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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第四章 必ず君を生き延びさせてみせる
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共同生活

「という事情があってね」


 恭司一家を家に連れてきた翠は、両親に色々と説明している最中だった。

 内容としては、超越者、ソウルイーターの脅威、自分も超越者であること、敵は翠の関係者を無差別に狙っていること。

 背中に冷や汗が流れる。病気と思われないか心配だ。


「……にわかに信じがたいな」


 父が、顎を擦る。

 母は、不安げに様子を見守っている。

 私は、まずは超越者の存在を信じてもらうことにした。


「お父さん、煙草吸う?」


「ん、いいのか?」


「いいよ」


 父が煙草を口に咥える。

 私はそれに合わせて、掌に炎を浮かべた。

 父は驚いた目でそれを見ていたが、煙草の先端を炎につけた。

 煙を吸って、吐く。煙草の先端は僅かに震えていた。


「で、どうすればいいんだ? あの一家を家に置けばいいのか?」


「空いてる部屋はあるでしょ? 物置になってる部屋も片付ければ使えるようになるし。それに、恭司は盾の超越者。私達の安全な生活にも繋がる」


 父は黙って、しばらく考え込んだ。

 煙草の灰が、テーブルに落ちた。


「まあ、そうだな。そういうことにしておこう。母さん、片付けれるかな」


「ええ、大丈夫です」


 母は、怯えるように言う。

 こうして、ひとまず恭司一家を翠の家に避難させることは成功したのだった。


 敵の凶刃がいつ家族に及ぶかわからない。

 思えば、不安定な生活をしてきたのだな、と思う。

 そして、父には無期限の休暇を取ってもらう。申し訳ないことをしていると思う。


「ところで、恭司君だったか?」


 父が、翠を見る。

 翠は戸惑いながら頷く。


「彼氏か?」


「うーん」


 翠は考え込む。

 キスはした。けど、告白を受けたわけではない。


「まあ、友達かな」


「友達一家を連れてくるなよな……」


 父はぼやくように言うと、指先で灰を片付け、自室に引っ込んでいった。


「ねえ」


 母が問う。


「なに?」


「危険なこと、してるんじゃないわよね」


「……危険にならないように皆で固まるんだ。大丈夫だよ」


 そう言って、翠は苦笑した。



+++



「どういうことよ、響!」


 家に響き渡る声で、響の母は怒鳴った。

 玄関に出迎えに出た響は、小さくなっている。


「それがね、私達は今とても危険なの」


「職場行ったら無理やり休暇を取らされたんだけど」


「うん。出歩くのは危険だからね」


「あんた家出して何ヶ月になると思う?」


 ぐうの音も出ないとはこのことだ。


「で、出処の怪しい大金を送ってくる。お母さんもうあんたのことがわかんないわ」


 溜息混じりに言う。

 母を失望させている。その思いが、響の心を暗鬱にさせる。

 そこに、アラタが現れた。


「響のお母さん、こんにちは。僕はアラタって言います」


 響の母は、疑わしげにアラタを見る。


「あんたが響を家出に誘ったの?」


「違いますよ。僕は巻き込まれた側です」


 響の母は、怖い顔をして響を睨む。

 響はもう俯いていた。


「必要な旅だったんです。ただ、響はお母さんを大事に思ってる。それだけは信じてあげてください」


「そうですよ」


 アラタの母が会話に入ってくる。


「さ、中に入って。お茶を用意してきますから」


「あ……これは、申し訳ない」


 そう言って、響の母は家の中に入っていく。


「ごめんね、怒ったら制御が効かなくなる人なんだ」


 響は申し訳なさげに言う。


「いいさ」


 アラタは、響の母が歩いていった先を見て言う。


「響の大事な人だろう? 守るさ、俺が」


 響は、胸が高鳴るのを感じた。

 この人を愛して良かったと、心底そう思った。


「頼りにしてるよ、私のヒーロー」


「親子喧嘩の仲裁までは果たせないけどな。話すのか? あの話」


 響は、沈黙する。

 響は人工授精で作られたデザイナーベイビーだ。母とは血が繋がっていない。

 それが、響に負い目を抱かせるのだ。


「わからないよ。ただ……ちょっと怖い」


 アラタは響の肩を抱いた。


「大丈夫だよ、大丈夫。俺だけはどうなってもお前の味方だ」


「うん」


 響は微笑んで頷く。そして、真顔になった。


「そういやショッピングモールで襲われた時、なんでタイミングよく傍にいたの?」


「ん」


 アラタの笑顔が硬直する。


「バスでも一緒じゃなかったよね? 私達一番後ろの席だったし」


「ん」


「……言い訳なら、聞くけど」


「さあ、お母さんと一緒にお茶を飲もう」


 そう言ってアラタは歩いていく。


「あー、後ろ暗いことがあるんだ」


「ちげーよ」


 賑やかに言い合いながら、二人は進んでいく。



+++



 僕は部屋の中で寝転がっていた。意識は常に建物の周辺に向いている。ソウルイーターが侵入すればすぐにわかるだろう。

 部屋の扉が三度ノックされた。


「買い物に行ってきます」


 水月が扉越しに言う。


「護衛するよ」


「心強いですね。護衛が二人だなんて」


 微笑み顔がわかるような口調で水月は言う。

 護衛が二人?

