氷の人形
巨大な氷の人形が地面に手をついた。
その瞬間、氷が地面に広がった。
回避したのは私と勇気と右京。慎一郎と小豆は足を凍らされて身動きが取れずにいる。
私は指を振った。
炎が生まれ、慎一郎と小豆の拘束を解く。
「敵の核は頭部! 人間の脳と一緒!」
勇気が鋭い声で言う。
「それじゃあ一発いきましょうかね」
私はそう言って、火球を作り出すと、放った。
氷の人形は両手を交差させてそれを受けとめた。
(溶けろ、溶けろ、溶けろ)
そう、必死に念じる。
しかし、無情にも残ったのは相手の腕だった。
「アーティファクトの効果があっても駄目か」
舌打ちしたいような気分になる。
右京と慎一郎が九十九赤華を放つ。
しかし、それも氷の手に阻まれた。
「まずは腕だ!」
慎一郎が言う。
勇気が、一歩前へと踏み出した。
次の瞬間、彼女の体は宙空にあった。
「不条理の剣、応用、桜吹雪」
勇気の剣が幾重もの突きを放つ。
相手の剣を受けた箇所の破片が桜吹雪のように空中を舞っていく。
そして、相手の右は地面へと落ちた。
しかし、敵の腕は次の瞬間には再生を始めている。
「なあ、その不条理の剣ってなんだ?」
慎一郎が楓に駆け寄り、問う。
「条理を覆す剣。妄想を現実にする力。信じることによってそれを真実にしてしまう力」
そして、楓は、慎一郎の胸を叩く。
「あなたなら、できる」
慎一郎は目を丸くしたが、次の瞬間には覚悟の決まった表情になっていた。
「わかった。役割分担しよう。セレナは左腕を溶かしてくれ。勇気は右腕を断ってくれ。小豆は敵の頭部に続く階段を。右京は俺についてきてくれ」
各々、頷く。
やれるかどうかではない。やるしかないのだ。
敵が覆いかぶさってきた。
勇気がその右腕を断つ。
私は、全身の力を込めて、炎を放った。
「獄炎!」
相手の左腕が蒸発する。
そして、小豆は開いた手を握り、敵の頭部に向かう氷の階段を作り上げていた。
慎一郎と右京が突進する。
「不条理の剣、応用!」
慎一郎が叫ぶ。
「東雲流奥義、九十九赤華!」
剣が歪み、伸びる。それは相手の頭をみじん切りにしていた。
しかし、肝心の核が僅かなダメージで残っている。
右京の剣が、それを貫いた。
氷の人形は、まるで風に吹かれた砂のように地上から消えていった。
小豆が慎一郎を抱き上げ、氷の階段をどこまでも伸ばしていく。
「ねえ、飛んでいるみたいでしょう?」
小豆は上機嫌に言う。
「正味、ちょっと怖い」
慎一郎が困ったように言う。
「ロマンのない男だねえ」
そう言って小豆は苦笑すると、地面へ繋がる階段を作って移動し始めた。
+++
上空で、クリエイターは全てを見ていた。
自信のこもった作品も、それが倒される様も。
怒りで顔が真っ赤になる。
あれは、自分の人生の中でも一、二を争う出来栄えだった。
その胸に、剣が突き刺さった。
熱が胸からこぼれ落ち、唖然として傷口を触る。
「子供達の訓練にはなったわ。ありがとう、クリエイター」
「天衣無縫……!」
剣を引き抜き、氷の剣を使って迎撃しようとする。
しかし、その時には失血で前も見えなくなっていた。
体が落下していく。
そして、クリエイターは地面に落ちて首の骨を折った。
第八話 完
次回『あなたは一箇所しか守れない』




