東京侵攻作戦
「逃しました」
翠は下りてくると、電話で楓に連絡をしているようだった。
「クリエイターは?」
「子供達が撃破しました」
「そ。なら帰れるわね。超対室で待ち合わせとしましょう」
子供達は、戸惑ったような表情で目配せをし合う。
「あなた達も来なさい。他人事じゃないから」
そう言って、翠は歩いていく。
全員、その後についていった。
気分のいい夜だった。
慎一郎を筆頭に、お互いの健闘を称え合った。
ただ、不吉な言葉もあった。
「お母さん。あなたは一度に一箇所しか守れないって、どういう意味だったんだろう」
私は、翠に問う。
翠はしばらく黙っていたが、そのうち、拗ねたような口調で言い返した。
「言葉通りでしょう。他の県に移られたらここにはいられなくなる」
それだけの意味だろうか。
あの言葉には、もっと深い意味があったように思うのだ。
超対室に辿り着くと、皆、上機嫌だった。
楓が私達一人一人に、ジュースを投げる。
それを受け取って蓋を開けると、その中身を飲んだ。
「ご苦労様。あなた達デコボコチームもやるものね」
「全員の力あっての勝利です。俺だけでは、どうにもならなかった」
そう言ったのは、慎一郎だ。
「小豆を巻き込んだ件は根に持ってるわよ、私」
楓はそう言って微笑んだ。部屋の気温が、数度下がったような気がした。
「楓さん」
マグカップにコーヒーを入れた翠が、躊躇うように言う。
「敵は、他の位置を攻撃するような意志を示しました。そして、楓さんが最近よく口にする東京。なにか、隠しちゃいませんか」
そう言って、彼女はコーヒーを飲む。
楓はしばらく腕を組んでいたが、机の引き出しを開け、一枚の封筒を取り出した。
「青葉からの手紙よ」
その意味は私にはわからなかったが、翠にはよくわかったらしい。
コーヒーが喉を勢い良く通り過ぎる音が、響いた。
「こう書いてある。冬に、東京が攻められて壊滅状態になる、と」
「なら、私は東京に?」
「こうも書いてある。その後すぐ、古城跡地に太古の宮殿が蘇る。そこからゲートの権限を手に入れたミカが世界を牛耳るようになる、と」
翠は黙り込む。
「東京は首都八剣に任せようかとも思うの。大丈夫よね。第八席」
「はい」
勇気が元気良く返事をした。
「私達の仕事は、この地を守ることだ。歯がゆいことだけどね」
楓はそう言って、封筒を机にしまった。
話はここまで、という印に見えた。
沈黙が場に漂った。
第十話 完
次回第三十章大団円『守りたい場所のために』




