最強の超越者は一般人を名乗る
僕らはマクドナルドに戻ってきていた。
飲み物をそれぞれ注文し、テーブルを一つ借りる。
店員の中年女性は、産婦人科の医師の名前までは覚えていないようだった。
きっと、誰もがそうだろう。
十数年前に潰れた総合病院の話なんて誰が知っているだろう。
「……このオチは予測してなかったなあ」
響は、溜息混じりに言う。
「探偵を雇えばいいんじゃないか?」
と、僕。
「まあ、金はあるしな」
と、ソウルイーターが淡々とした口調で言う。
「長期戦を挑むにしては……私達は目立ちすぎる」
響は、躊躇いがちに言う。
「だってお尋ね者でしょ? 私達。 それが一箇所に固まってたら、やっぱりバレるよ」
僕はなにも言えなかった。
こんな消化不良の結末、僕は嫌だった。
「もう一度、試したいことがある」
そう言ったのは、ソウルイーターだ。
もう飲み物を飲みきってしまったらしく、氷をかじっている。
「試したいこと?」
響が怪訝な表情になる。
「そ」
ソウルイーターは、短く答えた。
+++
更地へと、僕らは戻ってきていた。
そこを、ソウルイーターは歩いていく。
儀式のように、つま先で地面を叩きながら、歩いていく。
そのうち、その動きが止まった。
彼はしゃがみ込むと、地面に掌をつけた。
次の瞬間、その掌から爆発が起きる。
穴が空いていた。
「地下……?」
響が、驚いたように言う。
「なんかきな臭いことやってた可能性が高まってきたな」
ソウルイーターが、呆れたように言う。
その時、僕は濃厚な気配を感じた。
殺意というには穏やかすぎる。
しかし、自分達を感知して移動しているということがありありとわかった。
ソウルイーターが振り向く。
「……来るぞ。最恐の超越者が」
ソウルイーターは空を見ていた。それに習い、空を見る。
遠くに、点が見える。それは、みるみるうちに近づいてきて、僕らの前で静止した。
まだ若い女性だ。それが、空中で静止している。
彼女が手を掲げると、剣が空から降ってきて、僕らの進路を塞いだ。
威圧感に、吐きそうになる。
最恐の意味を、実感として味わっていた。
「また出会ったわね。ソウルイーター。散々暴れていたらしいけれど、なにが目的なの?」
「くだんない理由さ。ただ、目的地にはついた」
そして、ソウルイーターの目が赤く輝いた。
巨大な腕が複数現れて、僕らの周囲の剣を食い散らかしていった。
「行け! アラタ、響! こいつの相手は俺がする!」
「三人で立ち向かったほうが……」
響が躊躇いがちに言う。
僕も同調する。
「そうだよ。気配だけでわかる。怪物だよ、こいつは」
「こいつ相手じゃ、お前らのおもりまでできないんでな」
そう言って、ソウルイーターは二人に背を向ける。
その背からは、強い決意が感じられた。
彼も、情報がほしいのだ。
僕は、響の手を取って、穴の中へと入っていった。
+++
「怪物ですって。酷いわね。私はちょっと力を持っただけの一般人なのに」
ソウルキャッチャーは、拗ねるように言う。
そして、言葉を続けた。
「あなたと別れて、数ヶ月が過ぎた。しかし、あなたのやっていることは変わらない。なにが目的なの?」
「さて、ね。お前こそどうする。今回は盾のにーちゃんはいねえぞ」
「それならお生憎様」
そう言ったソウルキャッチャーの手に、巨大なカイトシールドが現れる。
「借りてるのよ」
ソウルイーター、大輝がげんなりとした表情になる。
「これだからソウルイーターの相手をするのは嫌なんだ」
「ソウルキャッチャーよ、間違えないで」
「ああ、そうさな。善のソウルキャッチャー、悪のソウルイーター。そして俺は悪の側だ。過去も、現在も、未来も」
「ここに、あなたの悪を満たすものがあるとでも?」
「いや?」
そう言って、大輝は手を掲げる。
「自分探しさ」
そう言って、気の塊を連打する。
カイトシールドがそれを受けとめる。
移動しつつ撃とうと考え、足元が氷漬けにされていることに気がつく。
鬼の力で無理やり破壊して移動を始める。
(スキルの同時使用にかなり慣れたか……前よりやるようになっている)
巨大な腕が膨れ上がり、カイトシールドを抱えたソウルキャッチャーごと飲み込もうとした。
その次の瞬間、カイトシールドを突き破って光の腕が高速で伸び、巨大な腕を包み込むように巻きついた。
そして、巨大な腕は一本が消えた。
「喰いやがったか……」
「なるほど。数を減らして一本ずつの強度を高めたのね」
感心するようにソウルキャッチャーが言う。
魂を使って創造した巨大な腕は残り四本。
時間が経つほど自分は不利になる。最終的には敗北を喫する。それはわかっている。
しかし、退けない。父の顔が、母の顔が、脳裏によぎる。
一家の団欒を破壊した元凶がここにあるかもしれない。
そう思うと、大輝は退けなかった。
たとえそこに、最強の超越者がいようとも。
ソウルキャッチャーの体から光が溢れていく。
それは大輝に囚われていた魂が開放される姿。
「さて。あなたの魂に届くには、あとどれだけ吸えばいいのかな」
ソウルキャッチャーは余裕顔だった。
いつの間にこんなに差がついたのだろう。
三人のソウルイーターのスキルを確保しているソウルキャッチャー。
彼女はもう、一般人の範疇を超えている。
それでも超越者を名乗らないのは、彼女の意地なのかもしれない。
(ほんと、頼むぜ。アラタ、響)
大輝は立ち向かい続ける。最強のソウルキャッチャーに。
第十話 完
次回『運命の子供達』




