決戦手前
「お」
「よう」
慎一郎と鏡志朗はホテルの廊下で鉢合わせていた。
鏡志朗は微笑む。
「クリエイターを撃破したそうだな。お前の腕を疑って悪かった」
「第三神将がでかい炎の化物を一人で請け負ってくれたおかげだよ。俺達だけじゃもっと時間がかかっていた」
「謙遜するな。それを言ったら俺は一○九が巨大な炎の化物に襲われているのに歯噛みしてただけだ」
「お互い苦労したなあ」
「まったくもって」
「多分、俺達はもっともっと強くなれる。伸び代があるんだ。あの人達みたいな天才的な伸びはない。けど、徐々に、確実に、強くなっていけるんだ」
「それが許されるのもまた天才だけどな」
「そうかな」
「そうだよ」
沈黙が漂う。
「また会おうぜ。お互いが天才であることを祈ろう」
「そうだな」
そう言い合って、二人は拳をぶつけてすれ違っていった。
+++
「清十郎さんの推薦によって第一神将に格上げになりました。藤原藤子です」
席が欠けた首都八剣の道場で藤子が座布団の上に正座をして言う。
「清十郎殿はもう亡くなった身。それに貴殿には家格もない。早急ではないかな」
新たな第八席が言う。
「御尤も。しかし、そういった議論は、次の難敵を倒してからにしましょう」
「次の、難敵?」
「ミカです。彼女の遺体は現場から消えていた。逃げ延びたと見るのが正しい」
「ふむ」
第八席は、顎を撫でる。
「第一神将、第二神将、第六席はミカ討伐に向かいます。帰らなかった後のことは、第三神将にお任せします」
「はっ!」
前第一神将が残してくれた時間だ。
有効に活用せねばならなかった。
+++
河川敷で、私は川の流れを眺めていた。
背後に気配がある。
「なんですか? 藤子さん」
そう言って、平べったい石を投げる。
石は水を切って跳ねた後、水中に落ちた。
「いや。ここが前第一神将が好んだ場所か、と思ってね」
「らしいですね。一緒に遊ぼうと言ったらここへ行こうと言ったので」
「今頃天国で奥様の尻に敷かれてるでしょうね」
「ふふ。それも幸せの形ですよ」
しばし、私は石を投げ続ける。
「……決戦だね」
「次は、逃しません」
「うん。本当にそうだ」
「清十郎さん、言ってたんですよね。ミカには弱点があるって」
「弱点か……」
藤子は、顎に手を当てる。
「私、なんとなくわかる気がするんだよね」
「私も、なんとなくは」
「なら、それを活かさなきゃ前第一神将も成仏できまいよ」
「ですね」
決意は固まった。最終決戦に向けて、時間は流れていく。
第三十一章 完
次週、最終章『ソウルキャッチャーズ』




