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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第三章 私達で、終わらせよう
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スキルキャンセラー

「スキルキャンセラー。スキルをキャンセルするってことですか?」


 若い女性が小柄な女性に訊く。

 私は興味津々でその話を聞いていた。

 薄々、私も察していた。あの女には、スキルが効かない。


「全てのスキルを無効化するんだよ。だからあんたがいくらスキルを溜め込んでても、意味がない。魂を吸うのも避けたほうがいいね。内部でスキル同士が対消滅するかもしれない」


「そんなことしませんよ」


 若い女性は苦笑混じりに言う。

 そして、言葉を続けた。


「空手は結構使えます。実戦で、戦闘経験も増えました」


「空手ぇ~? 相手は武器持ちだぜ」


「当たらなければどうということはないんですよ。なにより私は、鬼の力があります」


「ああ、それがあったか」


 小柄な女性は納得したように頷く。


「あとはアラタ。あいつも剣道の有段者だ。真剣を持たせておくのもありだな」


「響ちゃんと平穏に暮らしてるのに……」


「この前メンタルテストで訊ねたら暇だ暇だって嘆いてたぜ。まあ、巻き込む気はないけどな」


「一箇所に落ち着くタイプではないのかもしれませんね」


「あの!」


 私は思い切って、口を開く。


「私も、剣、使えます! 祖父に習ってました!」


「へえ……」


 小柄な女性は興味深げな表情になる。そして、言葉を続けた。


「私は楓。隣の女は翠。適当に呼んでいいよ」


「楓さんと、翠さんですね」


「とりあえず二人の腕前を見せてもらおうか」


 そう言って、楓はハンドルをきる。


「アラタ君とこにいくんですか?」


「そゆこと」


 女性は手短に答えた。



+++



「剣道の試合?」


 三人を出迎えてリビングに移動したアラタは、戸惑うように言った。


「剣道つっても実戦剣術だ。なんでもありで相手を倒してほしい」


「それはかまいませんが……進展、あったんですか?」


 アラタの問いに、楓はありのままの情報を告げた。


「スキルキャンセラーかぁ。スキル使うより木刀持ち歩いてる方が安全って皮肉な話ですね」


「君も武闘派だねえ……逃げるって選択肢はないの? 逃げるって選択肢は」


 翠が呆れたように言う。


「そうだよ、逃げて」


 アラタの隣に座る響が困ったように言う。


「けど、俺が倒せばそこで連続殺人事件は終わる。礼金の一つは貰いたいとこだな」


 アラタは気楽なものである。


「で、試合の主旨は?」


「超越者二人を実戦レベルまで引き上げる必要性を感じてね。特に二人とも、なにをしでかすかわからない手合だ」


 楓が、疲れたように言う。

 その二人の中の一人は私なんだろうな、と私は小さくなる。


 しかし、不思議な人々だと思う。

 この状況において、落ち着いている。

 まるで、幾つもの困難を乗り切ってきたかのように。


 私は、真剣を持っているだけで心音が速くなるというのに。


「それって俺ですか、楓さん」


「そうよ」


 楓は意地悪く微笑む。


「じゃあ、もう一人は?」


「そこのニューフェイス」


 そう言って、楓は私を指す。

 私は小さくなるしかなかった。


「園部勇気です。よろしくお願いします」


 そう言って、頭を下げる。


「じゃあ、早速勝負といくか。ニューフェイス」


 そう言って、アラタは腰を上げる。

 他の面々も立ち上がる。

 私も、遅れて腰を上げた。



+++



 アラタの家には小さな道場もあった。祖父が存命の間はここで剣道を教えたりもしていたらしい。

 アラタが左手で木刀を一本投げてくる。その右手にも、木刀があった。

 私は木刀を受け取ると、構えた。


「ほう……」


 楓が、関心したように言う。


「綺麗な構えだ」


 アラタは、そう言うと木刀を構える。

 そして、私に飛びかかってきた。


 上段からの攻撃を木刀で受け止める。

 鋭い。

 私は舌を巻く思いだった。


 剣道には自信があったが、打ち合っただけでわかった。

 この男は、格上だ。


 横薙ぎの攻撃が繰り出される。

 上腕を狙う、剣道のセオリーにはない攻撃。

 それを防ごうとした時、衝撃が私を襲った。


 体当りされたのだと、遅れて分かった。

 そして、体を起こすと、私は木刀を首に突きつけられていた。


「実戦じゃなくてよかったな」


 アラタが微笑んで言う。


「もう一度、もう一度お願いします!」


 私は、木刀を構えた。

 楽しい。

 ここまで自分より格上の相手と久々に出会えた。

 一つでも吸収したい。彼の動きを。

 それが、あの子の仇討ちへの近道となる。


 その日、深夜まで、私達は戦いあった。

 その間には、奇妙な師弟関係のようなものができあがりつつあった。



+++



「マントなんて目立つ格好すぐに見つかると思うんだけどね」


 ぼやくように楓は言う。


「案外外国の人の独特のファッションなのかなって流されてるとか」


 翠が言う。


「まあ、犯行前に着替えてるんでしょうけど」


 楓の一言に、翠はしばし黙った。


「最初から答えを知ってましたよね? 自問自答ですよそれ」


「あー、うん、悪い。私も自信なくてね」


 そう言って、楓は車の後部座席を指す。


「真剣と銃がある。あなたも装備しておきなさい」


「この市も物騒になったもんですねえ……」


 翠は呆れたように言う。


「事実、物騒なのよ。超越者にとってはね」


 その時、スマートフォンが鳴った。

 楓のものだ。

 楓はすぐに通話に出る。


「楓か? ホシの正体が特定できた。木下巴。超越者に家族を殺され、数年前から一人で暮らしているが、最近帰っていない。バイトも無断で辞めたようだ」


「へぇ……百七十センチあったと」


「そのようだ」


「そりゃ、有力ですね」


 翠が口をはさむ。


「スマホの電波で見つけることはできません?」


「残念ながら、スマホは家に放置されていたそうだ。ただ……顔はわかった」


「ありがたいですね」


「メールに添付して送るから確認しておいてくれ」


「了解」


 楓が言い、通話はそこで切れた。

 直後、メールの着信音が鳴る。

 翠は楓にスマートフォンを手渡され、操作する。写真が出てきた。


 おっとりとした雰囲気の顔立ちをした、スタイルの良い少女だった。


「この子が三人も殺したんですね……おっとりした雰囲気なのに」


「そりゃ、家族を殺されるまでは普通の生活をしてたわけだしねえ」


 楓はハンドルをきる。


「この子は、未来ではなく、過去を見ている。過去にしがみついて今を生きている。それを正すのも、警察の仕事だ」


「アラタ君達にも情報提供したほうがいいんじゃないですか?」


「いんや」


 楓は淡々と答えた。


「あの子達には情報は流さないよ。精々特訓してもらうさ」


「あ、酷い! 体よく捜査から外しましたね?」


「だってあの子らほっときゃ無理すんだもん。道場で大人しくしててもらうさ。勇気の母親から外泊許可は取ったしね」


「そんな数日で終わりますかねえ……」


 翠は不安げに言う。


「終わらせるんだよ」


 楓は、断言した。



第七話 完

次回『夜の公園で』

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