再会は激情と共に
翠、アラタ、恭司は走っていた。
やや遅れ気味な恭司を、灯火が自分の乗っている空飛ぶ箒に乗せる。
そして、四人は開けたフロアに出た。
鎧に身を包み、剣を杖のようについた青年が立っていた。腕には盾がくくりつけてある。
「……四人か。この世界の治安維持組織の精鋭と聞いたが、存外に少ない」
「あなたこそ、一人でやる気?」
「ああ、一人で十分だ」
そう言って、男は手から電撃を放つ。
弾かれたように恭司も動き出し、手から電撃を放つ。
両者の放った電撃はその中間で相殺され消滅した。
恭司は男に向かって歩いて行く。
男も、恭司に向かって歩いて行く。
そして、互いの剣を盾で防ぎあった。
鈍い音がしたが、盾は壊れなかった。
「電光石火」
そう呟き、恭司は後方に飛んで距離を置く。
「お前ら、先に行ってくれ」
そう言って、恭司はあらゆるものを斬る黒い剣を構えた。
「こいつは、俺がやる」
「思い上がりもいい加減にしろよ」
不快げに男は言う。
「俺は、異界の勇者なのだからな」
翠はしばし迷ったが、恭司の目に気圧されて、駆け出した。
男は手を上げる。
そこに、恭司の黒い剣が投じられた。
男は手を引いた。
恭司の手に、再び黒い剣が握られる。
「異界の勇者、か」
「確かにお前ならば数分は保つだろう。しかし、数十分は保つまい」
「どうだろうな。勝っちまうかもしれないぜ、俺」
異界の勇者は高笑いをした。
「冗談はそれぐらいにしておけよ」
「本気なんだがなあ」
ぼやくように言って、恭司は剣を構えた。
+++
藤子、巴、大輝は、外に面した道を駆けていた。
そのうち、室内に繋がる扉が見えてくる。
それを開くと、中には、刀を帯びた一人の若い女性がいた。
憂いを帯びたその瞳が、ゆっくりと持ち上げられる。
「先手必勝!」
大輝が言い、巨大な腕を地面に生やし、相手に突撃させる。
それを、女性は一歩も動かずに、刀を振るだけでバラバラにした。
「な……」
大輝は呆然とする。
次の瞬間、女性は信じられないような速度で大輝の目の前に移動していた。
鉄と鉄がぶつかり合う音がする。
巴と藤子の刀と双剣が交差し、女性の刀を阻んでいた。
「大輝くん、だったよね。先へ行きなさい。ここは私達の分野だ」
藤子が淡々とした口調で言う。
「俺には他のスキルもある!」
「なら、それはミカに叩き付けなさい」
大輝はしばし迷っていたが、女性の腹部に掌底を叩き込もうとして避けられ、そのまま奥へと駆けていった。
「さて」
藤子は言う。
両者は一定の距離を保ち、互いに刀や双剣を構えている。
「どういうことですか、瀬田涼花さん」
その一言に、巴は衝撃を受けた。
「瀬田さんは死んだはずじゃ?」
国会議事堂前でミカを防ぐために死んだ。それが、瀬田涼花に対する巴の情報だ。
「剣を交えてわかったでしょう。これは瀬田涼花の剣だと」
「……裏切ったんですか。清十郎さんを」
巴は、憎悪をこめて言う。
涼花は、刀を下ろした。
「不老不死。人の永遠の夢。そして人は脆いもの」
「それが悪魔の誘惑だとしても?」
藤子が、責めるように言う。
「乗ったでしょう。だから、私はあなた達の敵になった」
「お前えええええ!」
巴が駆け出す。
その双剣を、涼花は一本の剣で受け止める。
「清十郎さんは信じてたんだぞ! 最後の最後まであんたを信じてたんだぞ! それをよりによって、ミカを助けるなんて……!」
清十郎が死んだあの時、神社の境内からミカの首を持って行ったのは間違いなく彼女だった。
彼女は、清十郎が決死の思いで作ったチャンスを潰したのだ。
「……あの人は、素直すぎたのよ」
腹部に衝撃を感じて、巴は後退する。
腹部を蹴られた。
頭に血が昇っていると、やっと実感した。
振り下ろされた涼花の刀を、藤子が受け止める。
そして、巴の脇をひっつかんで、後方へと跳躍した。
「相手は半世紀第二席から動かなかった剣士だ。冷静さを欠いたら負けるぞ」
「……はい」
「首都八剣第一神将、藤原藤子、参る!」
仕切り直すように、藤子は高々と宣言する。
「同じく首都八剣、第二神将、木下巴、参る!」
「あなた達が第一、第二神将……」
涼花は、苦笑交じりに微笑む。
「人材不足は深刻ね。だから清十郎さんも私も引退できなかった」
「お前が清十郎さんを語るな!」
巴が駆け始め、涼花が静かな動作で構えを取る。
これは長引くな。
苦い思いが、藤子の心を満たした。
+++
相馬、楓、勇気、セレナは、それを見て唖然としていた。
人間の何倍もある大きさの漆黒のドラゴン。今まで見てきた中で一番巨大だ。
二階の床は取り払われ、天井は高々としている。
ドラゴンが炎を吐く。
セレナが炎を放つ。
二つは相殺して、消滅した。
「よし、やれる!」
セレナが、実感を篭めて言う。
「お前は先に行け」
そう言って、相馬は楓の背を押す。
「でも……」
「スキルキャンセルは必要なスキルのはずだ。翠達を援護してやってくれ」
「……死なないでよ」
「とーぜん」
そう言って、相馬は銃を変形させ、巨大なレーザーを放つ。
勇気がドラゴンの手を双剣で断つ。
楓が走り出すと、ドラゴンの唸り声も、味方達の声も、遠くなっていった。
そして、薄暗い道を、楓は一人で走る。
ゴールはあるはずだ。
それを目指して、楓は進む。
第五話 完
次回『激戦』




