金髪の少女
金髪の少女、小豆の朝は早い。
五時頃に起きて、スキルの使い方を義母の楓に叩き込まれる。
「いい? 氷は変幻自在よ。壁にも足止めにも盾にもなる。そのどれが適切かを敵とのやり取りの中で見出していくの」
この楓の氷というのが反則技なのだ。
スキルキャンセル効果を持ち、あらゆるスキルを飲み込む。
義母のようにはなれないだろうな、としみじみ思う。
自分は二線級だ。
しかし、それでもいいと思っていた。
慎一郎から電話がくるまでは。
その夜も、慎一郎から電話がきた。
地元の地図を開き、大体の場所に検討をつけてから家をこっそり抜け出る。
「小豆お姉ちゃん出かけるの……?」
妹の有栖に見つかった。
「こんな時間に起きてちゃ駄目よ。寝なさい」
そう言って、頭を撫でる。
「私はちょっとジュースを買ってくるから」
そう言って帽子を目深にかぶると、家を抜け出した。
招集場所の公園では、氷が増えているところだった。
今日は二体。三体目を作ろうと、二体が協力して氷の息を吐いている。
見ていてゲンナリするような光景だ。
「これ、討ち漏らしがあったらヤバくない?」
慎一郎に尋ねる。
「ヤバいな」
慎一郎は淡々とした口調で言う。
「一線級の人々に任せるべきじゃないかな」
「いや、それがだな。一線級の人々は県北を重点的に見ているそうなんだ。実際そっちの被害は多いらしい」
「つまり、こいつらは余り物ってわけか」
小豆は頭を抱えたい気持ちでそう言っていた。
セレナが無言で手を前へと差し出す。
巨大な火球が浮かび上がった。
セレナのこの力。尋常なものではない。
「二線級なんてとんでもないわね。一線級だ」
小豆が氷塊の足元を凍らせ、敵を逃げられないようにしつつぼやくように言うと、セレナは照れくさげに微笑んだ。
「脳ある鷹は爪を隠すってね」
そう言うと、火球は放たれた。
氷の塊二体は蒸発して消え去る。
そこに、勇気と右京の追撃があった。
核の破壊だ。
慎一郎はまだ核の位置がわからないようで、二人の動きを凝視していた。
二人は抜刀し、虚空を斬る。
そして、ひとまずはこの場の敵は排除された。
「んじゃ、帰ろうか」
セレナが淡々とした口調で言う。
「ん?」
慎一郎が戸惑うように言う。
「敵探しだろ? 倒し残しがあったら大惨事だ」
「大人を頼った方がいいんじゃないかなあ」
右京がとぼけた調子で言う。
「俺達には実戦訓練が必要だ。いつ呼び出されてもいいように」
「まあそういうことなら付き合いますよ」
勇気が、淡々とした口調で言う。
「丁度、自分のサーチ能力の精度を試したかったところだ」
そう言って、勇気は歩き始める。
その後に並んで、皆歩き始めた。
金髪の少女、小豆の長い夜はまだまだ終わりそうにない。
+++
その日は四時に解散だった。
私は家に帰り、朝食の準備をする。
夜勤を終えた翠が帰ってきて、私を抱きしめる。
「うーん、我が家の匂い」
そう言うと、翠はソファーに寝転がって、寝入った。
「ねえ」
不意打ちに声をかけられて、私はどきりとした。
「なんか隠してない?」
「なんにも?」
緩い調子で言う。
しかし、脈拍が早くなるのを感じるのだった。
第二話 完
次回『小豆とセレナ』




