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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第四章 必ず君を生き延びさせてみせる
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未来を知る者

「俺がいたら銃でやっつけてやったのになあ」


 学校帰りに教会によった葵が、水月の話を聞いて悔しげに言う。


「無理ですよ。銃弾も蒸発させてました。並大抵の使い手でじゃなかった」


「そっかあ……もどかしいな。俺、非戦闘タイプだから」


 礼拝堂で、二人は並んで座っている。


「で、そいつは何処へ行ったの?」


「今、警察署でメンタルテスト中。ちょっと、不思議なことを言ってましたから」


「不思議なこと?」


 葵が少女のような顔に疑問符を浮かべる。


「予知で最悪の未来を回避したいとか、君を救いたいだとか……それと」


 そこで、水月は頬が熱くなるのを感じた。


「私が可愛いって」


「シスターはいつも可愛いよ」


 葵は大真面目に言う。


「そ、そうかな?」


「そーだよ。自信持っていいと思うよ」


「じゃあなんで結婚できないんでしょう」


「男の人苦手でしょ、水月は」


「まあ……そうですね」


 不思議なことに、あの男にはその症状が出なかった。

 あの男が、一見女性にも見える外見をしているからだろうか。


「まあ、テスト待ちですね」


「泊めるの?」


「私も死にたくはないですからね」


「ふーん」


 そう言った葵が不服げに見えたのは気のせいだろうか。


(まさか、ね)


 そう思い、気分を切り替える。


「じゃあ、今日も勉強します?」


「シスターは真面目だなあ」


 拗ねたように葵は言い、学生鞄を抱えた。



+++



 不審がられるとは思ってはいたが、警察に突き出されるとは思わなかった。

 僕は、まだ若さが残る楓と、警察の取調室で向かい合っていた。


「あなたは水月への襲撃を知っていた。それも、予知だというの?」


「そうです」


「嘘ですね」


 楓の横に座る女性が言う。

 そして、言葉を続ける。


「予知というのは、嘘です」


 楓が剣呑な表情になる。


「神崎青葉。この名前に一致する人物はいなかったわ。偽名?」


「本名ですよ」


「嘘ですね」


 場の空気が一度に凍った。

 楓が腕を組んで腰を上げる。


「あなたを不審人物として拘留することもできるんだけど」


「待ってください」


 僕は思わず立ち上がっていた。


「そしたら、水月を守ることができない。俺は水月を守って、最悪の未来を回避したいんです」


 沈黙が漂った。

 楓が、女性に視線を向ける。

 女性は、戸惑った表情で、恐る恐る口を開いた。


「本当です。嘘はついていない」


「ふむ……」


 楓は、椅子に座った。


「つまり、あなたには未来の情報がある、と。それは予知ではない、と」


「そうなりますね」


 楓が再び女性に視線を向ける。女性は、混乱しているようにも見えた。


「本当です……彼は、未来の情報を持っていて、その惨劇を回避するために動いている」


「事実、あんたがいなければ水月は死んでたものね。しかし、迂闊に信用し辛いわ」


 楓は苛立たしげにテーブルを指で叩く。


「これから、なにが起きるの?」


 僕は、表情を引き締めた。


「大規模な戦闘と、破滅」


「破滅?」


 楓は怪訝そうに片方の眉毛を上げる。


「敵のボスの目的。それは大量のスキルを持って違う世界に行くことです。そのために作られたゲートで大量の魔物がこの世界に流入する。毎日のように魔物による犠牲者が出ているのが現状です」


「私はその時代でなにをしているの?」


 それは、少し言い辛い話題だった。

 しかし、避けるわけにもいくまい。


「ボスのゲート開放を防ぐための攻防で、不意打ちに撃たれて死亡しています」


 楓は黙り込んだ。

 女性が、恐る恐る口を開く。


「彼は本音しか喋っていません」


「わかったわ」


 沈黙が漂った。

 そのうち、楓は呟くように言った。


「心理チェックありがとう。退席してもらってもいいわ」


 女性は腰を上げて頭を下げると、部屋を去っていった。


「神崎青葉。予知能力。信じたわけじゃない。けど、あなたは敵じゃないと判断します」


「ありがとうございます」


「しばらくは水月を守るのね?」


「最後の決戦で、水月さんがいなかったせいで俺達は負けます。それを防ぐのが俺の第一目標です」


 そうだ、今度こそ水月を守ってみせる。

 その覚悟のもとに、僕はこの世界にやってきたのだ。


「そう」


 楓は深々と溜息を吐いた。


「神埼青葉。あなたを味方と認めましょう。これからは水月とコンビを組んで活躍してもらうわ。あなたのスキルは氷?」


「ええ」


 ひとまずは、だが。

 それは口には出さない。


「なにか含みがある表情ね……」


 僕は緊張した。

 忘れていたが、鋭い女性だ。


「まあ、いいでしょう。今日のところは解散とします」


 そう言って、楓は立ち上がると、部屋の扉を開けた。

 水月の顔を思い浮かべる。

 久々の再会だった。

 相変わらず、可愛い顔だった。

 こんどこそ、守ってみせる。あんな悲惨な最後は避けてみせる。僕はそう、決意をかためた。



+++



「というわけで、俺はしばらく教会に厄介になることになったわけです」


 事情を説明しても、水月は胡散臭気な表情だった。


「楓さん。この人、本当にまともなんですか?」


 僕を教会前まで車で運んでくれた楓は、戸惑うように頷く。


「彼は未来を予知しているか、予知していると思いこんでいる。けど、あなたのピンチに駆けつけたのは偶然とは思えないわ」


「そうですね……」


 水月は考え込む。

 そして、そのうちおずおずと手を差し出した。


「椎名水月です。よろしくお願いします」


「神埼青葉だ。青葉でいい」


「じゃあ、私も水月でいいですよ」


 水月が苦笑する。

 二人の手はしっかりと握りしめられた。


 その日、水月と食卓を囲んだ。

 僕は思わず表情をほころばせる。


「そんなに好きなんですか? 餃子」


 水月が呆れたように言う。


「君と同じ食卓に並べた。それが嬉しいんだ」


 僕は素直な感想を述べる。

 長かった。ここに至るまで、何年かかっただろう。何年、彼女のいない時間を過ごしただろう。

 水月は俯くと、小声で言った。


「冷めるから、早く食べましょう」


 この話はここでおしまい、ということらしかった。

 照れている水月も可愛い。そう思うが、口に出しても困らせるだけだと思ったので、口にはしなかった。



第三話 完

次回『共同生活』

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