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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二章 冒険を、望んでいた
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最強、邪悪、旅人、戦士、そして元凶

 光が翠に集まってくる。

 それが、放たれた。


 光の散弾が飛び交う。

 ソウルイーターは巨大な腕を四本並べて、その後ろに立った。

 一本目を通過する、二本目をこじ開ける。三本目を焼く。

 結局、相手までは届かなかった。


 巨大な腕が消える。

 そして、ソウルイーターは、巨大な炎を作り出した。

 それを、翠に向かって放つ。


 翠も炎を放つ。

 二つの炎が空中でぶつかって相殺した。


 休んでいる暇はない。チャクラムが回転しながら飛んでくる。

 それを、体の一部を鉄化して蹴り飛ばし、殴り飛ばした。


 ソウルキャッチャーとソウルイーターの戦い。

 それはお互いのスキルのぶつけ合い。

 スキルが多い者が勝つわけではない。

 意表を突けたものが勝つ。


 しかし、と翠は思う。

 目の前にいるのは本当にあのソウルイーターだろうか。

 以前あった邪悪さが、薄れている。

 旅の仲間を得て、少しは丸くなったということなのだろうか。


「お互い、色々あったみたいね」


 エネルギーを溜めながら、翠は言う。

 ソウルイーターも、エネルギーを溜めている。


「ああ。お前は一般人を完全にやめ、俺はガキのおもりだ」


「いいんじゃない? 人生の先輩をやるのも」


「俺を手本にしたら捻くれたガキが何人できるか楽しみだぜ」


 翠は顎に手を当てて考え込む。


「それも、そうね」


 そう言って、翠はエネルギー波を放った。

 ソウルイーターも応じて、エネルギー波を放つ。

 二つのエネルギー波が空中でぶつかり合う。


「読めてた」


 そう言った時には、ソウルイーターの側面まで移動していた。

 思い切り蹴り飛ばす。

 ソウルイーターは吹っ飛んで、回転しながら立ち上がった。骨折したようで、だらりと下げた右腕を左腕で治療している。


「降参、できないわよね。あなたは殺しすぎた。自業自得だけど、終身刑だわ」


「どうだろうな。俺は警察が知らない情報をいくつも知っている。取引の材料にはできると思うが」


 ソウルイーターは息を切らせながら言う。


「あなたは、なにを知ろうとしているの?」


「だから、言ったろ。自分探しだってよ」


 ソウルイータが四本の腕を同時に翠に襲いかからせる。

 その全てを、翠は手早く光の腕で包み込む。

 その時、側面に気配を感じた。

 光の腕を消し、相手の蹴りをガードする。そして、勢いよく地面に落下した。


「真似してやったぜ」


 そのまま、ソウルイーターは短剣を作り、斬りかかってくる。

 それを辛うじて避けていく。


「しぶとさだけでは負けねえ! お前みたいに最近まで人生平凡に生きてきましたって奴には絶対負けねえ!」


 ソウルイーターは叫ぶ。

 翠も知っていた。

 ソウルイーターが虐待されていたこと。自らの両親を殺したこと。

 けど、負けてやるわけにはいかない。


 翠は短剣を掴み、へし折る。

 ソウルイーターが驚愕に目を見開く。

 そして、翠はソウルイーターの腹部を蹴り飛ばした。


 翠は銃を構える。


「ここで終わりにする? それとも、全身骨折するまで続ける?」


 ソウルイーターは胃液を吐きながら、立ち上がる。

 それを、巨大な手が二本隠した。


「続けるみたいね」


 銃声が鳴った。




+++




 地下で、僕は短剣を細身な男性に叩きつけた。

 しかし、それは男性の肌に触れることができなかった。

 男性を、見えない膜が覆っている。


「素晴らしい適合率だ。私のバリアにぶつかって折れないとは……」


 男性は、憎々しげに微笑む。


「まったく、妬ましい限りだね」


 男性は僕に向かって光の手を伸ばす。

 響の光の手が、それを掴んで阻む。


 男性と響の間に、緊張が走った。

 たしか、あれはスキルや魂を掴む手。

 それを掴み合ったということは、綱引きをしているようなものだ。


