表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二章 冒険を、望んでいた
38/391

最強の超越者は一般人を名乗る

 僕らはマクドナルドに戻ってきていた。

 飲み物をそれぞれ注文し、テーブルを一つ借りる。

 店員の中年女性は、産婦人科の医師の名前までは覚えていないようだった。

 きっと、誰もがそうだろう。

 十数年前に潰れた総合病院の話なんて誰が知っているだろう。


「……このオチは予測してなかったなあ」


 響は、溜息混じりに言う。


「探偵を雇えばいいんじゃないか?」


 と、僕。


「まあ、金はあるしな」


 と、ソウルイーターが淡々とした口調で言う。


「長期戦を挑むにしては……私達は目立ちすぎる」


 響は、躊躇いがちに言う。


「だってお尋ね者でしょ? 私達。 それが一箇所に固まってたら、やっぱりバレるよ」


 僕はなにも言えなかった。

 こんな消化不良の結末、僕は嫌だった。


「もう一度、試したいことがある」


 そう言ったのは、ソウルイーターだ。

 もう飲み物を飲みきってしまったらしく、氷をかじっている。


「試したいこと?」


 響が怪訝な表情になる。


「そ」


 ソウルイーターは、短く答えた。



+++



 更地へと、僕らは戻ってきていた。

 そこを、ソウルイーターは歩いていく。

 儀式のように、つま先で地面を叩きながら、歩いていく。

 そのうち、その動きが止まった。

 彼はしゃがみ込むと、地面に掌をつけた。

 次の瞬間、その掌から爆発が起きる。

 穴が空いていた。


「地下……?」


 響が、驚いたように言う。


「なんかきな臭いことやってた可能性が高まってきたな」


 ソウルイーターが、呆れたように言う。


 その時、僕は濃厚な気配を感じた。

 殺意というには穏やかすぎる。

 しかし、自分達を感知して移動しているということがありありとわかった。


 ソウルイーターが振り向く。


「……来るぞ。最恐の超越者が」


 ソウルイーターは空を見ていた。それに習い、空を見る。

 遠くに、点が見える。それは、みるみるうちに近づいてきて、僕らの前で静止した。

 まだ若い女性だ。それが、空中で静止している。

 彼女が手を掲げると、剣が空から降ってきて、僕らの進路を塞いだ。


 威圧感に、吐きそうになる。

 最恐の意味を、実感として味わっていた。


「また出会ったわね。ソウルイーター。散々暴れていたらしいけれど、なにが目的なの?」


「くだんない理由さ。ただ、目的地にはついた」


 そして、ソウルイーターの目が赤く輝いた。

 巨大な腕が複数現れて、僕らの周囲の剣を食い散らかしていった。


「行け! アラタ、響! こいつの相手は俺がする!」


「三人で立ち向かったほうが……」


 響が躊躇いがちに言う。

 僕も同調する。


「そうだよ。気配だけでわかる。怪物だよ、こいつは」


「こいつ相手じゃ、お前らのおもりまでできないんでな」


 そう言って、ソウルイーターは二人に背を向ける。

 その背からは、強い決意が感じられた。

 彼も、情報がほしいのだ。


 僕は、響の手を取って、穴の中へと入っていった。



+++


「怪物ですって。酷いわね。私はちょっと力を持っただけの一般人なのに」


 ソウルキャッチャーは、拗ねるように言う。

 そして、言葉を続けた。


「あなたと別れて、数ヶ月が過ぎた。しかし、あなたのやっていることは変わらない。なにが目的なの?」


「さて、ね。お前こそどうする。今回は盾のにーちゃんはいねえぞ」


「それならお生憎様」


 そう言ったソウルキャッチャーの手に、巨大なカイトシールドが現れる。


「借りてるのよ」


 ソウルイーター、大輝がげんなりとした表情になる。


「これだからソウルイーターの相手をするのは嫌なんだ」


「ソウルキャッチャーよ、間違えないで」


「ああ、そうさな。善のソウルキャッチャー、悪のソウルイーター。そして俺は悪の側だ。過去も、現在も、未来も」


「ここに、あなたの悪を満たすものがあるとでも?」


「いや?」


 そう言って、大輝は手を掲げる。


「自分探しさ」


 そう言って、気の塊を連打する。

 カイトシールドがそれを受けとめる。


 移動しつつ撃とうと考え、足元が氷漬けにされていることに気がつく。

 鬼の力で無理やり破壊して移動を始める。


(スキルの同時使用にかなり慣れたか……前よりやるようになっている)


 巨大な腕が膨れ上がり、カイトシールドを抱えたソウルキャッチャーごと飲み込もうとした。

 その次の瞬間、カイトシールドを突き破って光の腕が高速で伸び、巨大な腕を包み込むように巻きついた。

 そして、巨大な腕は一本が消えた。


「喰いやがったか……」


「なるほど。数を減らして一本ずつの強度を高めたのね」


 感心するようにソウルキャッチャーが言う。 

 魂を使って創造した巨大な腕は残り四本。

 時間が経つほど自分は不利になる。最終的には敗北を喫する。それはわかっている。

 しかし、退けない。父の顔が、母の顔が、脳裏によぎる。

 一家の団欒を破壊した元凶がここにあるかもしれない。

 そう思うと、大輝は退けなかった。


 たとえそこに、最強の超越者がいようとも。

 ソウルキャッチャーの体から光が溢れていく。

 それは大輝に囚われていた魂が開放される姿。


「さて。あなたの魂に届くには、あとどれだけ吸えばいいのかな」


 ソウルキャッチャーは余裕顔だった。

 いつの間にこんなに差がついたのだろう。


 三人のソウルイーターのスキルを確保しているソウルキャッチャー。

 彼女はもう、一般人の範疇を超えている。

 それでも超越者を名乗らないのは、彼女の意地なのかもしれない。


(ほんと、頼むぜ。アラタ、響)


 大輝は立ち向かい続ける。最強のソウルキャッチャーに。



第十話 完

次回『運命の子供達』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