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ソウルキャッチャーズ~私は一般人でいたいのだ~  作者: 熊出
第二十九章 恋喰う肉塊
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目撃証言

 楓は、それを目撃していた。

 地を這う肉塊。今は車よりも随分と大きくなっている。


 その時、電話が入った。


「アラタくんが完治したので、ペアで肉塊を探そうと思います」


 翠だった。


「それには及ばないわ。相馬、私を地面におろして」


 相馬は指示に従い、地面に下りる。


「錦町三丁目の牛丼屋ってわかる?」


「ええ、わかります」


「そこにワープしてきて」


「了解」


 アラタと響を連れた翠が空中に出現し、ゆっくりと下りてくる。


「敵を目視した。空を飛んでいきましょう」


 各々頷いて、再び上空へと飛ぶ。


「あそこよ」


 そう言って、楓は指差す。

 人気のない畑道だった。


「アイスブリッド!」


 そう言って、相馬が銃弾を放ち、相手を氷で包んで移動を制限する。

 そして、相馬を除く四人はその場に下り立った。


「冷たいいい」


「助けてくれ、凍傷になっちまう」


「これ以上苦しいのは嫌ぁ……」


 肉塊の中から複数人の悲鳴が上がる。

 そして、その体から触手が勢い良く伸び始めた。


 響は炎の壁を展開し、それを防ぐ。


「アチッ、アチチチ」


「なによ今度はぁ」


「痛いよ。苦しいよ」


「さて」


 楓は腕まくりする。


「もう少し我慢してもらおうか。頼むぜ、天衣無縫、王剣」


 翠とアラタは頷いた。



+++



 私は炎の防壁を展開していた。

 それだけで十分だと判断したのだ。

 人質を取られている以上、炎の力で敵を焼くことはできない。


「フォルムチェンジ!」


 病衣だったアラタが、その一言で白いフルフェイスヘルメットにスーツ姿の勇ましい姿になる。

 手には、剣があった。

 毒も治癒しているらしい。しっかり両足をついて立っている。


「翠さん。考えがあるので、最初は手を出さないでもらってもいいですか」


 アラタの言葉に、翠は一瞬迷ったようだが、頷いた。


「ん、信じる」


 アラタは肉塊に向かって、駆けていった。

 複数の触手がアラタを襲う。しかし、無駄だ。

 王剣アラタ。首都五席に数えられる彼に、そんな攻撃はスローに見えるだろう。


「見せろ、お前の奥の手を!」


 その時だった。アラタの体が氷漬けになった。

 触手が氷に纏わりつき、吸収しようと引きずっていく。


「危なかったわ」


 その場には、いつしかミカが現れていた。


「ミィィィカァァァァァァァァ」


 翠はアラタを捕らえる氷を炎でかき消すと、ミカに突進した。

 そして、空中で互いの両手をがっしりと掴み合う。

 骨の折れる、嫌な音がした。


「あらあら。肉弾戦なら鬼の力を持つあなたの方が有利ね」


「また企んだな。何度企む。お前の悪意で何人の人間が泣いてきた!」


「私は数百年寝てたのよ? 割合的には普通の人間が人を泣かす方が多いんじゃないかしら」


「ここで因縁を断つ!」


 敵と味方のトップ同士の戦い。私は息を呑む。

 その時、アラタは触手を断ち切り、上がる悲鳴も気にせずに肉塊に近付きつつあった。


 肉塊の、蓋が開いた。

 その中で手足を拘束されている一人に、私の目は吸い寄せられた。


「俊介……?」


「おお、響」


 俊介は、千年ぶりに恋人に会えたような至福の表情を見せた。


「阻むことなんてない。お前も一緒に来いよ。一つになることは、とても心地良い……喧嘩も起きない」


 俊介と私の道が違ったと、今、確信を持って言えた。


「そんな関係は嫌。私は喧嘩をしても、話し合って、本当の意味で一つになっていきたい。自立した人間として、愛する人と、共に高めあいたい」


「ってわけだ」


 アラタがそう言って、跳躍した。


「不条理の力、応用。外切り!」


 そう言ってアラタが空中で剣を振ると、肉塊の蓋がばらばらに切り刻まれて地面へと落ちていった。囚われていた人達には傷一つない。肉塊だけを斬ったのだろう。

 その瞬間、私は寂しくなった。

 昔のアラタなら、そんな芸当はできなかった。

 首都八剣五席。これが、今の遠野アラタ。

 その姿が、遠くに見えた。


(負けるか)


 私は意を決して、炎の壁を解いた。

 ミカが肉塊に向かって飛ぼうとし、翠にヘッドバッドをされる。


「くっ、この馬鹿力……」


「あなたの野望そのものも今日までになりそうね」


 翠には余裕すら漂っている。


「獄炎!」


 そう私が唱えると、肉塊は焦げ屑と化した。


「……作戦失敗か」


 つまらなさげにミカは言うと、自らの手を空から降らした鉈で断った。

 翠から離れたその腕が、斬られた先から再生していく。


「また、遊びましょう。次はもっと手強い敵を用意するから」


 そう妖しく微笑むと、ミカはその場から消えた。

 翠が突進していたが、一歩届かなかった。


 私は倒れている俊介に近づく。


「大丈夫? 俊介」


「なあ、一つになろうぜ……」


 その頭が、アラタの持つ剣の柄で地面に叩き付けられた。


「この女は俺の彼女だ。失せろ」


 聞いていたのかいないのか。俊介の意識は失われたようだった。

 こうして、奇妙な肉塊事件は幕を閉じたのだった。



第十話 完

次回二十九章最終回『永遠に続くような日常の中で』

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