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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第三十一章 老兵最後の戦い
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清見清十郎

「こちら藤原藤子。慎一郎くん達と組んでクリエイターの撃破に成功」


 藤子が通信機を使って言う。

 まだ、周囲には煙が昇っている。

 しかし、いずれそれは消えるのだろう。


「こちら、木下巴。第一席の後を追っています」


「ボスは健在ってことか」


 藤子は考えて、外に出る。


「私も後を追う。三対一なら流石に勝てるでしょう」


「ありがとうございます」


 藤子は天を仰ぐ。

 雨が降り始めた。

 なにか、嫌な予感がした。



+++



 第一席は、空中に石を置きながらそれを蹴って高速移動を繰り返していた。

 先にいるのは、ミカ。

 ミカは手足を斬っても即座に再生する。

 それでも逃げるということは、弱点があるということだ。


 その弱点というのも、第一席は予測ができていた。

 そこを攻撃されるのは嫌だ、と体捌きがそう言っているのだ。


 そして、二人は神社の境内で対峙した。


「無益な追いかけっこね。あなたの懐に隠した石は後何個あるかしら」


「おびき寄せられたとも気づいておらぬのかな?」


 第一席は、冷たい声で言う。


「角度、速度、それらを駆使してお前の進路を決定させた。お主の行動はワシの手の中にある」


「へえ。それで、どうすると」


「なに。こうするのだ」


 そう言うと、第一席は刀の切っ先を、自分の心の臓のある位置に当てた。

 ミカはしばらく唖然としていたが、何かに気づいたらしく、慌てて前進する。


「清十郎さあああああん!」


 巴の声がする。

 ああ、人生最後にこの声を聞けるなんて、なんて幸せなのだろう。

 彼女は似ていた。姿も、声も、仕草も。

 死ねば、妻に会えるだろうか。

 ならば、今度こそ、幸せな家庭を作ろうと思う。


 思えば、妻が死んでからの自分の人生は、消化試合のようなものだった。

 刀が、肌を裂く。そして、肉を貫き、心の臓をも破壊した。


 清十郎は血を吐いて地面に倒れ伏す。


「くそ、死ぬ前に」


 そう言って、ミカはビルを飲み込むような巨大な炎を作り出し、清十郎に放つ。

 それを、巴がスキルキャンセラーで無効化した。

 彼女は清十郎を抱き上げ、泣きじゃくる。


「どうして……どうして……」


「感じないか? 第四席。ここを中心に東京の空気が澄んでいくのを」


 言われてみたら、そうだ。頬を撫でる風も、どこかいつもより爽やかだ。


「徳川家が仕掛けた魔除けの結界。それの再利用じゃよ。犠牲者の力量により数百年近く保つ。現代では再現できない、複雑な結界じゃ」


 清十郎は微笑む。


「最後に見れてよかった。あいつが好きだった、あの河川敷……」


「死期を、悟られていたのですか」


「ああ。そして、最後の頼みだ。ミカを、たお、せ。弱点は、の……」


 そして、清十郎の体は徐々に冷たくなっていった。

 巴は立ち上がる。

 ミカは飛行スキルが上手く使えぬらしく、その場で地団駄を踏んでいる。

 ミカは邪の者。

 それを察知して、結界がスキルの使用を阻んでいるのだ。


 巴は双剣をマントから抜き出し、ミカに近づいていってその首を断った。

 頭を失った肉体が倒れ、血を噴出させた。

 その体は、粉々になって、空へと飛んでいった。


 その時、上空から気配があった。

 咄嗟に双剣を構えて対応する。

 相手は双剣に一撃を入れると、ミカの頭部を持って去っていった。若い女性だ。

 あれは明らかに、不条理の力を使った身体能力。


「清十郎さん……」


 第一席に向き直り、しゃがみこむ。

 手を握ると、すでに冷たくなっていた。



第十話 完





次回第三十一章最終話『決戦手前』

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