清見清十郎
「こちら藤原藤子。慎一郎くん達と組んでクリエイターの撃破に成功」
藤子が通信機を使って言う。
まだ、周囲には煙が昇っている。
しかし、いずれそれは消えるのだろう。
「こちら、木下巴。第一席の後を追っています」
「ボスは健在ってことか」
藤子は考えて、外に出る。
「私も後を追う。三対一なら流石に勝てるでしょう」
「ありがとうございます」
藤子は天を仰ぐ。
雨が降り始めた。
なにか、嫌な予感がした。
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第一席は、空中に石を置きながらそれを蹴って高速移動を繰り返していた。
先にいるのは、ミカ。
ミカは手足を斬っても即座に再生する。
それでも逃げるということは、弱点があるということだ。
その弱点というのも、第一席は予測ができていた。
そこを攻撃されるのは嫌だ、と体捌きがそう言っているのだ。
そして、二人は神社の境内で対峙した。
「無益な追いかけっこね。あなたの懐に隠した石は後何個あるかしら」
「おびき寄せられたとも気づいておらぬのかな?」
第一席は、冷たい声で言う。
「角度、速度、それらを駆使してお前の進路を決定させた。お主の行動はワシの手の中にある」
「へえ。それで、どうすると」
「なに。こうするのだ」
そう言うと、第一席は刀の切っ先を、自分の心の臓のある位置に当てた。
ミカはしばらく唖然としていたが、何かに気づいたらしく、慌てて前進する。
「清十郎さあああああん!」
巴の声がする。
ああ、人生最後にこの声を聞けるなんて、なんて幸せなのだろう。
彼女は似ていた。姿も、声も、仕草も。
死ねば、妻に会えるだろうか。
ならば、今度こそ、幸せな家庭を作ろうと思う。
思えば、妻が死んでからの自分の人生は、消化試合のようなものだった。
刀が、肌を裂く。そして、肉を貫き、心の臓をも破壊した。
清十郎は血を吐いて地面に倒れ伏す。
「くそ、死ぬ前に」
そう言って、ミカはビルを飲み込むような巨大な炎を作り出し、清十郎に放つ。
それを、巴がスキルキャンセラーで無効化した。
彼女は清十郎を抱き上げ、泣きじゃくる。
「どうして……どうして……」
「感じないか? 第四席。ここを中心に東京の空気が澄んでいくのを」
言われてみたら、そうだ。頬を撫でる風も、どこかいつもより爽やかだ。
「徳川家が仕掛けた魔除けの結界。それの再利用じゃよ。犠牲者の力量により数百年近く保つ。現代では再現できない、複雑な結界じゃ」
清十郎は微笑む。
「最後に見れてよかった。あいつが好きだった、あの河川敷……」
「死期を、悟られていたのですか」
「ああ。そして、最後の頼みだ。ミカを、たお、せ。弱点は、の……」
そして、清十郎の体は徐々に冷たくなっていった。
巴は立ち上がる。
ミカは飛行スキルが上手く使えぬらしく、その場で地団駄を踏んでいる。
ミカは邪の者。
それを察知して、結界がスキルの使用を阻んでいるのだ。
巴は双剣をマントから抜き出し、ミカに近づいていってその首を断った。
頭を失った肉体が倒れ、血を噴出させた。
その体は、粉々になって、空へと飛んでいった。
その時、上空から気配があった。
咄嗟に双剣を構えて対応する。
相手は双剣に一撃を入れると、ミカの頭部を持って去っていった。若い女性だ。
あれは明らかに、不条理の力を使った身体能力。
「清十郎さん……」
第一席に向き直り、しゃがみこむ。
手を握ると、すでに冷たくなっていた。
第十話 完
次回第三十一章最終話『決戦手前』




