旅の終着点
「あ、見て! 滋賀まで五キロだって」
響が、僕を抱えて走りながら、看板を見て弾んだ声で言う。
「さっきの戦闘で人は殺していないだろうな。ソウルイーター」
「刑事に手を出すと厄介だってのは学んだからな」
ソウルイーターは飄々とした調子で言う。
「そういうことじゃなくて、誰の魂も吸っちゃ駄目だ」
「しかし、俺の力の源はそれだよ。それともなにかい? 死刑囚が捕まっている刑務所でも襲えってか?」
僕は思わず黙り込む。
ソウルイーターは変わらない。
仲間になったと見えても、邪悪なままだ。
彼がこれからどれだけの被害を周囲に与えるか、予測できない。
病院でなにかがおきて、心を入れ替えてくれるといいのだが。
そして、僕達は滋賀に辿り着いた。
今回はスマートフォンの地図を使っていたので、ホテルに直行する。
泥だらけの服は着替えていたので、ホテルの従業員は僕らを快く迎え入れてくれた。
鍵を受け取り、三人で、部屋の前で集まる。
「とりあえず、睡眠をとろう。もう眠い」
そういうのはソウルイーターだ。
そうだ。しばらく僕らは長時間の睡眠をとっていないのだ。
「起きたら玄関に集合。病院を探すぞ」
そう言って、ソウルイーターは欠伸混じりに自分の部屋に入っていった。
「じゃあね」
響も微笑んでそう言って、自分の部屋に入る。
僕も、自分の部屋に入って、ベッドに寝転がった。
疲労が一気に吹き出してくる。
眠りに落ちる直前、妹はどうしているだろうかということが、一瞬脳裏をよぎった。
しかし、それは本当に、一瞬のことだった。
+++
翌日、僕らはそれぞれ散って、情報を集めた。
「おもい総合病院?」
学生服の少年が、怪訝な表情になる。
「知らないよ、そんな病院。他の市じゃないかな」
「けど、この市にあるって話なんだよ」
「ごめん、遅刻するから行くね」
道を行く誰に聞いてもこんな調子だ。
どうしたものだろう、と思う。
十二時になると、マクドナルドで集合した。
ハンバーガーを食べながら、三人で話し合う。
「こうなると情報が怪しくなってくるな……」
僕はもう弱気になっている。
「もしも私一人なら、私もそう考えたかもしれない」
「あっ……」
「けど、まったく別人で同じ境遇のソウルイーターが同じ病院名を探してこの地まで来た。そんな偶然、ありうると思う?」
「そうだなあ」
僕は立ち上がり、レジの中年女性に話を聞いてみることにした。
「すいません。おもい総合病院ってどこにあるか知りませんか」
中年女性は、目を丸くした。
「ああ。私も昔は結構お世話になったわ」
「昔は……?」
「知らないの?」
女性は、戸惑うように言った。
その口が、続きを紡ぐ。
+++
そして、僕らはついに辿り着いた。旅の終着点へ。
そこは、一面の更地。
病院は、既に潰れていた。
誰もなにも言えずに、その場で立ち尽くすしかなかった。
第九話 完
次回『最強の超越者は一般人を名乗る』




