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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第三章 私達で、終わらせよう
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ソウルイーター対スキルキャンセラー

「最近T市で妙な事件が多発しているそうだ」


 彼がそう言ったのは、秋も半ばという頃だった。

 ソウルイーター事件の元凶。十人に吸魂スキルを与えた人物。

 彼は異様に細身で、ベンチに座っていると、そこらの休暇中の社会人に見える。


「調べてもらえるかな、庄司」


「かまいませんが」


 ソウルイーター、工藤庄司は深く考えずそう言った。

 元々、考えるのは苦手だ。

 ただ、暴れるのは好きだった。


「気をつけてくれよ。斎藤翠と裏切り者の活躍でソウルイーターも残り四人だ。三人に減ると少々心許ない」


「あなたの能力ならソウルイーターの量産も可能なのでは?」


「最上位スキルだからね。時間がかかるんだ。特に範囲型はレアでいい」


「なるほど……」


「君は、異世界を信じるかい?」


 彼の思わぬ一言に、庄司は戸惑った。


「異世界、ですか?」


「ああ、そこには新鮮な空気があり、広い森があり、綺麗な川がある。この世界みたいに汚染されていない。そこではモンスターが闊歩し、それを退治できる我々は英雄として扱われるんだ」


「変な夢でも見たんですか?」


 彼は苦笑する。


「ああ、そうだね。変な夢を見ている最中なんだ」


 庄司は、あまりにも意図が読めなくて、なにも言えなかった。

 それが、数週間前の出来事だった。



+++



 巴は敗走中だった。

 敵は思ったよりも周到に準備をしていた。今回は負けを認めざるをえないだろう。

 体が重い。

 腹部への一撃は、相手が思う以上に巴にダメージを与えていた。


 あの鋭い一撃はなんだったんだろう。

 あの一撃だけ、速度が違った。

 今までの攻撃がフェイクだったように。


 それでも、巴は大ダメージを受けることは避けた。

 後方に跳躍したのだ。

 我ながらたいした身体能力だと思う。


 その時、氷の矢が飛んできて、スクーターのタイヤを貫いた。

 ブレーキをかけて、滑りながら止まる。


「……あんたも、警察? そんな感じでもないけど」


 戸惑いながら、問う。スクーターのタイヤを破壊した超越者に。

 まだ若い青年だった。


「いや。俺はソウルイーター。最強の超越者の一人だ」


「ふーん」


 さっき戦った相手との距離は十分稼いだ。

 ならば、一働きしても問題はないだろう。


 巴は両手に、ダガーナイフを取り出した。

 そして、構える。


「二刀か……無駄だよ、君は近づけないから」


 彼がそう言った瞬間、氷の壁が現れた。

 巴は無防備に前へと歩いていく。

 そして、氷の壁を通過した。


 氷で身を守ってその間に力を溜めようとしていたのだろう。相手は驚愕の表情になる。


「喰らえ!」


 相手がスキルを放つ。気弾系のスキルだろうか。それも、体の前で消滅する。


「な……」


 相手が絶望の表情になる。だが、遅い。ここは、巴の間合いだ。

 ダガーナイフを投じる。

 それは、相手の起こす風を無視し、その腹に深々と突き刺さった。

 紐を使って回収し、次のダガーナイフを投げる。


「馬鹿な……馬鹿な!」


 相手はそう言って、逃げ始めた。

 逃がさない。

 笑って、巴は駆ける。


 そして、相手の前に回り込んだ。


「ソウルイーターだっけ」


 嘲笑うように言う。

 そして、相手にとどめを刺した。

 倒れた相手にまたがって、何度も、何度も、腹を刺す。

 超越者への憎悪を込めて。


「超越者、ソウルイーターって言ったってさあ! スキルさえ無力化すればこんなにか弱いんだね! あははははは」


 狂ったような笑い声が周囲に響く。

 いや、もう狂っているのだろうか。

 手を濡らす温かい血の感触から、巴は躊躇い混じりにそう思う。



+++



 楓が本部長の個室に足を踏み入れる。

 足音を立てて、本部長のテーブルの前に進む。

 そして、音を立ててテーブルに手を置いた。


「相手はスキルキャンセラーです」


「ほう。それは珍しい」


「ここで正しい反応は、スキルキャンセラーとはなんだ? です」


 本部長は困ったように黙り込む。


「一般人への銃の貸出も、いつになく認可が早かった」


 本部長はなにも言わない。


「なにか、知ってますね?」


 本部長は、溜息を吐いた。

 そして、窓際へと歩いていく。


「これは、トップシークレットだぞ」


「はい」


「その、だ。やんごとなき方がいる。我々より立場が上の方だ」


「総理大臣?」


「総理大臣、もだな。後のメンツは察してくれ」


「はあ……」


「歴史の表舞台には立っていないが、密かにそれを護衛するスキルキャンセラーの一族がいる。彼らは子供が生まれると超越者に子供を預け、一流の戦士に育つようにはからう。スキルキャンセラー……巴くんは、そうやって特殊な技術を身に着けた天性のスキルキャンセラーなのだよ」


