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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第三章 私達で、終わらせよう
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残る怨恨

 私、園部勇気は、畳部屋で正座をしていた。

 目の前にあるのは、祖父の所蔵している真剣。

 それを鞘から抜き、しばし見惚れる。

 そして、刃に指をつけた。


 それだけで、指の皮が切れた。

 赤い血が流れ始める。

 剣を鞘に戻し、そして傷口に絆創膏を張る。


 あの子がくれた絆創膏だ。

 そう思い、胸が苦しくなる。


 私は超越者だ。あの子もそうだった。

 攻守に優れ、いずれは警察官になるものだと思っていた。

 けど、そうはならなかった。


 あの子は、死んでしまったから。

 そして、私もなれないのだろう。

 これから、人を殺そうとしているのだから。


 脳裏にフラッシュバックする。

 一緒に帰宅する私と彼女。

 突如現れたマントの女。

 ダガーナイフがバリアを突き破ってあの子の胸に突き立てられる。


 私は光線を連打しながら、それを見ていることしかできなかった。

 その後、風の噂で聞いた。

 県下で活動している、超越者キラー。


 全ての超越者を殺すのが目的ならば、いずれは私の前にも現れるのだろう。

 祖父の刀を、袋に入れる。これで見た目は剣道部の女子生徒と変わらない。


 やっとのことで見つけた刀だ。両親に没収される愚は避けたい。私は急いで部屋へと向かった。

 刀をベッドに置いて、その横に寝転がる。


 胸が苦しい。涙が一筋流れた。

 あの子の葬式で散々泣いて、涙など枯れたと思っていたのに。

 次から次へと涙が溢れてくる。


(私がしっかりしていれば、あの子は死ななかった……!)


 歯を食いしばる。

 そして、復讐の決意をあらたにした。


 チャイムが鳴ったのは、その時だった。

 涙を拭って、玄関まで移動する。


 小柄な女性が、警察手帳を見せた。

 後ろには、中肉中背の、社会人なのか大学生なのかわからない若い女性がいる。


「青く光る目をした少女と出会ったのはあなたね?」


 私は戸惑いながらも、頷く。

 初対面の人の前では口数少なくなる。私の欠点だ。


「その時の状況を教えてほしいの。何度も聞いて悪いと思うけど」


 そうは言うものの、女性は少しも悪びれた様子がない。

 私は仕方なく、話し始めた。あの時の状況を。


「マントのフードで顔を隠した女が、私の友人を刺しました。友人はバリア能力者です。その時もバリアを展開していた。けど、なにもないかのようにあいつはその中に侵入しました。そして、友人を……」


 小学生の頃からの付き合いだった。その相手が、いきなり消えた。

 そんなこと、許容できるわけがない。


「やっぱり、そう考えるしかないか……」


 小柄な女性は顎を擦り、そう呟く。


「と言いますと?」


 後ろの女性が訊ねる。


「いや、今日のところはこれで解散としよう。話をしてくれてありがとうね」


 そう言って、小柄な女性は扉を開いて外に出る。若い女性もその後に続く。

 そして、二人の足音は遠ざかっていった。


 衝動に、突き動かされていた。

 私は、サンダルをはくと、扉を開いて外に飛び出した。


「待ってください!」


 車に乗ろうとしていた二人が、戸惑うようにこちらを見る。


「私も、連れてってください! 力になれるはずです!」


「今回の件に限って、あなたは力不足だわ。大人しく学生をしていなさい」


「友達が殺されたんです! 私を……私を、抜きにして、その話を進めないでください!」


「と言ってもね」


 小柄な女性は困ったような表情でこちらを見ている。


「嫌な目だ。そういう決意の固まった目をする奴は、突拍子もないことをする」


「私は、もう、揺るぎません」


「連れて行ってあげてもいいんじゃないですか?」


 若い女性が、穏やかに言う。


「それで、彼女の気がすむなら」


 小柄な女性は、しばし考え込んだ。


「今回、あんたはクソの役にも立たないと思うけど。それでいいならついてきな」


 そう言って、小柄な女性は車に乗り込んだ。若い女性もそれに続く。


「ちょっと待っててください!」


 そう言って、私は部屋に戻って真剣を取り出し、担いで走る。

 そして、車の後部座席に座った。


「シートベルト、しなよ」


「はい」


 ど忘れが多いのが私の欠点だ。

 私がシートベルトをすると、車が走り始めた。


「今回の件について、なにかわかったんですか?」


 若い女性が質問する。

 小柄な女性はハンドルを握りながら、しばし考え込むように黙り込んでいた。

 そのうち、その口が開く。


「これは、千年ほど前まで調べても数えるほどしか存在が確認されていないんだけどね……」


 千年。

 壮大な時間だ。


「多分、今回の相手は、スキルキャンセラーだ」


 小柄な女性は、苦々しげにそう告げた。


「スキルキャンセラー?」


 若い女性が戸惑うように言う。


「私達のスキルは全部無意味ってことさ」


 そう言って、小柄な女性は肩を竦めた。

 歯車が回り始める。私は、一歩を踏み出していた。



+++




 周囲には胸を刺された死体が五つ。それでも巴は生きていた。

 後ろで組んだ手は紐で縛られ、剣で斬られたが、それでも生きていた。

 傷が浅かったわけではない。そもそも、傷すらつかなかったのだ。


「なんだ、お前……スキルが効かないのか?」


 戸惑うように男は言う。


「まあ、いい。目的は果たした」


 巴は泣き出した。

 悔しかった。家族を殺され、そして自分だけが生きている。

 悔しい、悔しい、悔しい。

 それは、涙となって巴の瞳から流れ出た。


 そして、自分の叫び声で目が覚めた。

 場所は森の中。

 雨が降ってきたらしい。

 樹によりかかって、傘を開く。


 何人殺せば辿り着くだろう。

 何人殺せば炙り出せるだろう。

 家族を殺した、あの男を。


 その瞳は、青く光っていた。



第六話 完

次回『スキルキャンセラー』

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