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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第三章 私達で、終わらせよう
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夜の公園で

 スキルキャンセラーの活動が止まった。

 傷を癒やしているのだろう、というのがもっぱらな噂だった。

 私はアラタと修行を繰り返していた。

 私が強くなるとアラタはもっと強くなる。

 その実感が、楽しかった。


「そろそろ、いいと思うんですよ」


 私は言う。

 アラタは、困ったような表情になった。


「私も、アラタさんも、相当レベルアップした。後は実戦あるのみです」


「とは言っても、勝手に動いたら楓さんに怒られるんでないかな」


「楓さんは私の上司ではないので」


「それを言ったら俺の上司でもないけどさ」


 私は、真剣の入った袋を担いだ。


「スキルキャンセラーを、倒してきます」


「なんで、そう焦る? 君の実力はまだまだ向上の余地がある」


「幼馴染だったんです。殺されたの」


 アラタは口を噤む。


「今でも起きた時、泣いている時がある。アラタさんとの特訓は気を紛らわせた。けど、決着をつけなきゃいけない」


 嘘ではない。

 朝、起きたら、泣いている時がある。

 幼馴染が死ぬシーンを、それを抱き上げて泣きじゃくるシーンを、何度も夢の中で繰り返している。

 それはきっと、スキルキャンセラーを捕まえるまで終わることがないのだろう。


「ふむ……」


 アラタは少し考え込んだ後、部屋を出た。

 そして、十数秒後に戻ってきた。

 肩には、刀を包んだ袋がある。


「俺も同行するよ」


「本当ですか?」


「二刀でも二人相手には苦戦するだろう」


 そう脳天気に言って、アラタは歩き始めた。


「スキルキャンセラーの出現パターンから大体の活動範囲は見えている。俺達みたいな餌が出ていけば食らいついてくるだろう」


 アラタの後を追う。そして、晴れ晴れしい顔でこう言った。


「はい、師匠!」


 アラタは一瞬戸惑ったような表情になったが、くすぐったげに笑った。



+++



 夜の公園で、一人の男がビールを飲んでいた。

 それに向かって、マントのフードを目深にかぶった少女が歩いていく。

 男はそれを見て、微笑んだ。


 懐から銃を取り出し、マントの少女に向ける。


「俺のスキルは干渉型じゃない。消せないぜ」


 男は、いや、相馬はそう言って、宙へと浮いた。

 そして、銃弾を発射する。


 太腿を狙った。当たったはずだ。

 しかし、相手は痛がる様子もない。


(あのマント、飾りじゃないのか……?)


 腹を、胸を、撃っていく。しかし、相手に動揺した様子はない。

 残された箇所は、頭。

 人殺しは後味が悪いからやりたくない。けど、そんなことを言っている場合ではなさそうだ。


 その時、少女が動いた。

 両手に持ったダガーナイフを、一本投じたのだ。

 相馬は少し移動してそれを避ける。

 二本目が投じられる。

 相馬は、続けて避ける。


 その時、相馬は背中に硬い線の感触を覚えていた。

 二本のダガーナイフには糸がついていたのだ。多分ピアノ線だろう。それが、円状の軌道を描いて相馬を縛り付けていく。

 次の瞬間、相馬は自分の飛行能力がキャンセルされていることに気がついた。


 右腕から地面に落下する。

 衝撃に、思わず絶句する。


「異常事態発生! 翠、出て!」


 トランシーバーから楓の声がする。

 彼女は少し離れた場所でスナイパーライフルを構えているはずだ。

 あのマントが防弾性だと気づいて、プランを変えたのだろう。

 右腕が折れている。電流のような痛みが走り続けている。

 少女は近づいてくる。目に青い光を浮かべて。

 翠はいつ出てくる?

 これは駄目か?

 そう思った時、物陰から一人の女性が現れた。

 天衣無縫、最強の超越者、斎藤翠だった。



+++



「月並みなことを言うけど、怒らないでね」


 翠の言葉に、相手は戸惑うように立ち止まる。


「いくら超越者を殺しても、あなたの家族は帰ってこないわ」


 少女は、小さく笑う。


「ホント、月並みね」


「ええ。ホントそうだわ。けど、事実でしょう?」


「超越者は危険だとわかった。だから、排除する。誰だってスズメバチが巣を作っていたら駆除するでしょう? それと同じよ」


「そっか」


 翠は腰を落として、構えを取った。


「なら、ここから先は一歩も通さない」


「上等!」


 少女はマントの中に手を入れ、出した。

 両手にはダガーナイフがある。

 予備があったのだろう。


 そして、少女はダガーナイフをふるった。

 翠は水面蹴りで不意をつく。

 前のめりになっていた相手はバランスを崩して地面を転がった。

 しかし、次の瞬間には立ち上がっている。


 突きを腕で逸らす。横薙ぎの一撃を手で相手の腕を捕まえて逸らそうとする。

 そして、逸らそうとした腕を斬り裂かれた。

 服が破れ、血が吹き出す。


(素速い……狙いも正確すぎるほどに正確)


 というのが翠の実感だった。

 攻撃に転じれない。

 技術では負けている。


 ならば、鬼の力の使いどころだ。


 相手が突いてきた時、鬼の力を駆使して、意表を突く速度でカウンターを放ち、腹を殴った。

 相手は胃液を吐きながら吹き飛んでいく。

 辛うじて上半身を起こそうとしているが、全身に力が入らないだろう。


「ぐ……ぐう……」


「ここまでよ、スキルキャンセラー」


 しかし、相手は立ち上がった。

 立ち上がって、構えを取った。

 翠は戸惑う。

 今の一撃は大地を踏みしめて放った一撃だった。常人ならばその一撃で気絶するほどだ。

 それを、相手は堪えた。

 なんて精神力だろう。


 いや、精神力だけではない。

 遅れながら理解する。相手は後方にジャンプしてダメージを最小限に抑えたのだと。

 とんでもない戦闘への嗅覚だ。


 バイクの駆動音が近づいてきたのは、その時だった。


「逃げろ、嬢ちゃん!」


 二人の間に、中年男性が乗ったバイクが割って入る。


「おじさん!」


「だから言っただろう。お父さんはそんなことを望んでいないと」


「……ありがとう」


 そう言って、スキルキャンセラーは移動を開始した。


「くそ!」


 相馬がそう言って、左手で銃を構える。

 しかし、狙いが定まらないようで、悔しげに手を下ろした。


 一方、中年男性は両足と両腕を撃ち抜かれていた。

 楓による攻撃だろう。


「追って、翠!」


 楓の声をスピーカー越しに聞いて、翠は倒れるバイクを飛び越えてスキルキャンセラーを追った。

 しかし、スクーターの音を残して、スキルキャンセラーは姿を消していたのだった。


 夜の公園での決戦。

 それは、引き分けで終わったのだった。



第八話 完

次回『ソウルイーター対スキルキャンセラー』

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