 戸惑いながら、着替えてサングラスをかけて礼拝堂に出る。


 水月と葵が並んで立っていた。

 葵は水月より二十センチばかり高い。

 身長差があるんだな、と僕は思う。

 まあ、水月は小柄なので中肉中背の少年と並べるとどうしてもそうなる。


「で、君がもう一人の護衛かい? 葵くん」


 僕は葵の顔を覗き込む。

 胸に不可思議な感情が湧いてきた。

 葵は、この時期は一番楽しい時期だった。

 遊んでくれるシスターがいて、彼女と長時間一緒にいられた。

 くだらない会話ですらかけがえのない日常の一ページだった。


 全ては、今までの話だ。

 葵は不服げな表情になる。


「お前もついてくるのかよ」


「ああ、ついてくぞ。水月の外出には常に付き合うつもりだ」


「ストーカーかよ」


 苛立たしげに葵は言う。


「君も一緒でいいぜ。護衛対象が二人に増えてもかまわない」


「俺は自分の身は自分で守れる!」


「そうか」


 若さからくる根拠のない自信。それを、葵はまだ持っているのだ。

 やはり、不可思議な気持ちになる。


「じゃあ、出かけるか」


 その言葉で、三人は外へと歩きだした。

 水月を挟んで男が二人、牽制し合う。


「そういえば、二人の名前って似てますね」


 ふと、気がついたように水月が言った。牽制のし合いには気がついていないようだ。


「神楽坂葵と、神崎青葉。どちらも神から始まる名字で、名前は二文字目まで一緒です」


「そうだな。縁があるのかもしれないな」


 僕はからかうように言う。


「お前との縁なんてごめんだ」


 葵はそう言って、前を歩き始めた。

 僕と水月は顔を見合わせて苦笑した。



+++



 水月はスーパーで食品を選んでいた。


「どうせ同じキャベツだろ? 大差ないって」


 青葉が言う。


「どうせならいいものを買いたいじゃないですか」


「だから水月の買い物は長いんだぞ」


「あなたと一緒に買い物に来たのは初めてです」


 そのうち、一つを選び、青葉の持つ買物かごにい入れる。

 バスの暖房が効き過ぎたのか、少し腕まくりをした彼の腕は、とても筋肉質だった。

 細身のようで、脱いだら筋肉質なのかもしれない。


 そこで、ふと冷静になる。


(なに考えてるんでしょう私は……神よ、お許し下さい)


「お菓子コーナー行こうぜ」


 青葉が楽しげに言う。


「水月、チョコバー好きだろ?」


「最近減量中の私に悪魔の囁きですね」


「葵も行ってるだろうし、護衛対象は合流してもらうに限る」


 そう言って、青葉は歩いていく。

 仕方なく、横に並ぶ。


「あら、水月さん?」


 声をかけられて、立ち止まる。青葉も、足を止めた。


「彼氏?」


 ゴシップ好きそうな小母さんが、楽しげに囁いてくる。


「そんな! 親戚関係の人です!」


 サラリと嘘が出てきた。神への懺悔は後からにしよう。


「けど、そうして歩いてたら新婚夫婦みたいよ」


「そんな、やめてくださいよ、もう」


 水月は焦ってしまった。

 そんな風に見られるとは思わなかったのだ。


「それじゃ、私は行くけど。今度はその男の人紹介してね」


 そう言って、小母さんは去っていった。


「新婚夫婦みたい、だってさ」


 青葉がからかうように言う。


「……もう」


 水月は気恥ずかしくなって、早足で歩き始めた。

 後ろから青葉が鼻歌を奏でながらついてくる。


(なんで平気なの? 私でいいの?)


 水月は混乱してしまって、最終的にさっきのやりとりを頭の外に追い出すことに決めた。

 恋愛経験不足どころか、男性と接した経験も不足していた水月だった。



+++



「はい、翠、ありがとう。休暇を楽しんでね」


 恭司一家が斎藤家に避難したと聞いて、楓は肩の荷を下ろした気分になった。

 スマートフォンの通話を切る。

 これで、大体の予防策は練った。

 あとは、ソウルイーターの拠点を探すだけだ。


 範囲は県の中。正直、広すぎる。

 期待できるのは、今、葵のサイコメトリーだろう。翠の猫軍団はイマイチ期待できそうにない。


 ソウルイーターが一度に三人。


「頭の痛い話だわ……」


 思わず、ぼやく。

 こんな時に嫌味を言う相馬は今日はいない。

 葵の護衛としてついていっているのだ。


「とりあえず、犠牲者は最小限に……」


 親指の爪を噛んで、楓は思考を張り巡らせる。



+++



(犠牲は出るのかな……)


 僕は考える。

 歴史は変わった。

 水月の死んだ歴史から、水月が生きた歴史へと。


 ならば、僕が知っている歴史は役に立たないということだろう。

 ここからは、なにが起こるかわならない。

 ポケットからメモを取り出す。


 ソウルイーターが、近い時期に、古城跡地で暴れる、とある。


(捕まえてみせる、絶対。最終決戦にベストメンバーを揃えるために……)


 僕は、決意を固めた。

 そして、ふと表情を曇らせる。


(特に、水月は絶対に守ってみせる)


 絶対に彼女が僕を見てくれなくても。

 彼女が僕のことを過去の記憶にしてしまっても。

 僕は彼女を思い続ける。

 絶対だ、と僕は思う。


 そして、僕は薄っすらと眠りへと落ちていった。



第四話 完

次回『古城跡地攻防戦』

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