小豆とセレナ
小豆がセレナに呼び出しを受けたのは、金曜日の深夜徘徊の影響で土曜の昼に起きた後のことだった。
相手も、昼まで寝ていたと苦笑交じりに語っていた。
二人で喫茶店に入る。
そして、紅茶とコーヒーを注文して、向かい合った。
「今回の件、どう思う?」
セレナは深刻な口調でそう言う。
「県北はフェイクだね」
小豆は、淡々とした口調で言った。
「やっぱそう見るか」
セレナは頬杖をついて、小さく吐息を漏らす。
そして、言葉を続けた。
「私達が相手をしているのは、多分敵の本命だ。この先、少なからず危険と相対する羽目になる。雑魚はどうにでもなるけど、クリエイターが相手になるとしたら少々しんどい」
「あなたでも弱音を吐くのね」
「冷静な分析だと思っているよ」
中々にセレナはクレバーだ。
「勇気さんと右京さんがいてくれたのは僥倖だった。氷塊の足止めをしてくれるあなたも」
セレナは淡々とした口調で言う。
「気づけば必要なメンバーが揃っている。これも、スキル『主人公』の成せる技なのかしらね」
セレナの口調に、呆れの響きが混じった。
小豆は苦笑して、運ばれてきた紅茶に口をつける。
「私は楽しいよ。スキルの使い所を見つけたって感じで。親を裏切る形になるのが心苦しいけど」
「小豆ちゃんは養子だもんね。それを言ったら私も養子だけど」
「そうなの?」
「っそ」
セレナは淡々とした口調で言う。
「義母には頭が上がらないわ。多分、今回の件もわかってもらえないと思う。けど、私は経験を積みたい」
「うん。実戦の経験はイメージトレーニングなんて目じゃないほどのものを与えてくれる」
「お互い親を裏切る形になるね」
セレナが躊躇うように言って、コーヒーを飲む。
「それを言われると心苦しいなあ」
小豆は苦い顔で言う。
このセレナという少女。背を押しにきたのか引き返すように促しにきたのかわからない。
きっと、彼女自身もわかっていないのだと思う。
彼女も、答えが見えていないのだ。
「話せてよかったわ。ここのお代は私が持つから」
そう言って、セレナは伝票を取る。
「この夜歩き、終わるかしら?」
小豆はぼやくように言う。
「本体を見つけたら……多分慎一郎達もそれを念頭に動いていると思う」
「なるほどね」
しかし、慎重な敵だ。最初の一体を作ったら、残りの増殖はその一体に任せる。
しかもそれは、成功すれば数百の下僕を手に入れられるのだ。
クリエイター。
厄介な敵に思えた。
「じゃ、いくから」
「うん」
小豆とセレナのお茶会は、こうして終わった。
第三話 完
次回『クリエイター』




