東京への派兵
翌日、私達は警察署に呼び出された。
超対室の部屋に案内されると、楓の前に並ぶ。
楓は誇らしそうな、困ったような、複雑な表情をしていた。
「クリエイターをあと一歩まで追い詰めたらしいね」
「はい」
慎一郎は、誇らしげに言う。
「こんなことを言うと依怙贔屓だけど、小豆は巻き込んでほしくなかったな」
楓は、そうしみじみとした口調で言う。
「本当依怙贔屓だわ」
小豆は憤慨したように言う。
「依然この町は危険に晒されてるのよ。それが、力があってなにもしないなんて、私にはできない」
楓はしばし寂しげに微笑んで、考え込むような表情になる。
「私達のこと、知っていたんですか?」
私の問いに、楓は頷く。
「県南は手薄だったし、県北は止めてくれと言わんばかりの派手さだったからね。誰かが処理した形跡があるとは聞いていた。だから、天衣無縫を県南に配置した」
「県北の状況はどうですか?」
「惨事ね。死者も多少出ている」
私は周囲の気温が数度下がったような気分になった。
死者が出ている。
私達が死ななかったのも、運が良かっただけだ。
「それで、俺達は夜間外出禁止ですか?」
慎一郎が、責めるような口調で言う。
楓は、ペンをしばらく振っていたが、そのうちその動きが止まった。
「今まで通りでいいわ」
予想外の返答だったのだろう。慎一郎は黙り込んだ。
「東京に援軍を送らなければならないかもしれない。手駒不足だったけれどあなた達でその手駒が埋まるかもしれない」
楓はペンを手の上で一回転させる。
「実戦に勝る経験はないわ。全員、生きて帰って」
楓は苦笑して言葉を続けた。
「小豆は家にいてほしいんだけどね」
「それこそ依怙贔屓だ」
小豆は不服げにそう言う。
「そんなことのためにスキルを与えたわけじゃないのよ。相馬はまだ納得してない」
小豆は、言い訳をしようと一度大きく口を開けたが、大人しく閉じた。
「東京に援軍って、なにかあるんですか?」
勇気が、戸惑うように問う。
「そうねえ」
楓は手の上でペンを数回、回転させる。
「数ヶ月内」
楓は、ぽつりと呟くように話し始めた。
「東京は火に包まれるわ。ミカの手によって」
その言葉に、私達は絶句した。
「それを止めるのも私の仕事だ。各県からの援軍の手順も進められている。というわけで」
楓は微笑んだ。威圧感のある微笑みだった。
「東京出張の準備をしといてね」
おかしな話になってきたなあと私は思った。
思ったけど、思った時にはもう手遅れになっていたのかもしれない。
第六話 完
次回『セレナと翠』