「つまり、この道の英才教育も受けていると」


「そうだ。徒手空拳でもそこらの超越者より強いだろうな」


 楓は深々と溜息を吐いた。


「本部長。下手すりゃ犠牲が増えてるところですよ。特殊な訓練を受けてるなんて聞いていなかった」


「……これは警察内でも極秘なんだよ。君だってさっきまで昔数人いたというレベルの情報しか握ってなかっただろう?」


「その、スキルキャンセラーが敵に回った、と」


「そうだ」


「殺すのは惜しいというわけですか」


 本部長はしばしの沈黙の後、呟く。


「彼女ほど完成したスキルキャンセラーは稀だ。そこらのスキルキャンセラーなら、斎藤翠に倒されていただろう」


「……私も、手加減はしませんよ」


「ふむ?」


 本部長が戸惑うような表情になる。

 そして、楓の決意を把握したらしく、真っ青になる。


「それは、困る」


 楓はテーブルを叩いた。


「犠牲が出ている!」


 本部長は黙り込む。


「それを止めるのが私達の仕事だ。私はそれに誇りを持っている」


 本部長はなにも言わない。

 後は自分で決めてくれ、とでも言わんばかりだった。


 楓は踵を返して部屋を出た。

 殺すことに対する抵抗感はある。

 だが、スキルキャンセラー対策はもう頭の中にあった。



+++



 私とアラタは、物陰からその光景を見ていた。


「バケモノだ……」


 アラタは、呟くように言う。


「いや、バケモノだって言葉は迂闊に使っちゃいけないんだけどな。それでも、あれはバケモノだ」


 スキルキャンセラーが、誰かに馬乗りになって、何度も何度も腹部を刺している最中だった。


「私、行きます」


「一人で行くことはないさ」


 アラタは、そう言って私の肩を叩く。

 異性だが、不思議と嫌悪感はなかった。


 私とアラタは真剣を鞘から抜くと、彼女の前に立った。

 スキルキャンセラーは、戸惑うように私達を見る。その顔が、笑顔に変わっていく。


「超越者、見つけた……」


 その瞳が、青く輝く。

 恐怖から逃げるかのように、アラタは真剣を振り下ろした。

 スキルキャンセラーは素速く後方に逃げる。そして、ブロック塀を蹴って、反転し、アラタに襲いかかった。


 アラタは刀で二刀の片割れを防ぐ。

 そして、もう片方の突きを回避する。

 その腹部に向かって放たれた蹴りすら回避する。


 私は舌を巻く。

 私では突きの時点で対処は不可能だっただろう。


「うおおおおおおお!」


 私は自分を鼓舞するように雄叫びを上げた。

 そして、スキルキャンセラーに刀を振り下ろす。


 スキルキャンセラーは左手のダガーナイフを持ち上げて防御する。

 アラタも攻撃に移る。それは右手のダガーナイフで止められる。

 そして、いきなり刀を受け止める力が消えて、私達は前のめりになった。


 後方に飛んで仕切り直しを狙う。

 アラタも、一旦退いたようだった。


 あの子のことが脳裏をよぎる。

 あの子は、若いまま逝ってしまった。色々な経験を味わえずに逝ってしまった。

 負けられない。刀を握る腕に力が篭もる。


「二対一でこれ。退いたほうがいいんじゃない?」


「焦っているな、超越者キラー」


 スキルキャンセラーは黙り込む。


「俺達がこうしているほどに援軍が来るのは早くなる。俺達は時間切れ待ちでもかまわないんだ」


 そう言って、アラタは飛びかかる。


「まあ、俺はそれまでに片付けるつもりだがな!」


 刀が物凄い速度で振られる。

 それを、スキルキャンセラーは右手のダガーナイフで軽々と受け止める。


 その時には、既に左手のダガーナイフが動いている。

 それを、アラタは体勢を崩しながら蹴り飛ばした。

 そして空中を一回転して、蹴りを相手の腹に叩き込む。


 スキルキャンセラーはそれをも受け止める。

 私も攻撃に加わった。


「あんたがいなければ、あの子は死ななかった! あの子と同じ時間を歩めた!」


「それはお互い様でしょう、超越者」


 嘲笑うようにスキルキャンセラーは言う。


「どういう意味よ……?」


「さて、ね」


 スキルキャンセラーは二本の刀を相手に両手のダガーナイフを使って鍔迫り合いをしている最中だった。

 それでも、涼しい顔をしている。


「超越者に生まれたのが悪い。脅威は排除される。人類はそんな風にできている」


「選別をする神様ごっこでもしてるつもりかよ……」


 アラタは憎々しげに言う。


「神様がいるなら、世界はこんなに醜くできていない」


 私は驚いた。刀が押し返されている。

 その瞬間、アラタが刀を引いた。

 スキルキャンセラーは体勢を崩す。


「今だ! 勇気!」


「はい!」


 横薙ぎに一撃を放つ。

 それは、相手の鼻を僅かに斬り裂いた。

 脅威のバランス感覚でスキルキャンセラーは後方への回避を可能にしたのだ。

 追撃しようとしたが蹴られた。

 欲で警戒心が薄れていたのが災いした。

 私は咳き込み、座り込む。

 気がつくと、アラタの背が目の前にあった。


「あんたは強いよ。その年齢で大したもんだ」


「あんたもね。超越者の癖に」


 その時、風を切る音が聞こえた。

 超越者はダガーナイフを投げる。それには、糸がついているのが見える。

 アラタの体を糸が絡め取ろうとする。

 それを、アラタは刀で斬りつけた。

 斬れない。


(私がやらなくちゃ!)


 そう思い、前に出る。

 しかし、その時には既に、スキルキャンセラーは逃亡した後だった。

 夜の闇と静寂がその場に残った。



第九話 完

次回、来週更新

今週は頑張りました。

祝10万文字突破、50話突破です。

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