歩き出そう、もう一度
緊張して、教室の前に立つ。
噂になってないかな、不登校をからかわれないかな、一人でやっていけるかな。
色々な思いが脳裏をよぎる。
けど、こうも思うのだ。
あの子はもういないから、私は一人で頑張らなければならない、と。
「おはよー」
そう言って、何事もなかったかのように教室に入る。
そして、会話をしている女子達を見回した。
ロッカー傍のグループは駄目だ。接点がない。
ドア付近のグループはスポーツ部ばかりだ。球技大会で接点はあるが、あまり馴染みはない。
黒板傍のグループは大人しそうで居心地が良さそうだ。
私は黒板傍のグループに向かって歩いていった。
「ねえ、私も混ぜてくれない?」
それが、私の第一歩。
あの子は見ているだろうか。情けない私の頑張る姿を。
あの子は見ているだろうか。前に進んでいく私を。
大学生になっても、社会人になっても、忘れないだろう。
私を見守る、けして敵にはならない、ある視線を。
「いいよ。久しぶりだね、園部さん」
「なにしてたの?」
「ちょっと冒険をね」
「冒険?」
グループ全員が異口同音に言う。
どこから話そう。どこまで話そう。私の冒険譚を。
朝の空はどこまでも綺麗だった。
+++
警察病院で巴は目を覚ました。
左手は撃ち抜かれ、右腕は折れてギプスをつけられている。
自分で食事すらできない状況だ。
左腕に付けられている点滴が視界に入った。
「起きたかね」
壮年の男性の声がする。
「ええ、まあ」
私は曖昧に答える。
「私はどうなるんですか? 少年法が適用されるとしても相当入ってなきゃ駄目ですよね」
「ねえ、君」
「はい?」
「働いて償うって気はないかい?」
「……はい?」
思わぬ言葉だ。
「君のような優秀なスキルキャンセラーを失うのは損失だ。我々は君の力を十全に使いたい」
「……断れば?」
「まあ、数年は刑務所だね」
窓の外を見る。
青い空だ。
自分を説得したあいつも同じ空を見ているのだろうか。
そして、自分が傷つけた何人がこの空を見れなくなったのだろうか。
「好きにして。今は、休みたい」
「相当疲労してたようだしね。ゆっくり休むといい……しかし、その疲労した体で連戦を重ねるとは、まさに天性の戦士だな」
どうとでも言ってくれ。
そう思いながら、巴の意識は闇の中へと落ちていった。
久々に、いつもと違う夢を見た。
それは、家族でハイキングへ行った時の夢。
好物の取り合いを兄弟でし、両親がそれを微笑ましげに見ている。
心地よい夢だった。
第三章 完
次回から第四章となります。
六話ほど投稿します。




