをして部屋に戻る。


「ダイエットになるぞ」


 足を止めて振り返る。


「本当に?」


「ああ。水月が使うスキルは炎だろう? 暑くて汗が出ることうけあいだ」


 しばし考えて、溜息を吐く。


「だからこの前トレーニングウェアを買ってたんですね」


「そういうことよ。俺は先に庭に出てるから、着替えが終わったら来てくれ」


「はあい」


 あくびをしながら時計を見る。

 午前四時だ。

 しかし、この時間帯ならスキルを使っても目撃者は出ないかもしれない。

 着替えて、庭に出た。

 しかし、誰もいない。

 樹の下では人馴れした猫が眠りこけている。


 頭に、なにかが当たった。

 テニスボールが、目の前を転がっていった。


「今のが銃なら、死んでるぜお前さん」


 そう言って、木の上から青葉が飛び降りて着地した。

 猫は驚いたのか、目を覚まして駆けて行く。


「実戦なら注意してました」


 苛立ち、言い訳混じりに言う。


「水月はスキルを基本的に横に薙ぎ払うように使う。その時、頭上に隙ができるんだ」


「なるほど……カバーしきれていないというわけですか」


「そういうことだ。気配の察し方とかも教えていくぜ。そしてもう一つ。バリアだ」


「バリア?」


「体の周りに炎の薄い膜を纏うんだよ。それは味方を守る上でも有用なスキルになるわけだ」


「熱くないですか?」


「時間稼ぎにはなる」


 青葉は、そう言ってストレッチをする。


「やるぞ」


 どうやら、他に選択肢はないらしい。

 水月は溜め息を吐くと、決意を込めて炎を手に浮かべた。



+++



 長時間のスキル運用は集中力がいる。

 訓練開始から数時間後。水月はくたくたになって、シャワーを浴びることにした。

 湯が疲れを洗い流してくれるようだ。

 その時、脱衣所の扉が開いた。


「あ、わり」


 脱衣所の扉が閉まる音がした。

 水月は顔が熱くなるのを感じた。

 下着などを見られた。


 風呂から上がり、髪の毛をドライヤーで乾かしながら、青葉と向かい合って座る。


「下着、見ましたね?」


「神に誓って見てない」


 青葉はそう言って手を組む。


「男の人との同居ってだからヤなんですよ! 隙を見せられないから!」


「まてよ、あれは事故だ」


「シャワーの音聞こえなかったんですか?」


「まあ待て」


 そう言って、青葉は掌を前に差し出した。

 そして、人差し指を机の上に置いて数字を書く。


「それは?」


「ソウルイーター達が古城跡地で暴れる日だ」


 水月は息を呑む。


「その日まで水月には万全になってもらわなけりゃならない。一週間ほどだが、俺は水月を鍛える。それに集中してたわけだ」


「……だからシャワーの音を聞き漏らしたと?」


 ジト目で青葉を見る。


「俺、変態と思われたのこれが初めてだぜ」


 そう言われたら、なんだか相手が気の毒になってきた。

 水月は、視線を逸らす。


「軽い人だ、とは思いますがね」


「どんなとこが?」


「しょ、初対面の人に、か、可愛いって言ったり」


「それは、水月が可愛いからさ」


「また言った!」


「本当のことだ。水月は可愛いよ」


 水月は真っ赤になって、黙り込んでしまう。

 上手く丸め込まれた、という思いがあった。



+++



「一週間後に古城跡地が攻められる?」


 僕の連絡を受けて、楓は胡散臭げに言った。


「現れるソウルイーターは?」


「三人」


「厳しいなあ……」


「三人は別々に動くから大丈夫ですよ」


 僕の言葉に、楓は戸惑うように返す。


「それはどうして?」


「これは、彼女達にとってはゲームなんですよ。誰がどれだけ関係者を殺せるかというゲーム。水月が狙われたのも同じ理由です」


「なるほどね……クソガキが力を手に入れてイキってるってわけだ」


「簡単に言えばそうですね」


「大人がお灸を据えてやらないとね」


「それで、一つお願いがあるんですが」


「なに?」


 楓は面倒くさそうに訊ねた。


「俺と水月はメンツから外してくれないでしょうか」


 しばしの沈黙が漂った。


「なんで?」


「水月は元々は死ぬ運命にあった。それが変わった。けど、水月に死の運命が付きまとっているなら悲劇が起こるかもしれない」


 半分、建前だ。

 僕は斎藤翠と会いたくなかった。


「映画みたいな話ね。なんでそんな言い訳をするの?」


 黙り込む。


「なにを、怯えているの?」


 返事ができないい。


「あなた達は戦力で当事者だわ。一番安全な位置に配置してあげる」


 そう言って、楓は電話を切った。

 通話の切れたスマートフォンを眺めて、決意をあらたにする。


(絶対に守るって決めたんだ……相手がソウルイーターだろうとなんだろうと、ぶっとばしてやる。なにより)


 僕は自虐的に笑った。


(今の俺は疑似ソウルイーターみたいなもんなんだから)




+++



「さて、華々しく行きましょうか」


 ソウルイーターの一人が、呟くように言う。

 ソウルイーター三人は、古城跡地の草原の上に立っていた。


「斎藤翠を見つけたら集合。タイマンは避ける。それだけだな」


「ええ。注意するのはソウルキャッチャーだけでいい」


 それまで黙っていた一人が、口を開く。


「雑魚狩りの絶好の機会だね」


「ええ。じゃあ、始めましょう」


 三人の掌に炎が浮かぶ。

 それは炎の渦となって、古城跡地の青空へと高々と舞い上がった。


次回『古城跡地攻防戦2』

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