 そして、響が負ければ、響は死ぬ。

 僕は、慌てて光の手を切った。


 響が大きく息を吐いて、手を膝において呼吸を整える。


「このバリアは上位スキルでね。中位スキルの変身能力じゃ絶対に破れないんだ。つまり、君は勝てない戦いを挑んだということだ」


 男はおもちゃを自慢する子供みたいに喜々として言う。

 その体に、光が集まっていった。


「じゃあ、死になさい」


 光が弾けた。

 光の散弾が天井を、床を、本棚を、冷凍庫を、破壊していく。

 僕は響の前に立った。そして、光の散弾に全身を撃たれて響ごと吹っ飛んだ。

 そこに、男が飛びかかってくる。


「変身能力には貫通スキル! 私は、それを持っている!」


 旅の中で使っていた男がいた、あのスキルか。

 僕は怒っていた。

 何人もの人生を弄んだ彼に、なにより響の人生を弄んだ彼に、怒っていた。


 なにを引き換えにしてもいい。奴を倒す力が欲しい。


(力を貸してくれ……スーツよ、剣よ!)


 僕は、長剣を召喚した。

 長剣に、光が集まり始めた。


 男は壁を蹴って地面に着地すると、後退する。


「それは、なんだ……?」


 戸惑いを持って、光を見つめる。


「お前のスキルは、変身能力だけじゃないのか……?」


「響。力を貸して。二人で、倒そう。あの、悪魔を」


「うん、わかった。私の力……アラタ君に託す」


 響は僕の肩に光の手を置く。響の生命エネルギーが流れ込んでくるのを感じた。

 そして、僕は飛びかかる。

 振りかぶり、天井ごと斬り裂いて、相手のバリアに斬りつけた。

 剣の動きが相手の顔の前で止まる。


(駄目か……?)


 男も、安堵したような表情になる。

 そう思った時だった。

 なにかがひび割れる音がして、長剣が後退する相手の顔を掠めた。

 相手は顔から大量に出血している。


「トドメだ!」


 追撃を仕掛ける。


「許さん……許さんぞ……!」


 相手の指から光が放たれる。それは、僕のスーツをいとも容易く貫通した。

 腹を抑えて、座り込む。


「優しく殺してやろうと思っていたが、気が変わった。惨たらしく殺してやる」


 怒気をこめて、男は言う。

 僕は、立ち上がる。

 そして、長剣を構える。


「バッドエンドには辿り着いた。けど、俺は本音を言うと、最後はハッピーエンドで皆笑ってる方がいい。響が、笑ってくれるほうがいい」


「ほざけ!」


 相手の指から光が放たれる。

 それを、長剣で弾く。


「全ての元凶。ここで断たせてもらう!」


 僕は再び、相手へと突貫した。




+++



 地下から光の散弾が飛んできて、翠は空へと舞い上がった。

 ソウルイーターも、戸惑うように散弾を避けていく。


「……この地下、なにかあるわね?」


 翠は、問う。


「なにがあるかは、俺も知らん」


 沈黙が漂った。


「警察はこの地下に誰か潜ませていたのか?」


 ソウルイーターが、探るように言う。

 翠は、首を横に振った。


「そんな事実はないわ。私はパートナーと二人で行動している」


「なら、俺の味方の二人はなにと戦っているんだ?」


 再度、沈黙。


「一時休戦といかないか」


 ソウルイーターの申し出に、しばし考え込む。

 しかし、彼らはなにかを求めてここまできた。

 ここには、なにかがある。


「わかったわ。けど、あなたは前を進んでね」


「ああ、いいさ。後ろからズドンはなしだぜ」


 二人は順番に、穴から地下に降りた。

 瓶の破片が散乱していた。

 そして、少年が、変身して細身な男性に斬りかかっていた。


 細身の男性の形相が変わる。


「斎藤翠、か……」


 少年の剣を掴んで受け止め、押し合いになっている中で、男性は考え込んでいるようだった。


「バリアを貫通する少年。天衣無縫斎藤翠。分が悪いな」


 そう言うと、男性は顔から流れる血を拭った。


「勝手に漁るがいい。全ては、終わった後だ」


 そう言うと、男性の姿はこの場から忽然と消えた。

 まるで、最初からいなかったかのように。




第十二話 完


次回『受け継がれし思い』

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