大混乱
慎一郎達が現場にたどり着くと、酷い有様だった。
人形の炎がショッピングモールに抱きつき、燃やし、仲間を爆発的に増やしている。
周囲は炎の人形だらけで夏のような熱気が漂っていた。
そのうち、人形達は慎一郎達に気がついたらしく、飛びかかってきた。
慎一郎が剣をふるい、数匹を断つ。
右京が九十九赤華でその核を断ち、勇気は背後の敵に備える。
小豆は氷を放ち、セレナは炎を無理矢理に消滅させる。
炎の海の中に、五人は取り残されたかのようだった。
「こんなに、キリがない……!」
右京の心は既に折れているようだ。
「ちょっとずつでも前進することだよ」
勇気は飄々とした口調で言う。
「敵の生まれるペースは秒間数十匹。こっちが処理できる数は秒間七匹前後。止まっていたら負け戦だ」
「けど、ここは東京だ」
慎一郎が言う。
「ここが陥落すれば、日本は混乱状態になる」
四人が各々戦いながら頷く。
「ちょっと、時間がほしい」
そう、勇気は言う。
「クリエイターの居場所を探知してみようと思う」
四人は顔を見合わせる。
「わかった!」
慎一郎が、胸を張っていった。
「セレナ、小豆、その分負担をかけるぞ」
「いいってことよ」
「本音じゃ悲鳴上げて逃げたいけどね」
小豆は冗談交じりに言った。
以前のクリエイターとの対戦。それは、確実に彼らを戦士にしていた。
+++
国会議事堂には首都八剣の第二席とその弟子達が配置されていた。
「敵影は?」
楓が通信機器に向けて問う。
「焦らなくてもそのうちくるわよ」
微笑ましげな第二席の声が返ってくる。
正直、この人はおっとりしすぎていて調子が狂う。
混乱を外に漏らさないように、国会は今日も通常運転だ。
楓は気を張り詰めて周囲の気配を探る。
しかし、敵の気配はたしかにない。
ここに至る前に誰かが退治してくれていると考えるべきか。
楓は祈る。自分の力が活用されないような展開になってくれることを。
+++
「北東一キロメートルに反応あり」
勇気が、顔を上げる。
「ここから北東一キロメートルに気配がある。悪い気配だ。なんとかできる部隊はいるか?」
慎一郎は剣を振りながら通信機器に向かって叫ぶ。
「少し考える時間をください」
短い返事を残して、通信機器は沈黙した。
「さて」
慎一郎は微笑む。
「いよいよ俺達が踏ん張るだけだぜ」
「だね」
右京は苦笑交じりに返す。
その時のことだった。消防車が走ってきた。
それは人形の壁を打ち破り、中から出てきた消防士達が水を照射し始めた。
炎の人形は消防車へと近づいていく。
それを、セレナが強制的に無に返した。
横薙ぎの水は消していく。
炎の人形を、何体も。
「任せていいか?」
慎一郎は問う。
「護衛は欲しいところだけど、まあ、死なない程度にやるさ」
そう言って、消防士は接近してくる炎に水をぶつけた。
「近くに支援に行ける部隊がいます!」
通信機から声がする。
「消防車の護衛は任せた! 行こう、クリエイターの居場所へ!」
慎一郎が高々と言って、五人は駆け始めた。
第五話 完
次回『第二席の死』




