運命の子供達
穴の中は、倉庫のようだった。冷凍庫や本棚がいくつも並び、その中にテーブルがある。
響は手に炎を浮かべ、周囲を照らしながら、本棚を調べていく。
そのうち、その指が一点で止まった。
「あった!」
響は叫んで、そのファイルを取り出し、開こうとして、やめた。
「どうした?」
響はしばし沈黙して、苦笑する。
「怖いんだ。結末がここにあるから」
「けど、読まないと俺達は先に進めない」
響は、再びしばし沈黙して、頷く。
「そうだね。君と見る、未来のために……」
響は言って、ページを開いた。
緊張に強張ったその表情が、徐々に青ざめていく。
そして、彼女は地面に手をついて、吐いた。
ファイルの中身を僕も見る。
そこには、そう書いてあった。
『この、響という少女には、適合率が高かったJ・クロフォードの精子と畠山裕子の卵子を利用した』
僕も青ざめた。
そこにあったのは、響がデザイナーベイビーだという記録。母と血が繋がっていないという記録。
響は幽鬼のように立ち上がると、冷凍庫を開けた。
そこには、幾つもの瓶が並んでいた。
それを、響は狂ったように地面に叩きつけていく。
ガラスの割れる音が、地下に木霊した。
「響……」
「本当は、疑ってた! 最初から、こうなるってわかってた! なのになんで?」
響の声に、涙が滲む。
「なんでこんなに苦しいの……?」
僕は無言で、響の肩を抱いた。
なにも言えなかった。
僕らは辿り着いたのだ。バッドエンドへ。
その時、人の気配がして、僕らは構えた。
「いけないなあ。人の研究所を勝手に荒らして……」
いつの間にか目の前に現れた、細身の男性が言う。年齢は五十代前後だろう。
「ワープ?」
僕は戸惑いながらも、フォルムチェンジする。
ヘルメットにスーツ。手には短剣。長剣は、この地下ではつっかえそうだった。
「お父様……これは、どういうことですか!」
響は、憎々しげに細身の男性を睨みながら言う。
「ありのままさ。君達には、運命の子供達には、最高の才能を与えた。だから、成果を上げてくれるものだと思っていた。しかし、だ」
細身の男性は、苦笑する。
「君も、君の母親も、優しすぎたね」
「ふざけるなあああああ!」
響が叫び、光の手を放つ。それは細身の男性のなにかに触れた。
そして、響は戸惑うような表情になる。
「吸いきれない……?」
「君達の吸った魂を何度も見せてもらったからね。僕のストックはその誰よりも多い」
風が吹いた。
光の腕が切断される。
「さあ、始めようか。結末の決まった勝負を」
僕は、響の前に立つ。
「響。なんか知らないけどこいつがソウルイーター事件の首謀者なんだな?」
「だとしたら、どうする?」
答えたのは、細身の男性だった。
「気絶させて警察に突き出してやる!」
「やってみるがいいさ」
そう言って、男は笑った。
第十一話 完
次回『最強、邪悪、旅人、戦士、そして元凶』




