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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第三十二章 ソウルキャッチャーズ(最終部最終章)
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激戦

 一本の刀。それで作られた牙城が崩せない。

 巴は唖然とした気持ちで短剣二本を振っていた。


 巴と藤子の攻撃、それを相手は時になぎ、時に受け流してみせる。その動きはまるで水が流れるかのようで、自然に次から次へと繋がっていく。


(これが、半世紀第二神将を名乗っていた者の実力……)


 レベルが違う。それが、巴の正直な感想だった。

 致命傷は受けないだろう。しかし、勝つには奇跡が必要だ。


 躊躇いは剣を鈍らせる。

 巴は腹部を蹴られて、尻もちをついた。


 藤子がそこに隙を見出し相手の胸をつらぬいた。

 そう思った時には、つらぬいたはずの体は消え、藤子の背後に涼花の姿があった。

 巴は涼花にタックルして地面に伏せさせる。

 蹴られて、唾液を吐きながら背後へ飛ぶ。

 それと入れ違うように、刀を逆手に持った藤子が前進した。


 刀が振り下ろされる。それを転がって回避すると、涼花は背後に跳躍して体勢を整えた。


「ふむ。互角というところかな」


 涼花は不満げに言う。

 巴も、藤子も、黙り込む。

 認めたくない。けど、認めざるをえない。


 二対一で、やっと互角だと。


「全盛期の私と二人で互角。誇っていいわよ」


「あなたの剣には誇りがない」


 巴は立ち上がりながら言う。


「それが、私達とあなたの差だわ」


 涼花は薄っすらと微笑んだ。


「誇りじゃ飯は食えないのよ」



+++



 異界の勇者との戦いは、互いに様子見の段階にあった。

 走りながら、互いに電撃を放つ。光が点滅し、薄暗い室内を照らす。


「こうしていてもしょうがないな。決着をつける段階へと移行しようじゃないか」


 勇者は、微笑みながら言う。


「いいねえ。どうやって決着をつける? ジャンケンか?」


「この世界のゲームだっけ。平和でいいね。けど、これはゲームじゃない」


 勇者は、両手で剣を握った。

 その瞬間、悪寒が恭司を襲った。

 この相手には勝てない。さほど多くない戦闘経験だが、それでも察するに余りある実感だった。


 勇者は跳躍した。

 恭司は撫壁を構える。

 スキルキャンセラーの攻撃以外は全てを防いできた恭司の切り札。


 そして、白い剣が撫壁にぶつかる。

 その一撃で、恭司は後ろへと吹っ飛んだ。


 勇者が追撃する。剣の先端が大輝の頭部へと吸い寄せられるように進んでいく。


(電光石火!)


 心の中で唱えて、恭司は電光石火を発動させた。

 首をひねり、辛うじて剣を避ける。

 そして、相手の後方へと目にも留まらぬ速さで移動した。


 白い剣が振り向きざまに振られる。

 腕は断たれる。けど、こちらは相手の心臓を貫ける。

 そう思い、恭司は黒剣を前に突き出した。


 思ったよりも速く、相手の剣は動いた。

 それは、恭司の右腕を完全に断っていた。

 利き腕の喪失。それは想像を絶するショックとなって恭司を襲った。

 しかし呆けている場合ではない。退かなければ、もう片方の手も断たれる。


 恭司は自身の右腕を拾い、後方へと跳躍する。

 そして、服を破って止血を行う。


「さて、攻撃手段がなくなったな」


 勇者は、軽く剣を振って刀身から血を飛ばすと、言う。

 恭司はしばし考え込んでいたが、そのうち呟いた。


「この戦いが終わったら、俺は結婚するんだ。健気な奥さんに元気な子供。それはきっと、幸せな生活になるだろう」


「ふむ」


「こんなところで立ち止まっていられないんだよ。俺はよ!」


 そう言って、恭司は撫壁を消して、左手で黒剣を握った。

 撫壁は左腕にくくりつけるように再構成される。


 勇者は、寂しげにそれを見ていた。


「無情だね」


 やりきれない、と言いたげな口調だった。


「そういうことを言う奴から、戦場で死んでいく。だから、俺は仲間を捨てた。一人で戦えるようになった」


「ほざけ!」


 恭司は飛んだ。

 電光石火時のスピードは相手より僅かに上。

 撹乱からの一撃は可能だ。


 そう思い、相手の側面に回った時、拳が恭司の顔に叩き込まれた。


「面白い手品だった」


 勇者は言う。


「そろそろ、本気を出させてもらう」


 恭司は背後に飛ぶ。

 心臓が強く脈打っている。嫌な予感がする。気圧されている。ソウルキャッチャーでもスキルキャンセラーでもない一人のただの人間に。


 勇者の目が、赤い光を放っていた。



+++



「これ、スキルキャンセルで消していってもらえばよかったのでは?」


 勇気が、ドラゴンの腹に刀を通そうとして、その硬さに弾き返された。


「いや、こいつは自身の肉体を持っている。今までの魔力で構成されていた紛い物とは別物だ」


「正真正銘のドラゴン、か」


 ドラゴンが火球を吐く。

 それを、セレナの炎が吸収し、逆に相手の頭部を狙う。

 しかし、ダメージは一つもない。


 ドラゴンは大きく咆哮した。

 勇気に断たれた片腕が再生し、その両手の中央に魔力が溜まり始める。


「おい、これ……」


 相馬が強張った声で言う。

 セレナは、目を見張って言っていた。


「エレメンタルカラーズ……!」


 光が放たれる。相馬は二人を抱き上げて空を飛んだ。

 光は後を追ってくる。しかし、不器用なのか動きはそれほど速くない。


「相馬さん、下ろして。私ならあれぐらいは避けられる」


 そう、勇気が言う。

 相馬は、素直に勇気の手を離す。


「さて、最強の矛に最強の盾か。厄介なことになってきたな」


「恭司さんみたいだね」


 セレナの言葉に、相馬は苦笑した。


「あいつは今頃上層に行ってるんだろうな。援護に来てくれないかな」


「通信機で話してみる?」


「いや、自分のケツは、自分で拭くさ」


 そう言って、相馬は銃の弾を全て取り出すと、口に咥えた弾を落とした。


「トルネードブリッド。こいつが効けば、勝機はある」


 効かなければ?

 そんな言葉を、セレナは飲み込んだ。



第六話 完

次回『大輝対ミカ』

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